第9話 家族会議と、北の森へのピクニック
三好家にとって、異世界での三度目の朝がやってきた。
食卓には、サオリが工夫を凝らした猪肉のパテと、村のパン屋で買った焼き立てのパンが並んでいる。
「……なあサオリ。
肉の在庫って、あとどれくらいあるんだ?」
ケンが紅茶を啜りながら尋ねた。
「そうね、あるにはあるけど、ちょっと心許ないわね。
残りの肉は私の魔法で冷凍保存してあるから保存は効くけど、あの行列が続くとあと二日持つかどうか……」
「よし、じゃあ今日は屋台を休みにして、みんなでピクニックに出かけないか?」 「ピクニック? ケン、急にどうしたの?」
「ハーイ! 私、大賛成! 行く行く!」
理由を聞く前にはしゃぐリナに、ケンは苦笑いしながら説明を続けた。
「ピクニックと言っても、半分は『素材採取』が目的だ。
昨日、魔法回路の実験をして分かったんだが、とにかく資材が足りない。
木材ももう少ないし、何より『魔石』を確保しておきたいんだ」
「魔石って、買うと高いんでしょ?」 家計を預かるサオリが、鋭い指摘を入れる。
「そうなんだよ。
ジャイアントボアの半分くらいの大きさでも、金貨20枚(20万円)もするんだ。
家には最強の勇者様もいるし、俺も戦うから大丈夫だろ?
自分がどれくらい強いのか、その感触も確かめておきたいんだ。
それに……サオリにとっても大きなメリットがあるぞ」
「私のメリット? 料理の材料になる魔物のお肉が手に入ることかしら?」
「それもあるけど、もっと大事なことがある。
……みんな、神様がくれたスキルで共通して使えるものに『鑑定』があっただろ。
あれを使えば、対象が食用かどうかが一瞬でわかるんだ。
キノコ類はもちろん、スパイスなんかもな。
サオリ、お前、この世界のスパイスに興味あるだろ?」
「……! それは凄いメリットね!
見たことのない野草や木の実がたくさんあるもの。
どれが美味しいのか、イチかバチかで食べるわけにはいかないし、鑑定があれば最高の仕入れができるわ!」
「だろ? だから今日は、リナに護衛をお願いして、俺は木材と魔石を、サオリは新しい食材やスパイスの種を探す。
家族全員でレベルアップするんだ」
「決まりだね! よーし、最強勇者リナ様が、パパとママをバッチリ守ってあげるよ!」 リナが頼もしく胸を張る。
「ありがとう、リナ。
じゃあ、準備ができ次第出発だ。
マジックバッグの容量も調べたいしな。
一人一つずつ持ってるから余裕はあるだろうけど、限界値を知っておいた方がいい」
三人は意気揚々と家を出た。
村の門を抜ける際、例の衛兵が声をかけてきた。
「おっ、今日は家族でピクニックか? 仲が良いな!」
「ええ、ちょっとおかずを獲りに」
ケンが笑って返すと、衛兵は少し表情を引き締めた。
「この辺りの魔物は比較的安全だが、ワーベアーだけは気をつけろよ。
Bランクの魔物だ。個体数自体は少ないが強いぞ。
熟練のパーティでも半壊するからな、見かけたら逃げろよ」
「了解です。
……あ、この辺りで自由に切っていい木ってどの辺りですか?」
「それなら北の森だ。あそこなら誰も文句は言わんぞ」
「ありがとうございます。
……っとそう言えば、太陽って東から登りますよね?」
方向を確認しようとしたケンの問いに、リナが自信満々に口を挟んだ。
「パパ、何言ってるの。
太陽は西からでしょ! 歌で聞いたことあるもん!
『西から昇ったお日様が~♪』って!」
衛兵が堪えきれずに吹き出した。
「はははは! 嬢ちゃん、そりゃ面白い冗談だ!
西から昇る太陽なんて、天変地異が起きなきゃありえねえよ!」
「えっ……違うの!? パパ、お日様って東からなの!?」
顔を真っ赤にするリナを見て、ケンは溜息をついた。
「リナ……あの歌は『ありえないこと』を歌ってるから面白いんだぞ。
……すみません衛兵さん、うちの娘、ちょっとボケが激しくて」
「いやいや、いい家族じゃないか。
いいか、太陽は東から昇って西へ沈む。
気をつけて行けよ!」
笑い声に見送られ、三人は北へと向かった。
「あー、もう恥ずかしい! パパのせいだからね!」
「なんでだよ……。さあ、サオリ。
鑑定でどんどん食材を探してくれ。
俺はマジックバッグの限界を試しながら進むぞ」
村を離れ、鬱蒼と茂る「北の森」の深緑が目前に迫る
。三好家のお仕事ピクニックは、こうして賑やかに幕を開けた。




