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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第10話

 何人目かの祈りを聞いて、イラホン様がパワーを与える光景を……私はただ呆然と、あまりにも神々しい描写に目が離せずにいた。


 そうしている内に、教会が開かれてから一気に来ていた人たちの波も落ち着いてきた。


「ふー……とりあえず一段落ついたかな。アルサは大丈夫? 疲れていない?」


 イラホン様はぐっと身体を伸ばしながら、私のことを気にかけてくれる。


「いえ、私は何もしておりませんから……」


 けれど私はどこかぼんやりとしていて、俯き加減に気のない返事しかできなかった。


 感じが悪いと自分でも思ったけれど、どうしてもイラホン様のお顔をちゃんと見ることができなくて……グッと押し黙ることしか出来ない。


 私は今まで、今日来た人たちのように真剣に祈ったことがなかった。


 だからイラホン様も私の願いを聞けなかったし、パワーを分け与えることもできず……ただ見ていることしかできなかったのだろう。


 ……私はずっと神様なんていないと思いながら、家族から虐げられる日常を心のどこかで#しょうがないこと__・__#だと、諦めて受け入れていたのかも知れない。


 さっきまでの光景を見ていると、そう思わざるをえなかった。


 私は他者の役に立てないだけでなく、自分の役にすら立てていなかったのか……。


「……じゃあ、アルサもやってみる?」


 俯いて考え込んでいる私に、イラホン様の明るい声が飛び込んできた。


 驚いて恐る恐る顔をあげてみると、彼はいつものようにニコッと笑顔を浮かべてくれていた。


「で、でも……私にはそんな力……」


 ハッとしてしどろもどろになりながらそう答えると、イラホン様は私のおでこにトンっと指を置いて笑っていた。


「誓いのキスをした時、アルサには俺の加護を与えているからできるよ」


 おでこにキスをされたことを思い出して赤面しながら、私の知らぬまにそんなことになっていたんて……と驚くばかりだった。


 そうこうしている内に、一人の人間が十字架の前までやってきた。


「あっ、ほら。早速やってみてごらん。人間に手をかざして、パワーを分け与えようと思うだけでできるから」


 イラホン様は一気に説明すると、ニコニコと私の動きを待っているようだった。


 目の前の人も、もう祈りのポーズをしていたので……私は緊張しながらも、彼の祈りに耳を傾けることにした。


『仕事のミスを、同僚から押し付けられました。雇い主の旦那は俺を役立たず、クビだと罵倒してきて……でも俺は口下手で何も言い返せなくて、俺はどうすれば良かったのでしょうか』


 思いがけない祈りに、身体が硬直する。


 自分のミスを私に押し付けては陰ながらニヤニヤ見ていた妹、役立たずと私を罵る父親、何も言い返せない自分が……すぐに頭の中に思い浮かぶ。


 あぁ……いつもの光景だ。


「――大丈夫だよ。さっ、彼の背中を押してあげて」


 そんな私を覗き込むようにしながら、穏やかな微笑みを浮かべているイラホン様が優しく手を取ってくれた。


 イラホン様の手から温かい体温が感じられて、イヤな思い出がざぁっと去っていくのを感じる。


 私の目の前には、懺悔とも願いともつかない祈りを捧げている人だけ。


 私は手を祈る彼に向け、パワーを分け与えるイメージをする。


 そして、自分が言ってもらいたかった言葉を彼に贈ることにした。


「あ、あなたは悪くありません……そんな奴ら、こっちから捨ててしまいなさい! そして今度似たようなことがあったら、今度こそ言い返してやりましょう!」


 ぽわっと手のひらに灯りが点って、彼に何かを与えられたのを感じる。


 すると彼はバッと顔を上げて、何かを考え込んでいたかと思うと……誰にも見えないように少しだけ笑顔を浮かべていた。


 そして彼は立ち去っていったが、教会を出ていく前に確かに聞こえた。


『ありがとうございます』


 そう言う、彼の心の声が。


「すごいね! 最初からちゃんとでき……て……」


 イラホン様が褒め言葉を言いかけていたのだが、私の顔を見て言葉を失っていた。


 視界が歪む……目をこすると、手に水がついていた。


「……え?」


 私はどうやら泣いているようだった。


 感謝されたことも、誰かの役に立ったこともない私が……彼の背中をちゃんと押すことができたのだと思うと嬉しくて、涙が勝手にポロポロと流れ落ちて止まらなくなる。


 涙なんて流したのは子供の時以来で、どうすれば良いのか分からない。


 止まらない涙に困惑する私に、イラホン様は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

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