第17話 素材採集で求められる丁寧さ
「うーん。誰も来ないな」
「めちゃくちゃ続けてますけど、確かに誰も来ないですね。木が倒れる音は聞こえますけど」
ジャスティスバレルを銃ガジェットに接続し、射程距離三キロのスライム弾を打ち続けること十数分。
「マジで誰もいない可能性があるのか」
「どうでしょうか、誰かいたらわかるはずなのですが……」
千鳥はジャスティスバレルの取扱説明書……100ページくらいありそうな分厚いヤツを読んでいる。
そこには、『人に当たりそうになったら、上に方向変換するから当たらないし、遠くから打っても人がどこにいるのかわかりやすい機能があります!』と書かれている。
「人に当たりそうになったら上に方向変換する。か……もしも誰かに当たりそうになったら上に行って、それが『誰かがいる目印』になるけど、一体どこにいるんだろうか」
「というか、そんな技術、一体どうやったらできるんですか?」
「説明書を読む限りは、『そういう特性を持つスライム』を使ってコアチップを作ったから。と書かれています」
「おおっ、千鳥さんもトリセツ読めるんですね」
「人を一体何だと思ってるのか……」
深く読まない代表が美鈴なわけだが、千鳥は違う。
「……まぁ、何事も、しっかり確認してから使うというのは重要ですよ」
「む? 分かりました! あと、なんでこんな装備をすぐに持ってこれたんですか? こんなパーツを作ってるだなんて話、聞いたことありませんけど」
「『特別な動きが可能なスライム』というのは、ダンジョンに行けば見つかるものです。その中から厳選して、装備として作ったら面白そうなら応用してきたとのこと」
「とのこと? ……それも説明所に書かれてるのか。ってかそれ、予算の無駄遣いを辞められなかったって話では? 俺以外に使える人が見つかってないんだろ?」
「ジャスティスバレルの開発には300万ほどかかったそうです」
「だいぶ使ったなぁ……てかそれ、アクアマグナムの方がかかりすぎじゃね? あれって開発費3000万円だろ?」
「研究初期のノウハウ不足でそうなっただけかと」
「それにしたってそこまで違うものなのか……」
七瀬は技術者ではない。
探索者とは、『ダンジョンの素材を、工場の規格に沿った状態で持ち帰ってくる人』というのが、七瀬の解釈であり。
どういう状態で持っていったら価値があるのかを考えるが、別に工場の設備や、その設備を作るに至った経緯などは理解していない。
分厚い取扱説明書にはオタクの熱量を感じさせる駄文が並んでいるが、七瀬にとって重要なのは、『素材を持ち帰るときにどうすべきなのか』と言う話だけだ。
一般論として、開発と言うのは時間も金もかかる。
設備と素材に金がかかる。
千個作って正解になるのは三つという、積み上げられた試作品。
優れた頭脳を持つ専門家の雇用や、他者が持つ知的財産権のライセンス料。
それらが重なり合って、『一個の成果物』という、それ単体で見れば思ったような金額にならずとも、裏に積み上げられた金額は大きくなる。
「まぁ、概ね、感じ取れる話ではあるけどな。素材採集でヘマをすると、思ったようなデータが取れないし、そうなったら時間も金も無駄だからな」
「みんながみんな、そういう意識を持っていれば話は変わりますが……私も開発に関わるまではわからなかったことです」
「むー……私は美味しいお魚が食べられたら何でもいいんですけどね」
「でも、その魚を調理するための包丁だって、砥石や電動シャープナーの予算をケチったら、美味しく切れないぞ。特別な魚を斬る場合、その包丁を作るための専用素材が、ダンジョンで取れることもある。そっちでミスがあったら、上手く切れる包丁は作れないからな」
「おおっ! そう聞くと素材採集は重要ですね!」
魚が好きなのはいいとして、その魚を釣るための竿や、切るための包丁も、それらを作るための素材で『ダンジョン産』を指定することは、昨今、珍しくはない。
「そういえば、七瀬さんって荷物持ちをしてたんですよね。運び方が重要な素材なら、七瀬さんってその知識が求められますよね」
「俺に依頼する人がそれを調べているならそのあたりをしっかり調べていて、俺に教えてくれるなら問題ないが、『素材の質』の重要さを理解しない人だった場合はめんどくさいことになるな」
「その場合は自分で調べるんですか?」
「一応、自分でも調べるよ」
「ネットに載ってなかったらどうするんですか?」
「勘」
「ストロングスタイルですうううっ!」
正確な情報が全て載っているサイトなど存在しないのだ。
情報一つ握っているだけで、企業の動きが変わることなど珍しくはない。
そういうレベルの話であり、ある程度、秘匿されている物だ。
とはいえ、いろんな現場に行けば、その分、経験は蓄積される。
言語化が難しい話なんて世の中にごまんとあるが、それでも人類が多くの状況を乗り越えているのは、体がなんとなく、何をすればいいのかわかっているためだ。
「何と言いますか、七瀬さんって、頼りにはなりますけど参考にはなりませんね」
「美鈴、その感覚は大事にしろよ。大体の専門家ってのは、言うほど『再現性のある言語化』ってのができないし、やろうとしても難しいもんだ」
「ふむぅ……釣りが上手くなりたいなら、釣りの動画を見るよりも、自分で千カ所の釣り堀に行った方が経験になる。ということですか?」
「まぁ概ねそんな感じだ」
……ゆるく話している三人だが。
七瀬が多大な破壊をもたらしているのは、事実である。
「見つけたぞテメェら!」
「ん?」
端正な顔立ちの青年が、怒りを滲ませて、スマホを手にこちらに走ってきた。




