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第16話【密造工場SIDE】 劣悪な密造現場を襲うスライム弾

 七瀬達が射程三キロの遠距離武器、『ジャスティスバレル』を用意しているころ。


 川の上流の『施設』の近くでは……。


「ふああぁ、めんどくせえなぁ。おらよ、『サンダーボルト』!」


 金棒を持った赤鬼が、工場に向かって接近していた。

 しかし、欠伸をしながら男が向けたスマホから、雷が飛び出して、赤鬼を焼く。


「あ? まだ足らねえか。『サンダーボルト・ブースト』!」


 先ほどの強化版だろう。強い雷が発生し、赤鬼を焼いた。


 そのまま……赤鬼は地面に倒れて、魔石を残して塵となって消えた。


「はぁ、ったく、地上で売れば、結構な値段がする魔石だってのに」


 面倒、という感情を隠しもしない様子だが、その顔立ちは非常に整っている。

 モデルをはじめとした『顔』が重要な仕事なら困らないだろうと思えるほどの顔立ちだ。


 そして、『赤鬼』を二発で倒す。

 このダンジョンの中で強力なモンスターをこの速度で倒すのは、確かな強者だ。


「おーい、魔石取れたぞー」

「おお、獅子原(ししはら)さん。お疲れ様です」

「ククッ、まぁ、これが俺の仕事だからな」


 近づいてきた小太りの中年男性に魔石を渡すと、欠伸しながら施設に向かって歩いていく。


「さーて、この魔石一つで、認識阻害結界はどれくらい持つんだ?」

「およそ三週間は持つでしょう。まぁ、備蓄はまだありますし、何も問題はありません」

「ったく、このダンジョンの赤鬼って、雷属性が弱点で、物理攻撃に対してかなり耐性があるって話だ。雷属性が得意な俺からすりゃ準備運動にもならねえよ」


 赤鬼は確かに強いが、モンスターというのは、弱点も用意されていることがある。

 物理攻撃に対しては強固な耐性があり、それで倒す際はかなりの火力が必要になるが、雷属性が得意ならば、赤鬼はまだ、楽に倒せる。


 ……もしも、物理的な弾丸のみで赤鬼を倒せるならば、それはそれで異常ということだが、ここでは関係のないことだ。


「まあまあ……そこは、日暮テクノロジーの遺産のおかげでもありますから」

「だよなぁ」


 獅子原、と呼ばれた男は、自分が持っているスマホを見る。


「日暮千鳥。だったっけ? あいつの親の会社が作った、当時の最高傑作だ。持ち逃げした甲斐があるってもんだ」


 そういって、獅子原は工場に入る。


 工場の中は、むせ返るような薬品の臭いと、白い霧が立ち込めていた。


 脱色薬を精製する際に出る副産物のガスであり、もちろん、人体には有毒である。


「ゲホッ、ゴホッ……」

「おい、手を止めるな! 今日のノルマが終わらねえぞ!」


 防毒マスクもろくにつけず、劣悪な環境で働かされているのは、借金まみれの多重債務者や、脛に傷がある探索者を引退した人間たちだ。


 彼らの共通点は、『脱色薬を服用した』ということ。


 高額な麻薬に手を出さなければ維持できない活動を続けた結果、彼らの体は、もう二度と表舞台では輝けない。


 加えて、麻薬に手を出したという前科は、重くのしかかる。

 服用を辞めて、身の程にあった生き方を選ぼうとしても、世間の目は冷たい。


 ……よくある話だ。


 学ぶための失敗をする前に、致命的な選択肢を選んで。

 その結果、誰も助けてくれない道を歩むなど、何も珍しいことではない。


 獅子原は彼らを一瞥すると、鼻で笑った。


「見ろよ。魔力も才能もねえ底辺どもが、必死に脱色薬を作ってやがる。こんな薬に頼らなきゃろくに魔法も撃てねえなんて、最初から探索者なんてやらなきゃよかったんだよ」

「ハハハ、おっしゃる通りで」


 管理人の男は揉み手で同調する。


「獅子原さんのような『生成ランクA』で、しかも専用の固有デバイスを扱える真の天才からすれば、彼らなど虫けら同然でしょう」


