第12話
心を温かくするものが何なのか不思議に思っていると、イラホン様は笑顔で顔を覗き込むようにしてきて驚いた。
「……分かってくれた?」
イラホン様は嬉しそうにたずねてくるが、何のことか分からずに困惑する。
でも驚いたおかげで、少しだけ涙が引っ込んだ気がする。
まだ気を抜くと涙が出てきそうだが、少しだけ落ち着き始めた。
「アルサは俺の役にめちゃくちゃ立ってくれているし、さっきの彼もアルサのおかげで感謝して去っていったんだ。だから誇っても良いんだよ」
そう言われ、また涙が出てくるかと思ったけど……出なかった。
驚きのあまり出なかったというのもあるかもしれないけど、それ以上に嬉しさ・誇らしさの方が強かったように感じた。
自分を誇るなんて、したことがない。
でも役立たずだと、価値がないと言われていた私が……誰かの役に立っていた。
困惑も確かにあるけど、それ以上に嬉しかった。
だから自然と、言葉がこぼれだすように出てきた。
「……ありがとうございます。お役に立てて良かったです」
私がそう言うと、イラホン様は目を見開いて驚いた様子だった。
宝石のようにキラキラとしている淡い水色の瞳が、こぼれ落ちてしまうのではないかと思うほど大きく目を見開かれていて、どうしたのだろうと見てみると瞳の中に私が写り込んでいた。
口角が上がっている……笑っている私。
「……!」
イラホン様と同じように、私もそれを見て固まってしまった。
笑顔なんて、した記憶がない。
実家では笑っているのは家族だけで、私はただ無表情でいるだけだったから……自分が笑っていることに驚きが止まらない。
頬に手を添えると、たしかに口角が上がっている。
今度はイラホン様の瞳を見つめて、意識的にニコッと微笑んでみる。
イラホン様の瞳に映る自分を見てみるが、まだ実感がわかなくて……映っているのが本当に自分なのだろうかと疑わしく思ってしまう。
でももう一度頬を触って確かめてみると、私が本当に笑っていることが分かった。
喜びのあまりイラホン様に声をかけようとすると、急に背中に腕を回され、彼の腕の中にグイッと抱き寄せられた。
「イ、イラホン様!?」
突然のことに驚いていると、イラホン様はプルプルと震えているようだった。
どうしたのか分からず困惑するしかできず、手持ち無沙汰な手を上下する。
パニックを起こしている片隅で、妻になってほしいと言われた時の状況と似ているなと冷静に思っている私もいた。
「……アルサ」
やっとイラホン様が口を開いてくれたが、耳元で名前を囁かれたせいか、顔が爆発するかと思うぐらい熱くなった。
は、恥ずかしい……!
見えていないとはいえ、教会にはたくさんの人がいるし……突然抱きしめられるなんて、どうすれば良いのか分からない。
どうすることも出来ずに困惑していると、イラホン様が私の肩を掴んで、俯きながらゆっくりと離れていった。
まだ小刻みに震えているようだけど……状況がつかめず、されるがままにするしかない。
「……もう! 笑顔も可愛すぎだよ、アルサ!」
すると、突然イラホン様が叫ぶようにそう言い放った。
見てみるとイラホン様の美しい顔が耳まで真っ赤で、淡い水色の瞳にも赤みが入っているように見える。
「もう、もう、もう!」
かと思うと、また言葉にならない叫び声を上げながらグイッと抱きしめられた。
言われた言葉を理解した頃には、私の顔も赤くなっていたように感じた。
か、かわいいって言われたし……イラホン様のあんな表情は初めて見た。
頬を赤く染めているのは見たことがあるけど、あそこまで真っ赤になっているのは初めてだ。
あんな表情もなさるのか……し、心臓に悪い。
かと思うと、イラホン様はスリッと頬を寄せるようにさらに抱きしめてくる。
「……嬉しい」
そして心の底から嬉しそうに、そう呟いていた。
この御方は、私が笑っただけでこんなにも喜んでくれるのかと驚くと共に、私も嬉しくなってしまった。
言葉に出すのは恥ずかしすぎて無理だけれど……これくらいは許されるのではないだろうか。
私は抱きしめているイラホン様の背中に、そっと腕を添えた。
「……!」
イラホン様がピクッと反応していて、嫌だっただろうかと不安になったが……背中に添えた手は離さないように努める。
「えへへ……今日はいろんなアルサが見られて嬉しい」
イラホン様はまた嬉しそうな声でそう漏らし、頬をスリスリと寄せてくれた。
私も初めてのことばかりで恥ずかしいし、ドキドキが止まらないけれど……自分を受け入れられたことがただただ嬉しかった。




