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第13話 魚とスライムを戻すためには。

第13話


「魚は釣れず、スライムも使い物にならない……だと」


 水無月探索事務所の二階。


 そこでは、七瀬、美鈴、英典、千鳥の四人が、大きなテーブルに並んだ寿司を食べながら、話していた。


「ええ、端的に言えば、安全エリアの水が飲めないほどに、川の水質が悪くなっています」

「そんなことがあるのか?」

「安全エリアで釣れたフグは、下処理をする必要がない。それほど『無害』であることが徹底されてます」

「そこを捻じ曲げてでも徹底するなら、何故……」


 そう、結局、『何が起こっているのか』ということがわからない。


「ダンジョンの安全エリアで、人に危害を加えることができるのは人だけです」

「えっ……」

「人がダンジョンに手を加えた場合、ダンジョンの自浄作用が働いて元に戻そうとしますが、自浄作用が追いつかない勢いで手が加わると、それは広範囲に影響が出る」

「ふむ……」

「あのダンジョンなら……」


 タブレットで地図アプリを出して、英典に見せる。


「あのダンジョンの川は、ゲート付近と、ダンジョンの奥の二カ所から、中央に集まる様になっています。今回、俺たちは奥側の安全エリアに行って、水質が汚染されていた。そして……今まで、このダンジョンの水質が汚染されていることに誰も気が付かなかった」

「要するに、『奥』で誰かが、汚い物を川に流しているということ?」

「端的に言えば、その可能性が高いです」


 川に汚い物を流せば、下流に影響が出る。

 それは誰もがわかることだ。


 人に危害が加わる汚い水が、下流の安全エリアに流れる場合、その川の上流で何かを企んでいる者が多いということになる。


「む? 随分、詳しいんですね」

「まぁ、いろんなパーティーの荷物持ちをやってると、いろんな情報に触れるからな」

「むぅ……美味しい魚が釣れる場所って知ってますか?」

「この事務所の近くのダンジョンだと……『ダンテナウド洞窟』って知ってるか?」

「ありますし、確かに釣り堀はありますけど、小魚しか釣れませんよ?」

「下に進んでいく洞窟タイプのダンジョンだが、上層のとある隠し通路のボスを倒すと、そいつが独占していたマグロが下に流れて、美鈴が思ってる『釣り堀』で釣れるようになるんだよ」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ! マグロですか! それは食べるのが楽しみですうううっ!」


 お魚大好きで、ダンジョンに釣竿を持っていくような美鈴からすると、美味しいマグロがあるというのは良い話だ。


「ただ、俺たちが手に入れたかったスライムの力がないと、『一番おいしいマグロ』は手に入らないぞ」

「えっ?」

「今回のスライムが手に入っていたら、強力な麻痺弾を打てるようになる。それは、隠しボスに回復手段である『一番おいしいマグロの丸呑み』をさせない唯一の手段でもある」

「なるほど……水を汚したやつらは絶対許さないですうううっ!」


 叫んでいる美鈴を見て、七瀬は英典の方を向いた。


「で、美鈴もやる気になったところで、これからどうするかですね」

「……誑かすのが上手いな。七瀬君」

「まぁ、これくらいは」


 英典も呆れているようだが、そろそろ話を戻した方がよさそうである。


「自浄作用は強力だから、普段は気にならない。いつでも、何回潜っても、ダンジョンと言うのは中身が変わるモノじゃない。相当な何かが、この『川の上流』にあるはずだ」

「要するに、そこを潰せば、『強力な自浄作用』によって、すぐに『私たちが欲しいスライム』も、今回はダメだった釣り堀も復活すると」

「そういうことです」


 千鳥の総括に七瀬は頷いた。


「思ったんだが、七瀬君。そんじょそこらの学者よりも、ダンジョンについて理解しているような気がするが……」

「好都合ではあるが不自然と?」

「そうですね。いろんなパーティーの荷物持ちとして参加していたというのはいいとしても、深い知識を得られるような経験が毎回あったわけではないはず」


 英典と千鳥としては、少々、怪しい部分もあるようだが。


「……目的の素材を、加工設備に適した状態で確保する。それが探索者の使命みたいなものですからね。そこに関わる知識だけは、優先的に調べてるんですよ」

「……そうか」


 別に全てを知っているわけではない。


 ただ、知らないと手に入らないもの、手に入れたとしても、意味がなくなってしまうものが、この世界には多いという話だ。


「明日から、調査を頼んでもいいかな?」

「ええ、もちろん」


 ただ、確定しているのは。

 七瀬が怪しかろうと、『都合がいい』という、絶対の事実があるということだ。

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