第12話 魚は釣れず、スライムはゴミ
「全然魚が釣れないですうううっ! 一体どうなってるんですか!」
「……どうしたんだ? 美鈴」
安全エリアといっても様々な広さや形をしているものだ。
緑あふれる場所なら木から果実を取れる場所もあるし、鉱山の洞窟の内部なら鉱脈にピッケルを突き立てることで鉱石が手に入ることもある。
釣りと魚が好きな美鈴の場合は、川や海に面した釣りスポットの情報を普段から仕入れており、それをもとに探索する場所を考えているだろう。
もちろん、安全エリアがどこにあるのかの推測はできても、道中のモンスターが強ければたどり着けないので、今まであきらめていた場所はあったはずだ。
しかし、七瀬がジャスティスヒーローを使用することができて、しかもそれがかなりの戦闘力を持っているため、これからはその安全エリアに行くことができる。
と思ってウキウキしていたら、『釣れない』ようだ。
「あ、七瀬さん。先ほど、この安全エリアに到着したと同時に、遠くで火炎放射が見えて、そのまま走っていったじゃないですか」
「そうだな」
「戻ってくるのを待ってても仕方がないので、私は魚を釣って待っておこうと思ってたんですよ。でも、全然釣れないんですよ」
「釣れない……か。川に面した安全エリアで魚が釣れないなんて聞いたことがないが……」
七瀬は川に近づく。
一見すると何か異常があるようには見えない。
濁っている様子もなければ、腐敗した何かが浮かんでいるわけでもない。
「ふーむ……」
七瀬はペットボトルを取り出すと、川の水を入れた。
「む? どうするんですか?」
「確か、アルデバの魔法アプリの中に、水質をチェックできる奴があったはずだ」
「え、そんなのがあるんですか!?」
「ああ。特殊な光を当てて、その水が、人間が飲んでも大丈夫な物なのかを判断できるらしい。あ、これこれ」
スマホにアプリをインストールした。
「まぁ、流れてる水には対応してないから、ペットボトルとか、何かの容器に入れる必要はあるけどな」
魔法アプリを起動する。
スマホのライトがペットボトルの水に当たり……。
「スマホの画面が真っ赤ですよ?」
「飲んだら確実に腹を下すってことだ」
「ええっ!? そんなの、魚がいるわけないですうううっ!」
「ああ、それもそうだが、何かおかしい」
「む? どういうことですか?」
明らかに人体にとって有害な川の水。
そんなところに魚がいるわけがない。
いや、いたとして、魚が生きた状態なわけがない。
それはそうだが、七瀬としては、まだ気になることがある様子。
「安全エリアは『無害』なのが、ダンジョンの仕様のはずだ。こんな、沸騰させても飲めそうにない水が、川に流れてるはずがない」
「安全エリアは無害ってよく聞きますけど、それってどれくらい絶対なんですか?」
「『安全エリアでフグを釣った場合、下処理の必要がない』くらいには、徹底されている」
「えぇ!?」
ダンジョンの食物と言うのは、毒である場合もある。もちろん、信じられないくらい美味しい場合もある。
しかし、『本来なら免許が必要になる魚』であったとしても、その技術が必要なくなるほどには、『人間にとって無害』なのだ。
フグの調理に免許が必要なことはそこそこ有名だが、ダンジョンはそこを捻じ曲げてでも、『安全エリアでの無害』を徹底している。
「そんな環境だ。こんな水が安全エリアに流れることそのものがおかしい」
「むぅ、今は、ここのお魚さんは諦めるしかありませんね……」
「そうだな……あと……」
「あと?」
「俺たち、このスーツの改良のために、『スライムのドロップアイテム』を求めてここまで来てるけど、スライムって、近くの水場の水質の影響を受けると聞いたことがある」
「えぇ……」
そう。
まぁ、要するに。
「スライムの素材ゲットです! ……なんなんですかこのゴミは!」
スライムも、ダンジョンの奥の方で出てくる個体は強い。
しかし、ジャスティスヒーローの性能なら何も問題はない。
倒す分には。
「……本当にひどいな。魔力を流し込んでも、色が変わらないし体積も増えない。これを持ち帰ってどれだけ研究しても、スーツの改良にはならないぞ」
「むぐぐ……仕方がないですね。このダンジョンで何が起こっているのかを突き止める必要があります!」
元気な美鈴だが。
次の瞬間、美鈴のお腹から、クゥ~……と音が鳴った。
「……お腹すきました! 帰りましょう!」
「思考回路どうなってんの?」
「何かを考えるときはまずしっかり食べてからです!」
「うんうん」
「食べた後はゆっくりお風呂に入るんです!」
「うんうん」
「お風呂に入った後は布団でぐっすり寝るんです!」
「考えるという手順はどこに消えたの?」
七瀬としては。
このダンジョンで起こっている異変よりも、美鈴の頭の中の方が、十倍くらい謎であった。




