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第18話 七瀬VS獅子原

 上流から降りてきて叫び始めたのは、左手にスマホを持った、非常に端正な顔立ちの青年である。


「……えーと、獅子原義輝(ししはらよしてる)。であってるか?」

「ほう、俺のこと知ってんのか。だせぇスーツを着てる割りに、よく覚えてんじゃねえか」

「三年前に表舞台から急に姿を消したと聞いたことがある」


 初手で『スーツがダサい』と言われた七瀬だが、あえて気にしないことにした。

 蒸し返したとしても誰かが幸せになるわけではないので。


「ったく、脱色薬を作ってるってのに、その工場に銃弾をぶち込むとは、一体何を考えてやがる!」

「脱色薬の密造だと……」

「あ、気が付いてなかったのか?」

「そこまでは特定してなかった。もっと言うと、『こそこそ隠れて川を汚してるんだからぶっ壊しても問題はない』とは思ってたが」


 七瀬は少し考えたあと、こう続ける。


「『実は政府が絡んでて社会に必要な物を作っている可能性』もゼロではないと思っていた。その場合は素直に謝るつもりだったが……そうでもないらしいな」

「社会に不必要な物を作ってるって? ハッハッハ! 無能で、機械に合わせるしかない凡人共が背伸びするための画期的な商品を作ってんだぜ? それが不必要だって言うのかよ」

「ああ」


 七瀬は頷く。


「俺の両親は莫大な借金を作って姿を消したが、その原因は、『高額な脱色薬』に手を出した結果だ。お前の主観による必要かどうかの理屈は関係ない。俺は許さない」

「ったく、お前の両親が無能だったって話だろうが。社会(デバイス)に適合できねえくせに、夢見てんじゃねえよ」


 獅子原はスマホを構える。


「『サンダーボル――」


 次の瞬間、獅子原の眼前に『魔法障壁』が展開し、スライム弾が衝突した。


「うおおおああああっ!」


 急に目の前で衝撃波が火花を散らして驚く。


「な、なんだ……」

「お前がスマホで魔法を発動するよりも、俺が引き金を引くほうが早い」


 すでに、遠距離用のジャスティスバレルは外している。

 即打ちなら、デカい銃身は付けていない方がいい。


「わっほーい! 私たちのジャスティスヒーローを舐めちゃいけませんよ!」

「はっ? なんだ名前」

「このスーツの名前です!」

「ふざけんな! 超遠距離から弾丸をばらまいて、工場を破壊するようなヒーローがいてたまるか!」


 ごもっともな正論。


「チッ……だが、魔法障壁は貫けねえようだな。『サンダーボルト』!」


 獅子原は目の前でまた火花が散ったが、魔法の発動は問題なく行った。


 雷魔法が生成され、スマホから七瀬に向かって飛んでくる。


 胸に直撃したが……。


「このスーツはやたら頑丈でな。その程度の雷は効かん」

「チッ」

「あと、戦闘に使うのはスーツだが、一応俺もスマホを持ってる。それの『魔法障壁』が展開されなかったか」

「えっ? 雷の速度だから展開が間に合わなかったんじゃないですか?」

「デバイスによる魔法障壁は予測の部分が大きい。となると……」


 七瀬は獅子原が持っているスマホを見る。


「違法改造ってところか。そのスマホ、魔法障壁を展開されないための、何らかのツールが入ってるってことだ」

「よくわかってるじゃねえか」

「迷宮省が出してる資料に乗ってたぞ」

「はっ?」

「仮に、普通に探索してて、お前らみたいなのと遭遇したら一巻の終わりだ。そういうやつがどういう装備を持っている可能性があるのか。そういうのが載ってる資料がある」

「聞いたことねえぞそんなの」

「まぁ……公的機関が作ったハンドブックなんて、手渡されたとしても誰も読まないってのと同じだ」


 七瀬は獅子原に銃口を向ける。


「で、ここからが本題だ」

「あぁっ?」

「その手の資料には、『違法ツールを持ってるやつに出会った時の最適解』が書かれてると思わないか?」

「っ!」


 七瀬は自分のスマホを銃型ガジェットの上において接続し、銃弾を再び放つ。


 その弾は、獅子原の目の前に展開された魔法障壁に衝突し……。


 バチッ!


