第2話 指輪の力
「フレアガン」
岩肌の洞窟型ダンジョン。
七瀬は遭遇したゴブリンに、スマホのカメラを向けている。
彼の魔法の宣言と共に、体内から魔力がスマホに流れて、火の弾丸が生成、ゴブリンに向けて放たれた。
「ゴブッ!」
炎の弾丸。とは言ったものの、本当に銃弾ほどの速度があるわけではない。
ゴブリンはこん棒を振り上げて、フレアガンを叩き落とす。
「チッ……」
七瀬は舌打ちしつつも、スマホを操作して、三発連続で放つ。
一発なら無理でも、三発なら違う。
ゴブリンの体に直撃して、確かな威力によって膝をついた。
「四発で、もうスマホが熱く……処理能力の問題か」
ゴブリンが膝をついたので、十分な隙だ。
しかし、その隙を突く魔法を、今のスマホでは使えない。
「それなら……」
ポケットから指輪を取り出す。
……先ほど、家の植木鉢に入れていた『花』が変化した指輪だ。
それを右手の中指にはめると、スマホを操作する。
七瀬の体内から魔力が出ると、一度、指輪に魔力が集まってからスマホに流れた。
フレアガンが起動し、炎の弾丸が発射される。
先ほどよりも、速度と威力がある弾丸だ。
それがゴブリンに直撃して、確実に怯ませる。
「ご、ゴブブ!」
「これなら……いける」
画面を操作して、フレアガンを何度も発動。
スマホは熱くならない。
ゴブリンは炎の弾丸に負けて、そのまま倒れた。
「……あ、魔石」
全てのモンスターは、倒されると魔石を残して塵となる。
たまに、そのモンスター特有のドロップアイテムも一緒に落とすが、基本的には魔石だけだ。
「……初めて、魔法で、倒せた」
魔石を拾い上げて、七瀬は安堵のため息をつく。
「……情報整理だな」
近くの安全エリアに向かって、七瀬は歩いた。
★
「俺の魔力が、生成ランクS相当に戻ってる」
安全エリアに入って、戦闘を振り返る。
「フレアガンの発動に関しては問題ない。三千円の買い切り魔法だが、あの程度のゴブリンは倒せる。でも、スマホの処理能力のせいか、四発が限界か」
スマホを見る。
今まで『魔力欠乏』……体内の魔力がほとんどない状態だったのが七瀬だ。
言い換えると、『十分な性能を持つ機器』としてのスマホを持つ意味がほぼなかったため、『魔法デバイス』としては型落ち品。
「マナトランジスタの登場で、魔法は才能ではなく、企業が組み上げるものになった……それらがプラットフォームを通して提供され、ユーザーが買うような時代。三千円でこの性能は確かに十分だが、デバイスの性能に問題があるか」
七瀬は右手の中指にはめた指輪を見る。
「しかも、この指輪をつけていると、フレアガンの発動に関して、魔力を使った気がしない。これ自体に、魔力の増幅機能がある。しかも……デバイスに合わせた魔力に変換する機能まであるのか」
合計四発で、スマホが熱くなった。
マナトランジスタによって魔法はアプリとなったが、言い換えれば、所有するデバイスの性能が、使用する魔法の質を決めるともいえる。
「確か……モンスターから手に入れる魔石はどれも同じ質の魔力を持っていて、マナシリコンを作るときは魔石の魔力を使う」
スマホと指輪を見比べる。
「『魔石の魔力』に近い質の魔力を持ってる人は、デバイスへの負担が少ないし、魔法が少し強力になる。指輪によって、俺の魔力の質が『魔石に近い』か、ほぼ同じものに変換されたことで、このデバイスでも、フレアガンの連発が可能になった」
その連発が、先ほどの戦闘だ。
個人の魔力には『個性』があり、市販の魔法デバイスにとって個性はノイズとなる。
「世の中の人は、自分の魔力の個性を抜いて、端末が扱いやすい魔力にする、通称『脱色』をしてるって話だが……」
七瀬は、理央の戦いを思い出す。
金属製の鎧を身に纏ったゴブリンに遭遇、雷の玉を選択して倒す。
あまりにもスムーズな状況判断と、最適な手段の選択。
遭遇から着弾まで二秒と言う、まさに『エリート』の方法だ。
「マナシリコンを作る際に自分の魔力を使う『オーダーメイド』と違って、理央が
使ってたのは市販品だった。その中では性能が高い物だけど、あれほどスムーズに魔法を使うって、『脱色』が相当上手いってことか」
さらに言えば……。
「俺はフレアガンを連射すれば、ゴブリンは倒せる。でも……何発も外したからな。ただ、理央ほどの経験があれば、遭遇した瞬間に魔法を選べる。それだけ早ければ、ゴブリン側は避けることすらも出来なくなる」
金属製の鎧を身に纏うということは、理央が倒したあのゴブリンは『高ランクの個体』ということだ。
先ほどまで七瀬が戦っていたゴブリンは、こん棒こそ持っていたが、まともな防具をつけていなかった。
そんなゴブリン相手に、苦戦はしなかったが、鮮やかだったかとなれば絶対に違う。
「……おそらく今の俺は、本来の『生成ランクS』に加えて、それを社会に適合させる『増幅変換器』を手に入れた」
間違いないことだ。
人が、なんとかして『脱色』という技術を極めて、『市販デバイスで好成績を出す』という成果を得ている。
そんななかで、七瀬は、この魔力量至上主義の世界で、生成ランクSに加えて、魔力を増幅し、それを市販品に適合させるアイテムを手に入れた。
「あの種を育てた十年は、おそらく、俺から魔力量を抜き続けた日々でもあった。その代償を背負った成果として十分だけど、今の俺は、『期待に応えること』はできない」
魔法使いとして圧倒的な素質を手に入れた。
それは間違いない。
だが、それを運用する経験が圧倒的に不足している。
ゴブリンを相手に、でたらめに弾丸を撃ちまくらないと、何の成果も得られないくらいには。
「まだまだ、表には出せないか。ただ……どうするかな」
拾った魔石を見る。
これを売れば、確かに金になる。
探索者のライセンスも持っているが、魔力欠乏だった彼のランクはF、『新人』だ。
ダンジョンに潜る以前に、『準備中』とすら称されるランクであり、そんな彼がいきなり魔石を持ち込んだら怪しまれるだろう。
かといって、『魔力量が生成ランクS相応になった』となれば、疑問と期待に押しつぶされる。
「……裏ルートならいくらでもある。そっちで換金するか」
いくらでもある。
事実だ。
七瀬は日雇いの荷物持ちであり、いろんな人が、いろんな物を、いろんな場所に持ち込む現場を見ている。
正規ではない換金場所などいくらでもあったし、そこについていったこともあった。
もちろん、社会的に何の発言権もない七瀬が指摘することはないし、そもそも必要悪として存在する場所もあるのだから、告発するのは逆に多くの問題が発生する。
そんな問題を発生させる奴に荷物持ちの仕事など回ってくるわけがないので、そういうものだと黙認していた。
「……とりあえず、確定してるのは……もう、俺は荷物持ちなんて、やる必要はないってことか」
スマホを取り出して、日雇いの仲介サイトを開く。
依頼は入っていない。
一つの依頼が終わって、酷評が書かれた後だ。
もう、いいだろう。
「……よし、退会した。ちょっと魔石を集めたら、すぐに帰ろう」
そう言って折りたたみの小さな椅子から立ち上がると、ゴブリンを求めて歩き出した。




