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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第15話

 カーフィンに妻になってほしいと言われて、驚きはしたが……自分の中で、すでに答えは決まっていた。


 だから心の中にある想いをそのまま伝えようとしたところで、ふいに肩に優しい手が置かれる気配がした。


「神の妻を口説くとは……とんだ不届き者がいたものだな」


「……! イラホン様」


 振り返ってみると、そこにはいつの間にかイラホン様が立っていた。


 ……けれど今までに見たことがないほど、その表情は怒りに満ちていて、思わず身がすくむ。


 私が萎縮していることに気が付いたのか、イラホン様は困ったような優しい笑みを浮かべながら、私の頬に手を寄せた。


「……遅くなってごめんね」


 そう謝るイラホン様はいつもの彼と同じように見えたけれど、カーフィンの方に向き直ると、その表情はまた氷のように冷たくなっていた。


「……あんたが神か」


 イラホン様の敵意が伝わっているのか、カーフィンも表情を固くしている。


「いかにも。貴様は神父の息子だな」


 そう言いながら、イラホン様はソファに座っている私の隣まで歩いてきて腰を下ろす。


 部屋にはすっかり一触即発な空気が広がっている。


 神に対して失礼な言動をするカーフィンを諌めるべきか、なぜか苛立っていらっしゃる様子のイラホン様に事情を尋ねるべきか……何も言えずに悩んでいると、カーフィンが先に口を開いた。


「……はい、自分は貴方様に仕えさせていただいております神父が息子、カーフィンと申します。お目にかかれて、光栄に存じます」


 まさかケンカになりはしないだろうかと不安に思っていたが、予想外にカーフィンは椅子から離れて跪き、失礼のないように言葉を選んで話しかけているようだった。


「……あぁ、カーフィン。貴様も時折、教会の仕事を手伝っているようだな。ご苦労」


「もったいないお言葉」


 イラホン様も鋭い目つきに変化はないが、カーフィンのことを労うような発言をしている。


 ふたりともお互いに思うところはありそうだが、神父の息子・神としてそれなりの対応をしようとしているように見えた。


 けれど……二人の間に火花が散っているように見えるのは、私だけだろうか。


「時にイラホン様、こちらの方を妻にされたというのは真でしょうか?」


 私が何も出来ずに二人の言い合いを見守っていると、唐突にカーフィンが私の話をしてきた。


 びっくりしていると、イラホン様は先程よりも眉間にシワを寄せ、不機嫌そうにカーフィンを睨みつけている。


「そうだ。彼女は我が妻だ」


 そう言いながら、イラホン様は私の腰をグイッと自分に引き寄せるようにした。


 それにも驚いて、思わず赤面する頬を隠す。


 カーフィンに見られた……恥ずかしい……と思って彼の方を見ると、カーフィンはどこか悲しそうな苦しそうな顔をしていた。


 大丈夫だろうかと心配していると、カーフィンがゆっくりと口を開いた。


「お戯れを……たかが人間を妻にするなど。イラホン様には、もっとふさわしい存在が別にいらっしゃるかと」


 カーフィンがそういった瞬間、空気に亀裂が入ったのかと思うほどピリついたのを肌で感じた。


 お顔を見なくても分かる。


 これは……イラホン様が、今まで以上に怒っていらっしゃる。


「……その#たかが人間__・__#が、我が妻を愚弄するつもりか?」


 私はもう怖くてしょうがない。


 それでもカーフィンは引かない。


「滅相もございません。ただ人間は弱い存在です……貴方様にとってはほんの戯れでも、彼女にとっては一生を左右する出来事になるのです。どうか……どうか彼女のことは自分に任せて、解放してあげてください」


 そういうと、カーフィンは私のためにバッと頭を下げてくれていた。


「……人間界にいた彼女を救えなかった貴様に、神の妻になった彼女を幸せにできるとでも思っているのか?」


 けれどイラホン様は、冷たい声でそう言い放つ。


 一瞬、カーフィンの身体がピクッと震えたような気がしたが……彼からの返事はなかった。


「話にならんな。アルサ、今日は帰ろう」


 彼に冷たく言い放って立ち上がり、私には甘い声で優しくそう促すイラホン様。


 その二面性に戸惑いながらも、立ち上がりつつカーフィンの方を見やると、彼も顔を上げてこちらを見ていた。


 悔しそうな、悲しそうな……何もできない自分を恥じているような、そんな顔。


 少し前の私と、似たような顔。


 ピレドラに戻る時特有の感覚がすでに身体にあったが、その前にと……思わず声を掛けてしまった。


「カーフィン! 私、自分の意思でイラホン様の妻になったの。だから……心配しないで! それと、私のことを見ていてくれて、ありがとう!」


 早口でなんとか言い切った頃、私の身体はイラホン様と共にピレドラにあるいつもの屋敷へと戻っていた。

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