 生成ランクA。


 白木理央と同じ生成ランクだが、獅子原が進んだ道は、自分の魔力を練りこんだマナシリコンによる『固有デバイス』を使うこと。


「表の連中は見る目がありませんよ。日暮の小娘のデバイスに、ほんの少し『暴発ウイルス』を仕込んだくらいで、あなたのような英雄を追放するとは」

「全くだぜ」


 獅子原は不快そうに舌打ちをする。


「あの千鳥とかいうガキ、才能があるからって調子に乗りやがって。俺というエースがいながら、あいつを特別扱いし始めた会社の連中もムカついたからな。ちょっと練習中に事故らせて、魔力の操作神経をぶっ壊してやっただけだ」


 千鳥が怪我をしたことで、日暮テクノロジーの株は下がり、獅子原はますます重宝されるはずだった。


 ……もっとも、消したはずの監視カメラの映像が復元されたことで、今、彼は、『こんなところ』にいるわけだが。


「まぁいい。あんな窮屈な表の世界より、こっちの方がずっと居心地がいい。誰も俺に文句を言わねえし、金も女も入り放題だ」

「ええ、ええ! さぁ、獅子原さん、こちらへ。今日も極上のビンテージワインを開けましょう。この認識阻害の結界がある限り、迷宮省の犬どもにも、我々の楽園は絶対に見つかりませんからね!」


 二人は上機嫌で、工場内の管理室――分厚いコンクリートと防音材で囲まれた、豪華なVIPルームへと入っていく。


 管理人がグラスに赤ワインを注ぎ、獅子原に手渡す。


「さぁ、我々の安全と、永遠の利益に乾杯を――」


 獅子原がグラスを掲げ、優雅に微笑んだ。

 その、次の瞬間だった。


 ――ドゴォォォォォンッ!


「なっ!?」

「ひぃっ!?」


 爆発音。いや、違う。

 何か『とてつもない質量の物体』が、工場の分厚い外壁に衝突したような、鈍く重い轟音。


 ――ベキャッ!!


「うわあああああああああっ!?」


 管理室の壁が、ひし形にひしゃげて吹き飛んだ。

 そこから飛び込んできた弾丸が、部屋の中を跳弾のように駆け巡る。


 パリンッ!


「ああっ!? 俺の、一本百万のワインがぁぁぁっ!?」


 管理人が悲鳴を上げる。

 獅子原の手から滑り落ちたグラスも、飛び散ったコンクリートの破片で粉々に砕け散った。


 サイレンがけたたましく鳴り響く。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」

「か、管理人さん! 大変です! 外壁の認識阻害結界が、完全に消滅しました!」


 通信機から、見張りの労働者のパニックになった声が響く。


「消滅だと!? 馬鹿な! 魔石のエネルギーは十分なはずだ! どこのどいつだ、結界の術式を解除した魔法使いは!」

『ち、違います! 解除されたんじゃないんです! 遠くから、何か飛んできて……結界の基点ごと、物理的に『破壊』されたんです!!』

「物理……だと?」


 獅子原は顔を引きつらせた。

 そんな馬鹿な話があるか。


 そもそも認識阻害の結界があるため、この施設に近づくことなどできはしない。

 近くまで接近して、壁を貫通する威力の物理弾を発射することはできない。


 となれば、遠くからめちゃくちゃに撃つしかない。

 だが、あの分厚い結界を物理で吹き飛ばすなど、どれだけの質量と速度が必要だというのか。


「チッ……どこの馬鹿か知らねえが、俺の寛ぎタイムを邪魔した代償は高くつくぞ」


 獅子原は固有デバイスを握りしめ、ひしゃげた壁の穴から外を睨みつけた。


 自分たちを狙う、理不尽な暴力が近づいていることなど、この時の彼らは知る由もない。


 まして、その暴力が、『正義のヒーロー』を名乗るなど、獅子原の感性から見ても言語道断である。

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