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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第21話 魔道具師の常識と、ケンの超速クラフト



 リナがブイヨン子爵のもとへ修行に出かけている間、ケンは自宅の作業場で一人、家族からの熱烈な要望に応えるべく「次なる発明」に励んでいた。  

今回のテーマは、三好家のQOL(生活の質)を劇的に向上させる『お風呂の給湯システム』だ。

「最初は単純に、木の箱にお湯を溜めるだけの仕組みでいいかと思ったけど……。

それじゃただの貯湯タンクだな。

どうせなら、もっとスマートにいこう」

 ケンは設計図を書き換えながら、独り言をこぼす。

「給湯器っていうより、ボイラーか。

小さな燃焼室代わりの箱に魔法陣を組み込んで、そこから直接お湯を出してパイプでお風呂に流れ込む……。

うん、その方が場所も取らないし効率的だ」

 ただ、一つ問題があった。

手元にある高品質な魔石は、先のワーベアー戦で手に入れた一個きり。

「お湯を作るのと、水を出すのを両立させるには魔石が足りないな。

今回はとりあえず、お湯を生成する方に魔石を回して、水は手動で足すか……。

いや、魔石を取りに行かないとな。

B級冒険者の特権を使って、効率よく魔石を稼げる場所を探すか」

 材料の不足を痛感したケンは、一旦作業を止めて買い出しに出ることにした。


 まずは、以前ドライヤーのパーツを買った道具屋で銅製のパイプを数本買い出し、その足でなじみの魔道具屋へと向かった。  

店の扉を開けると、眼鏡をかけた初老の店主が、山積みになった古い文献から顔を上げた。

「こんにちは。

羊皮紙を何枚かいただけますか?」

「おお、あんたか。羊皮紙ならまだ在庫はたっぷりあるぞ。

どうだい、新米魔道具師さん。回路の研究の方は進んでいるのか?」

 店主の問いかけに、ケンは軽い気持ちで答えた。

「ええ、色々試してますよ。この前も、実験的に4つのパターンの魔法回路を組み合わせて、どれが一番出力が安定するか見てみたり……」

 その瞬間、店主の手から羽ペンが滑り落ちた。

「……ん? 今、なんと言った? 4つ……だと?」

「ええ、そうですが」

「お主……まさか、一日のうちに魔法陣を4つも書き上げたのか?」

 ケンの心臓がドキンと跳ねた。

(しまっ……た! これ、もしかして世間の常識とズレてるのか?)

 神様から貰った「魔力強化」と、前世の漢字の知識。

これらが組み合わさったケンの筆致は、もはやこの世界の住人からすれば異常な領域に達している。  

ケンは慌てて、後頭部を掻きながら誤魔化した。

「あ、いやいや! 違いますよ! 回路を完成させたんじゃなくて、レッドラズリで魔力の通り道をざっと描いてみただけです!

本番の回路を組むなんて、僕にはまだまだ、とてもとても! ははは!」

「……そうじゃろうな。驚かせおって。

普通、一つの魔法回路を完成させるには、精神を集中し、魔力を慎重に込めて描かねばならん。

一文字間違えれば暴走、魔力の込め方が不均等なら不発。

一人前の魔道具師でも、一つの陣を仕上げるのに一週間はかかるのが当たり前じゃからな」

(一週間……!?)  ケンの脳内に衝撃が走った。  

自分なら、精神を集中させれば一つの魔法陣など十分もあれば書ける。

一日に十個組むことだって造作もない。

だが、それを口にするのは「私は化け物です」と宣言するようなものだ。

「そうですよね。

コツコツやるのが一番ですよね。

僕もサークル(外枠)を描く練習で精一杯です」

「そうじゃ、コツコツとな。

魔道具作りは、設計から組み立てまで含めれば一ヶ月以上かかるものも珍しくない。

焦らず頑張りなさい」

「はい、コツコツ頑張ります。

羊皮紙、ありがとうございました!」

 逃げるように店を出たケンの背中には、冷や汗が流れていた。


「まずいな……一ヶ月に一個しか作れないのがこの世界の『普通』なのか」

 歩きながら、ケンは自分の商売計画を修正し始めた。  

家の中で使う分にはいくらでも作ればいいが、これを売って商売にするとなると話は別だ。  

もし一週間に五個も十個も市場に流せば、たちまち怪しまれるだろう。

(魔道具で大儲けしてスローライフ……と思ったけど、意外とお金にするのは大変かもしれないな。

出荷制限がかかっているようなもんだ)

 考えていても仕方ない。

ケンは気を取り直して、家に戻り作業を再開した。    

ボイラーの核となる魔法陣の設計。

ここでケンは一つの悩みにぶつかった。

「お湯を出すのはいいとして……〈温水〉の陣で組むか、それとも火力を上げた〈熱湯〉で組むか……。

ぬるすぎても風邪をひくし、熱すぎれば火傷する。

よし、魔法陣を二つ組んでおいて、明日の朝、リナとサオリにどっちがいいか選んでもらおう」

 ケンにとって、その二つの魔法陣を描く作業は、文字通り「お茶の子さいさい」だった。  

店主が言っていた『精神を研ぎ澄ます一週間』を、ケンは鼻歌まじりに十分で終わらせていく。

「側(外枠の箱)だけ作っておけば、あとは明日の朝、回路をパパッと組めば完成だな」

 三好家のキッチンで、鼻歌を歌いながら木箱を組み立てるケン。  

世間の魔道具師が血の滲むような思いで一ヶ月かけて作るものを、彼は一晩の余暇で作り上げようとしていた。    

その夜、帰宅したサオリが作ってくれた美味しい夕飯を食べながら、ケンは心の中でほくそ笑んだ。

(明日の朝には、三好家の風呂革命が起きるぞ……。

ドライヤーの汚名を返上してやる!)

 異世界の常識を軽々と置き去りにしながら、ケンの「趣味の工作」は、着々と家族の生活を変えていくのだった。


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