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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第14話

 別室に連れてこられた私は、どうすれば良いのか分からなくて身体を縮こませながら困惑するしかない。


 そんな私に、カーフィンは申し訳無さそうに声を掛けてきた。


「無理やり連れてきちゃってごめん。ただどういうことなのか、説明してほしくて……」


 良かったら座ってと、ソファの方へと促してもらったので大人しくその指示に従う。


 カーフィンもソファの前にあった椅子に腰を下ろして、私のことをじっと見据えていた。


「アルサの姿が俺にしか見えないって……どういうこと?」


 困惑しながらも、真剣な眼差しで尋ねてくるカーフィン。


 その姿を見てしまっては、ごまかすわけにもいかないなと思って、ふぅ……とため息にも似た吐息を漏らしてから、私は説明を始めた。


「私は元々人間でしたが、今はこの教会に御わす神様のもとへ嫁いで神の妻になっています。なので本来であれば、人間であるあなたには私の姿は見えていないはずです」


 カーフィンはぽかん……と口を開け、あまりの衝撃に呆然としているようだった。


「なぜカーフィンにだけ私の姿が見えているのかは分からないのですが、カーフィンには理由が分かりますか?」


 そう尋ねてみたが、彼はかくんっと頭を落とすように項垂れて固まっていた。


 まぁ……突然こんなことを言われても、信じられないのも無理はないわよね。


 私だってイラホン様の声を聞いた時、姿を見た時、妻になってほしいと言われた時は動揺したし……ここはカーフィンの中で情報が整理できるまで、待ったほうが良いわね。


「……なんで、アルサは神の妻になったの?」


 しばらくすると項垂れたままのカーフィンは、絞り出すような声で尋ねてきた。


 なんで……と問われると、すぐに言葉を返すことができなかった。


 イラホン様の妻になった経緯を説明するには、私の家族について話さなければならないだろう。


 けれど、悪い人ではなさそうではあるけど……出会ったばかりの人に家族のこと、過去のことを話すのは憚られた。


 私はもうイラホン様の妻であるアルサだから……アルサイーダ・ムシバだったときのことを、好んで他人に話したくなんてない。


 けれど質問に答えないのも、それはそれでカーフィンに申し訳ない気がしてしまった。


 彼は真剣に私の話を聞いてくれて、その上で質問をしてくれている。


 その誠意に私も答えたいと思ってしまう。


「そ、れは……私が不幸で、神様が妻にと望んでくださったから……」


 精一杯言葉を選んで、嘘偽りなく答えたつもりだけど……その答えが不十分であることは、自分でも何となく分かっていた。


 でも今の私には、こう答えるのが精一杯だった。


 しばらく気まずい沈黙の時が流れたかと思うと、カーフィンは勢いよく顔を上げた。


 その顔は最初に声を掛けてくれた時と同じように少し赤みを帯びていて、活力を取り戻しているようだった。


「じゃあ……俺が幸せにするから、お、俺の奥さんになってよ!」


 安心したのも束の間、カーフィンが叫びだすようにそう言ってきた。


「……え?」


 言われた意味が理解できなくて、今度は私がぽかん……としてしまった。


 少しずつカーフィンの言葉を理解した時、冗談だろうと思ったけど……カーフィンの表情は真剣そのものだった。


「不幸だったのなら俺が幸せにする! 学校を辞めて、親父のあとを継いで働くよ!」


 まだ学生のはずなのに、何か覚悟を決めた表情をしているように感じる。


「あ、あの……」


 言葉を返そうとするが、カーフィンは必死な様子で言葉を続ける。


「俺、俺……ずっとアルサのこと見てて、でも声がかけられなくて……不幸だったなんて知らなかった。でも、俺が幸せにするから、だから、俺の奥さんになってください!」


 そう言ったかと思うと、今度はバッと頭を下げきた。


 すごい勢いの言葉の波と動きに呆然としていると……カーフィンの身体が、かすかに震えていることに気が付いた。


 どんな表情をしているのかは分からないが、よく見てみれば耳も真っ赤に染まっている。


 勇気を振り絞って言ってくれたのかと思うと、私もなんと声をかければ良いのか分からなくなって戸惑ってしまった。


 ずっと見ていた。


 前はその言葉を聞くと、じゃあなんで助けてくれなかったんだと汚い想いでいっぱいになっていたけれど、今なら分かる。


 言わなければ、誰にも伝わるわけなどないのだと。


 それを分かっているからこそ、本音をぶつけてきてくれるカーフィンのことは純粋にすごいなと尊敬してしまう。


 ……もし、イラホン様の妻にしていただく前にこの言葉を聞いていたら、私はその言葉に縋っていたのだろうか。


 そんな風に、ぼんやりと目の前にいる彼を眺めていた。

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