「うおっ!」


 獅子原が持っているスマホから、ビリっと放電。

 そのまま、彼の手からスマホが離れた。


 次の瞬間、七瀬は超人的な速度で接近すると、一瞬で獅子原の関節を締めあげてッ拘束した。


「イデデデっ! クソッ、放せ! 放せよ!」

「こんな風に、『違法ツールに反応して、魔法障壁越しに放電させる』ってツールが、迷宮省のホームページから簡単にダウンロードできる」

「そ、それでスマホが放電して……クソがッ!」

「まぁ、この放電技術が悪用されて、『必要以上の放電を実行するように改造する』って違法ツールもある。それによる暴発事故も珍しくはないが。セキュリティの更新やら、メンテナンスやら、しっかりしとけば問題ない話だ」

「!」


 七瀬の言い分に、千鳥は驚愕した。


「……い、いいのかよ。俺が、この奥にある脱色薬の密造工場を、周囲のモンスターから守ってたんだ。俺がいなくなったら工場は潰れる。それに、顧客は多いんだぜ? そいつらに迷惑がかかると思わねえのか?」

「犯罪者のビジネスを潰して何が悪い」

「グッ、こ、こんなところで終われるか! 俺は、俺を認めなかった奴を見返すまでは、絶対に……」

「そういえば生成ランクAだったか」


 七瀬は獅子原義輝という、『探索者のデータ』を思い出す。

 その上で……。


「確かに強いし、優秀だし、特別だ。でも、替えは効く」

「なっ……」

「素質が特別だろうと、成果を出さないやつは、替えが効くんだよ」

「お、俺はあの頃、モンスターをしっかり倒して、魔石とアイテムを持ち帰ってたんだぞ! そんな俺に、成果が出てないだと!?」

「その通りだ」


 七瀬は片手で関節を締めあげたまま、スマホを取り出してとあるページを見せる。


「アイテムってのは、『工場の加工過程に適した状態』で持ち帰ってくるから意味がある。『劣悪な状態で持ってくる奴をまとめたブラックリスト』ってのも共有されていてな。お前の名前もあるぞ」

「バカな……」

「まぁ、魔石は質が全て同じだから、その分は問題ないが、『特定のモンスターを倒してアイテムを持ち帰ってくる依頼』が、途中から全くでなかったはずだ」

「……」


 先ほどまでの威勢はどこへやら。

 獅子原は、顔をふるわせた後、力が抜けたように膝から崩れ落ちた。


「……はぁ、つーわけで、千鳥さん。通報よろしく」

「はい」

「……はっ? ちどり? 千鳥って……」


 獅子原は千鳥を見る。


「……お前、日暮千鳥か!?」

「ええ……三年前、十四歳だったころは年齢相応の外見でしたが、あれから成長しまして、全く気が付かなかったでしょう?」


 美鈴は千鳥の胸に視線が向かった。

 千鳥の『成長しました』の部分に引っかかりがあるのだろう。

 口には出さなかったが。


「な、何でお前がこんなところに……」

「日暮テクノロジーは倒産しましたが、今は水無月探索事務所にいますから、その活動の一環としてきました。それにしても……」


 千鳥は、合われた物を見る目で、獅子原を見下ろす。


「……あなたとは因縁がありますが、突かないでおきましょうか」

「なんだと?」

「惨めな人をイジメる趣味はありませんから」

「ふ、ふざけ――」


 身を乗り出そうとした獅子原だが、七瀬が首筋に種痘を叩き込んで、気絶させた。


「……はぁ。とりあえず、一度こいつを、警察に渡してからだな」

「そうですね! 工場をぶっ潰してお魚さんを早く食べたいですけど、こういう時は優先順位と言うものがあります!」


 通報している千鳥の傍で、七瀬は縄で獅子原を拘束し始めた。

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