第4話 ピーキー銃の練習と、少女の悲鳴
ハシェルブ。というコインランドリーの裏で『アクアマグナム』を購入した次の日。
とあるダンジョンで、破砕音が鳴り続けていた。
「……威力は申し分ない。大量ではあるけど、規定量の魔力を流し込めば、すぐに弾丸が生成されて、しっかり前に飛ぶ。威力のわりに、反動も銃声も強くはない」
七瀬はアクアマグナムを構えて、岩の壁に銃口を向けて、何度も引き金を引く。
岩の壁の三重丸に何度も銃弾を撃っているが、これらは七瀬が描いたものだろう。
「ただ、『銃』といっても、魔法デバイスなら、照準アシストがあるはずだが……コイツはかなりアナログな設計だな……」
魔法がアプリとなって販売されるような時代だ。
言い換えると、より便利で使いやすく、成果をすぐに実感できるような魔法を求められている。
そういう意味では、ゲーム開発も魔法開発も似たようなものだ。
その意味で、アクアマグナムは、『威力は高い』が、使うための魔力量も、使いこなすための訓練もかなり要求される。
「まぁ、威力は高い。これは間違いない。後は練習あるのみだ」
銃を構えて、的を狙う七瀬の表情は、真剣そのもの。
「必要な動きを反射的にできるようになるまで練習する。それをサボったら、いずれ後悔することになる」
何度も引き金を引く。
……日雇いの荷物持ち。
それが七瀬の、今までの立ち位置だった。
その中で見てきたのだろう。
魔法がアプリとして販売され、より便利な魔法が評価される時代で、『訓練をせずに、新しい魔法を試す探索者』たちの姿を。
そうした探索者は往々にして失敗する。
雑に使っても成果を出せるというのは、『開発側が想定したダンジョンに潜る場合』においてのみの話。
それを無視し、普段から潜るダンジョンに行って、上手く使えずに失敗するなど、珍しい話ではない。
「……よし。ざっと四時間くらいか。これだけ打ち続けても……魔力を使った気があまりしない。本当に凄いな。この指輪」
右手の中指につけた指輪を見る。
魔力の増幅と、デバイスに対する適切な変換を行えるというものだが、ダンジョンの宝箱から手に入るアイテムと言うのは多種多様なため、カテゴリとして珍しい物ではない。
しかし、ここまで性能が凶悪な物は初めて見る。
「そろそろ、モンスターを倒そうか。昨日使ったフレアガンじゃ倒しきれないモンスターでも、これなら倒せるだろう」
探索者は、ダンジョンでモンスターを倒して、そこから得られる資源を持ち帰ることで、市場を活性化させる職業。
訓練は必要だが、素材集めは重要だ。
★
「ゴブッ! ゴッ……」
ゴブリンに遭遇したが、一発で頭を打ち抜いた。
「……フレアガンを何発も当てないと倒せないモンスターのはずだが、それが一発か」
武器が粗末な棍棒で、上半身が裸だ。
遠距離から攻撃すれば、これほど楽なモンスターはいないだろう。
しかし、買い切り3000円の威力で、しかも『魔法を当てる訓練』をしていない状態では、かなり手間取った。
だが、アクアマグナムを購入し、射撃訓練を四時間ほど行うと、しっかり照準を当てることができて、一発で倒せた。
「……流石に、このあたりのモンスターなら、確かな威力がある武器と、基礎さえできていればなんとかなる」
そもそも。
魔法がアプリとして販売されるよりも前から、この世界は、多くの人間がダンジョンで戦っている。
そして、『新人の事故』というのは、思ったより少ないものだ。
それだけ、序盤に遭遇するモンスターは弱いということでもある。
そんなモンスター相手に、確かな火力がある武器を手に、多くの探索者を見てきた目があれば、それ相応の動きはできる。
「ただ、持ってる武器が強くても、俺が弱いって話に戻るか」
魔法アプリには自動照準などのアシストが組み込まれているが、アクアマグナムには組み込まれていない。
「自動照準……経験上、外付けではどうにもならんな。互換性がありそうなものは性能が低くて、性能が高い物は互換性が……やっぱりこの時代、アナログは立場が弱いな」
考察している間も、ゴブリンは出現する。
しかし、アクアマグナムの銃弾一発で、全て終わる。
序盤のモンスター相手なら、明らかに過剰火力だ。
