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第6話 水無月美鈴

 昨日、ダンジョンで異常オークに襲われていた少女。


 流石に……こんな『裏の取引』の現場となるハシェルブで待っているとは、流石に予想外だ。


「……なんで君が、ここに……」

「それはですねぇ……あなたが昨日使っていた銃ですけど、私の探索事務所の開発部が作った試作品でもあるんです! サンプルの写真集を見せてもらって、同じものを発見したんですよ! それをお父さんに言ったら、『ずいぶん昔にハシェルブで処分した』とのことだったので、ここで待ってました!」

「……そう、なのか?」


 辻褄はあって……いない。


「なんで俺が、『またハシェルブに来る』と思ってたんだ?」


 ここまでの説明だと、『七瀬がハシェルブでアクアマグナムを購入した』ということはわかっても、再度来るかどうかはわからないはずだ。


 裏の店に入るような人間だからと言って、常にそこを利用するかどうかは別。


「そこしか手掛かりがなかったのでここで待ってただけですよ。初めて見た顔の人を探すのは苦労しますからね!」

「……なるほど、ネットとか、あまり見ないのはわかった」


 七瀬は少し調べれば顔も出てくる程度には有名人だ。


 この魔力量至上主義の中で、『魔力欠乏』という称号を持つ。

 七瀬をこき下ろす記事を書くだけで、ある程度の売り上げになることもある。


 少なくとも、『虹川七瀬』という名前を一度も検索したことがない人間。ということは間違いない。


「で、待ってたのは、礼を言うためか?」

「いえ、スカウトです!」

「え?」

「スペックを見ました。アクアマグナムを連射できるその魔力量! お父さんに話したら『ぜひ招きたい!』と言ってましたよ」

「……」


 魔力量至上主義の世界だ。


 アクアマグナムを作っていた開発部なら、その魔力消費量も重々承知だろう。


 その試作品を連射するような人間が現れたのなら。

 そしてそれが、どこの事務所にも所属していないとなれば。


 スカウトと言う発想になるのは当然だ。


「……一応聞くけど、どこの事務所なんだ?」

「『水無月探索事務所』です!」

「……聞いたことがないな」


 少なくとも、接触する機会がなかったはずだ。


「お父さんは、招く最大の理由としては、『その現場力が欲しい』と言ってましたよ」

「現場力?」

「はい! 虹川七瀬さんですよね? 探索者に依頼を出したことがあって、その時の荷物持ちとして、七瀬さんが加わっていたことがあるんですよ。その時の『納品状態』がとても適していて、感激してました」

「……そうか」


 ダンジョン産のアイテムを加工することで、産業が発展する世界。


 その中で重要なのは、手に入れたアイテムを、職人や工場の加工設備に適した状態にできるかどうかだ。


 少々極端な例ではあるが、本来は『普通の鉄』くらいの硬度だが、温度管理を間違うと『ダイヤモンドよりも硬くなる』ような物質をテキトーに運んだら、工場につく頃には何の価値もない塊になる。


 そういう話だ。


 薬草だろうと、金属だろうと、モンスターの体の一部だろうと。


 どれほど希少であったとしても、加工できなければ、投資する価値も受け入れる価値もないのだ。


「水無月探索事務所は、探しているアイテムがあるんです。そのために、七瀬さんの力が必要なんですよ! うちに来てくれますか!?」

「……」


 元気いっぱいで、好奇心に満ちた表情の少女。


 七瀬は……ため息をついた。


「わかった。お世話になるとするよ」

「わーいわーい! あ、自己紹介が遅れました! 私は水無月美鈴(みなづきみすず)といいます! よろしくお願いしますね!」

「水無月ねぇ」


 要するに……所長令嬢ということらしい。


「ハシェルブで待ってて、初日で会えるとは思ってなかったですけど、運が回ってきたみたいですね! むっはー!」

「……俺について、どれくらい知ってるんだ?」

「む? 特に多くは知りませんよ? お父さんからは、現場力があって荷物持ちをしていたということしか聞いてませんし」

「……そうか」


 どうやら、魔力欠乏として、酷評されているネットの話は知らないらしい。


「そういえば、洗濯、どうするか」

「今日は定休日ですよ? 店の中で待ってようと思ってたんですけど開いてなかったです」

「うっそだろおい……」


 確かに、店の壁を見ると、定休日が書かれている。


「スマホには書かれてなかったから、てっきり、毎日やってると思ってた……はぁ」

「そんなこともあるんですね。まぁ良いです! それじゃ駅に行きますよ!」


 美鈴は元気いっぱいな様子で走り出した。

 すぐにその背中が見えなくなる。


「……元気な子だなぁ。それにしても……」


 七瀬は、右手の指輪を見る。


「……俺って、そんなにチョロい人間だったのか? いや、それもあるんだろうけど、魔力量だけで俺をスカウトするって話だったら、首を横に振ってたかもな」


 高性能のデバイスを与えられても、それを扱えるだけの経験がない。


 期待に応えられないとわかっているのに、魔力量前提のスカウトに乗るのは、詐欺のようなものだ。


 七瀬くらいの年齢になれば、デバイスで魔法を使った戦闘をある程度こなせるのが普通である。これは間違いない。


 彼は、『魔法使い』としては、三流なのだ。


「……いや、取り繕っても仕方がないか」


 七瀬はため息をつく。


「俺の、荷物持ちとしての経験と、持ち帰るアイテムをどうするべきかの判断が良いって、評価してくれた」


 知識を蓄えて、いろんなパーティーに参加して、荷物持ちとして役に立ってきたはずだ。


 魔力欠乏である彼を、社会が評価することは許されないことだったとしても。


 魔力量が確かな今、それらの現場の知見は、不必要な小細工だといわれるかもしれない。そんな思いと推測は、どこかにあった。


 しかし……。


「……その所長は人を誑かすのが上手くて、俺が未熟もだった。それだけのことか」


 魔力欠乏で生きてきて、多くのことを諦めたし、必要なことはやってきた。


 多くのことに自覚をもって生きてきた。


 それでも、役に立つんだと吠えたいくらいには。


 彼はクソガキで、ロマンチストで。


 特別になりたいと、思っている。

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