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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第6話 規格外の獲物と、パパの執念



「はい、炙り焼き三つで銅貨九枚(九〇〇円)ね! 銀貨一枚(一〇〇〇円)お預かりします、お釣りは銅貨一枚(一〇〇円)!」

 広場にケンの威勢のいい声が響き渡る。  

サオリが鉄板の上でひたすらに肉を焼き続け、ケンが前世の接客スキルをフル回転させて客を捌く。

かつて人気美容師として一日何十人もの客を回してきたケンの手際は、異世界の住人から見れば魔法のように滑らかだった。

 サオリの秘伝スパイスが焦げる香りは、もはや広場全体を支配する暴力的な誘惑となっていた。

並んでいる客は減るどころか、香りに釣られた新たな犠牲者を呼び寄せ続けている。

 そして、ケンが合流してから約一時間。

「……よし、完売です! ありがとうございましたー!」

 ケンの叫びに、並んでいた客から

「そんなぁ!」と悲鳴が上がる。  

サオリは精根尽き果てた様子で鉄板の火を消し、額の汗を拭った。

「……すごかったわね。

ケンが来てくれなかったら、私、今頃行列に飲み込まれてたわ」

「お疲れ様、サオリ。

さあ、屋台を引いて一度家に帰ろうか」

 充実感に包まれながら後片付けを始めようとした、その時だった。

「パパー! ママー! ちょっと来てーっ!!」

 広場の向こうから、砂煙を上げて走ってくる影があった。

リナだ。

その顔はどこか焦っており、それでいて「やってしまった」と言わんばかりの気まずそうな表情をしている。

「リナ、どうしたんだ? 仕事は終わったのか?」

「終わった、終わったんだけど……ちょっと一人じゃ無理っていうか、私なら持ってこれるけど、流石にこの格好で担いで歩くのは恥ずかしいから無理!」

「……どういうことだ?」  

ケンは首を傾げながら、リナの後をついていった。村の入り口近く、人目に付かない林の影。そこへ案内されたケンは、目の前の光景に絶句した。

「…………リナ」

「あはは……。いや、あの、違うんだよパパ」

 そこには、体長三メートルを超える巨大な猪の魔物――『ジャイアントボア』が横たわっていた。

首は見事にスパンと切断されている。

「リナ、あれほど危険なことはするなと言っただろう……」

「だから、ちゃんと言うこと聞いて薬草採取の仕事にしたよ! ほら、これ報酬の銀貨三枚(三〇〇〇円)! ちゃんと完了報告してきたもん!」

 リナは誇らしげに、ギルドの袋に入った銀貨を差し出した。

「そしたらね、薬草を摘んでる最中に、こいつが急に茂みから突っ込んできたの! 『あ、危ない!』って思って、気づいたら手が動いてて……」

 ケンは天を仰いだ。

「気づいたら手が動いて、三メートルの猪の首を飛ばしたのか……」  

とりあえずこの巨体を放置はできない。

ケンは覚悟を決め、リナと二人で猪の足を掴んだ。

「取り敢えず、マジックバックを持っているのがバレるのは防犯上よくないと思う。

いいか、身体強化を意識しろ。

なるべく『重そうに』運ぶんだぞ。……せーの!」

 二人は巨体を引きずりながら冒険者ギルドへ向かった。

 解体所の職員は目玉を飛び出させて硬直した。

「すいません、解体をお願いしたいんですが。肉以外は買い取ってください」

「……こ、これ、ジャイアントボアじゃないか! よく倒せたな!」

「ははは……ええ、何とか」  

ケンの乾いた笑いが響く。

職員は

「二時間もあればできるから夕方にでも取りに来い」

と、驚きを隠せないまま作業に入った。


 家路につく二人。家で待っていたサオリに事情を説明すると、彼女は即座に「商売人」の顔になった。

「銀貨三枚の報酬に、三メートルの猪!? 素晴らしいわリナ! 明日の仕込みに最高ね。

よし、私は市場に追加の調味料を買いに行ってくるわ!」

 サオリは意気揚々と買い物へ出かけていった。  

リナも「お肉の引き取りまで手伝うよ!」とやる気満々だ。  

さて、ここからがケンの本領発揮だった。

「よし、リナ。やるぞ。まずは……お風呂だ」  

ケンはマジックバッグから、今朝の残りの木材を取り出した。  

彼は『精密工作』をフル稼働させ、庭の片隅に木の浴槽を組み上げた。

釘を一本も使わず、パズルのように組み合わさる継手構造だ。

「リナ、こことここに柱を立ててくれ。目隠しの壁を作るぞ」  

リナが切った大木の皮を使い、周囲をぐるりと囲う。

それを一階の裏戸と繋げることで、家から直接行ける「離れ」のような露天風呂が完成した。

「よし。まだ魔道具は作れないから、今日は力技で行くぞ」  

ケンは神様から教わった基礎魔法を思い出した。

「本に書いてあった通りに詠唱するとチート能力で絶対に失敗する。

ここは無詠唱でイメージして『水よ、溜まれ』。

……そして、『火よ、温めろ』」  

何度か調整を繰り返し、ちょうどいい湯加減になった。

「パパ、すごーい! 本当にお風呂だよ!」  

リナが歓声を上げる。

その日は夕方、リナがギルドへ肉を受け取りに行き、サオリが帰ってきて豪華な晩餐となった。

メニューはジャイアントボアの新鮮なバラ肉を使った「生姜焼き風」。

 夕食を終え、念願の「一番風呂」を済ませた三人は、ようやく人心地ついた。

「……極楽ね」

「本当だよパパ、これでお風呂なし物件なんて怖くないね」  

サオリとリナが満足げに寝室へ向かったあと。

 一階のリビング、魔法のランプの灯りの下で、ケンは昼間買った本を広げた。

「さて……ここからが本当の勉強だ」  今日買った『魔道具基礎理論』と『語学書』。そして神様の『魔法教本』を並べる。

「魔法で直接温めるのは効率が悪い。

やっぱり、魔法回路を組んだ『温水器』が必要だ」  神様の『魔法教本』 に書かれた幾何学的な術式と、『魔道具基礎理論』 を読み比べる。

 静まり返った家の中で、ケンの目がキラリと光る。  

職人として、そして父としての新しい挑戦。  

三好家の異世界生活二日目の夜は、こうして更けていった。


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