「とりあえず魔石は集まった。これからも訓練していけば――」
計画を立てたその時。
突然、悲鳴のような声が耳に入ってくる。
「っ!」
幼さのある女性の声だった。
次の瞬間、七瀬は走り出す。
(こんな森の序盤。モンスターは奇襲なんてしてこないはずだ。悲鳴を上げるってことは、何かイレギュラーが発生してる)
森の中を走り抜ける。
普段から重い荷物を背負って、荷物持ちをしていた経験だろうか。
体幹が異常に鍛えられており、走りにくい森の中を、苦も無く駆けていく。
(スマホでも、魔法デバイスなら、魔法障壁を自動で展開する設定があるはず。奇襲されたか、何らかの要因で驚いたのか、それでスマホを落とした可能性もある)
魔法障壁。
スマホでも、腕輪でも、『マナシリコン』から作られた『マナトランジスタ』が組み込まれたデバイスに標準搭載されている機能である。
相手の攻撃を自動で感知し、被弾するのを防ぐためのものだ。
この機能がスマホに備わるからこそ、危険地帯でありながら、ダンジョンに潜るための『探索ライセンス』は昔よりも入手しやすくなっている。
しかし、どれほど高性能な障壁を展開できるとしても、そのスマホを紛失したら、鎧のない人間でしかない。
(……いた。はっ?)
二足歩行の豚。
のはずなのだが、肌が、鱗のようなもので覆われている。
頭にツノ、背中に小さい翼と……。
(なんだ、あの、オークに竜の要素をちょっと混ぜたような外見は……)
わからないが、少女が終われているのが見える。
そして、近くにスマホが落ちている。
どうやら『奇襲を食らってスマホを落とした』と言うことで間違いない。
「シッ!」
素早く駆け抜けて、少女の前に出る。
七瀬はオークに銃口を向けて、何度も引き金を引いた。
「ブモオオオオオオッ!」
鱗に弾丸が直撃し、確かなダメージを与えていく。
七瀬自身が焦っているせいか、ゴブリンを相手にしていた時よりも、照準は甘い。
しかし、オークの体が大きいため、ある程度は、適当に打っても当たる。
(効いてる。大丈夫だ)
武器が通用することさえわかれば、後は冷静に対処すればいい。
しっかし銃を持って、訓練通りの構えで、引き金を引く。
だんだん、急所に当たる回数も増えてきて……オークは、倒れた。
「ふぅ……」
「お、おお……あ、ありがとうございます!」
「え、ああ……」
オークが魔石を残して塵となって消えていく。
それをしり目に、七瀬は少女を見る。
水色の長髪が特徴的な、中学生と思われる可愛らしい少女だ。
手には釣り竿を持っているが、魚を入れておくボックスはない。
奇襲を受けて、釣り竿だけ持って逃げ出した。そんなところだろう。
(このあたりの安全エリアに、確か、釣りができるスポットがあるな。そこの常連か?)
少女の持ち物と頭の中の地図を照らし合わせて、頭の中で結論付ける。
ほぼ、間違いはないだろう。
「で、あのオークは?」
「私がいつものスポットで釣りをしていて、魚が十分に取れたので安全エリアを出たら、急に死角から出てきたんですよ!」
「……なるほど、このあたりじゃ絶対見かけない個体だな。何が起こってるんだか……とにかく、異常事態が起こってるなら、ダンジョンに長居は禁物だ。俺はもうすぐに帰るけど、君は……」
「私は魚を入れたボックスを回収して帰りますよ」
「……送っていこうか?」
「いえいえ、それには及びませんよ。その安全エリアでお迎えの人を待ちます。とても強い人なので大丈夫ですよ! 家が結構遠いので、さすがにお世話になるのは悪いです!」
はきはきと断る少女。
先ほどまで、異常個体のモンスターに追われていたとは思えない肝の据わり方だ。
「家が結構遠い……ここに来るのは初めてなのか?」
「いえ、久しぶりです」
「そうか」
前に来たときは、普通に魚を釣って、普通に帰ることができたのだろう。
「状況はおおむね分かった。じゃあ、俺はすぐに帰るから、君も早く帰るんだよ」
「もちろんです! 助けてくれてありがとうございました!」
「ああ。それじゃ」
七瀬はもう用はないとして……少女がスマホを拾うのを見届けてから、その場を離れていった。




