第20話
――そろそろ落ち着いただろうかとイラホン様から身体を離してみると、イラホン様は先程よりかは冷静な表情になっているようだった。
けれどチラリと見てみると、カティ様はまだ顔を青くしながら震えていらっしゃる……また部屋はカオスな状態になっていた。
そんな中、あっけらかんとした声が割って入ってくる。
「いや~、アルサちゃんが無事で良かった。カティ、いくら拗ねてるからってやりすぎだよ~。イラホンも、神使を止めて偉かったね~」
全員に声を掛けながら、カティ様の頭を少しだけ叩くバハロン様。
「いたっ! なにするのよ!」
「それくらいで済んで、ありがたいと思いなよ~」
さっきと変わらない笑顔でいてくれるバハロン様、小突かれたことに文句を言うカティ様……少しだけさっきのような空気に戻って、場が和んだように思う。
「……全くだ」
イラホン様も呆れた様子ではあるが、先程のように二人の会話に混ざっていた。
良かった……何とか穏やかな空気に戻った。
私のせいであんなに仲の良かった三人の関係性にヒビが入ったらどうしようかと思ったが、事なきを得て本当に良かった。
バハロン様のおかげだなと思い、ちらっと彼の方を見やると……ぱちんっとウィンクを頂いて、掴みどころのない方だなと少しだけ笑ってしまった。
するとイラホン様が不満そうに私の顔を覗き込んでいて、ハッと気が付いた私は慌てて何もないことを伝える。
そんな風に少しだけギャイギャイと騒いでいたら、あっという間に二人が帰る時間がやってきた。
玄関先までイラホン様と一緒に見送る。
何となく……離れがたくて腕を絡ませていると、イラホン様は嬉しそうな微笑みを返してくれて私まで嬉しくなった。
「じゃ~、お邪魔しました。二人共、お幸せにね~」
帰るときにも、バハロン様の調子は変わらなかった。
イラホン様はあぁとそっけない返事を返すだけだったが、私は色々な意味を含めてありがとうございますと感謝を伝えた。
ちらっとカティ様の方を見ると、ふいっと顔を背けられてしまった。
バハロン様は掴みどころはないものの、良いお付き合いができそうだけれど……カティ様とは難しそうだなと私は半ば諦め気味に笑う。
するとカティ様は、ビッとこちらに人差し指を突きつけてきた。
突然のことにビクッとしていると、イラホン様がかばうように少しだけ前に出てくれた。
その行動自体は嬉しかったのだけれど……カティ様からは敵意こそ感じるけど、先程のような殺気は感じなかった。
「……から」
少しだけ俯き気味に、カティ様は何かを呟く。
けれど小さな声で聞き取れず、聞き返すと彼女はまたバッと勢いよく顔を上げた。
「私は認めないから! イラホンと結婚するのは、私なんだから!」
そう叫ぶように宣言された。
バハロン様は吹き出していたけど、イラホン様はまだ言うかとげんなりしたご様子だった。
思ったことをそのまま口に出して、失敗にもめげず行動に移す彼女のことが……羨ましいなと思った私は、少しだけ彼女の真似をしてみることにした。
「……イラホン様の妻は、私です」
ニッコリと微笑みながらそう答える。
バハロン様はおぉっと、嬉しそうな表情をしていた。
イラホン様に至っては目を見開いて顔を赤らめ、それを手で覆って隠すようにしながらも嬉しそうに照れている。
カティ様はもはや文句が言葉にならないようで、懸命に何かを叫んでいたけれど聞き取れなかった。
バハロン様はそんなカティ様をひっつかんで、引きずるようにしながら去っていった。
しばらく歩いてから、シュンッとあっという間に二人の姿が消えて、神様の移動は便利だなと思う。
ちらりとイラホン様の方を見てみると、まだ嬉しそうに照れている状態だった。
そんなイラホン様を、マラクは少し離れたい位置から引き気味に見ている。
その光景がいつも通りで、なんだか可笑しくてふっと笑みがこぼれてしまった。
「……楽しいご友神でしたね」
私がにっこりと微笑みながらそう言うと、イラホン様はまた驚いた表情をしていた。
けれどすぐにニッコリと微笑みを返してくれた。
「……まあね」
多くは語らなかったけど、どんなことがあっても三人が仲の良い友神であることには変わらないのだろうと思うと、羨ましいし微笑ましかった。
関係が壊れることなく終わって、本当に良かった。
そう思いながら、イラホン様に腕を絡ませたまま屋敷へと戻る。
そして入り口で待っていてくれたマラクに先程は助けようとしてくれてありがとうと伝えると、彼女も驚きながらも照れたような表情を見せてくれて嬉しかった。




