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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第19話 元美容師のこだわりと、家族の冷ややかな視線



夕暮れ時、泥だらけになったリナが、これまた疲れ切った表情のバルガスに連れられて帰宅した。

事の顛末――リナがお屋敷の塀を津波でなぎ倒したという報告――を聞いたケンとサオリは、玄関先で文字通り地面に頭がつくほどバルガスに平謝りした。

「本当にすみません! 塀の修理代は、屋台の売り上げから必ずお支払いしますので!」

「子爵様にも直接謝りに行かせてください、バルガスさん!」

必死に訴える二人に対し、バルガスは力なく手を振った。

「いや、いいんだ。師匠も『良い冥途の土産だ』って笑ってたしな……。

修理はギルドの専属大工を回すから気にするな。

それよりリナ嬢ちゃん、明日の朝から特訓だぞ。遅れるなよ」

そう言い残し、バルガスはふらふらとした足取りで去っていった。

家に入り、まずはリナを軽く洗浄魔法で綺麗にすると、ケンはゴホンと一つ咳払いをした。

「リナが大変な目に遭ったのはわかった。だが、こんな時だからこそ、暗い雰囲気を吹き飛ばす『希望』が必要だと思わないか?」

「希望……? パパ、何の話?」

怪訝そうな顔をするリナと、嫌な予感を察知して目を細めるサオリ。

ケンはそんな二人の前に、布に包まれていた「それ」を机の上にどんと置いた。

「ふ、ふ、ふ……。

ついに完成したぞ! これが、お父さんがこの世界で初めて作った記念すべき魔道具だ!」

布が払われ、姿を現したのは、鈍く光る鉄の管が組み合わさった『L字型』の奇妙な物体だった。

三好家のリビングに、しんと静まり返った時間が流れる。

「……ねぇケン。これ、何?」

サオリの乾いた声が響く。

ケンは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。

「これは『ドライヤー』だ!

ここにあるスイッチに指から魔力を通すと起動して、温かい風が出る。

もう一度通せば停止するんだ。

漢字回路『温風』の安定性は抜群だぞ。凄いだろう!」

「……」

「……」

沈黙。

予想していた「パパすごーい!」という歓声は、どこからも聞こえてこない。

「う、うん。凄いねパパ。

頑張ったんだね」

リナが気を使ったように苦笑いする。

その様子に耐えきれなくなったサオリが、額に手を当てて溜息をついた。

「リナ、ここはハッキリ言ったほうがいいわ。

……ねぇケン、何でこれにしたの?」

「何でって……髪の毛を乾かすの、不便だっただろう?

自然乾燥じゃ風邪をひくかもしれないし」

「あのね、ケン。

あなたが元美容師だってこと、すっかり忘れてたわ。

まさか生活家電の中で、これを一番初めに持ってくるなんて……」

「ん? なんでだよ! 必要だろ、ドライヤー!」

ケンの必死の主張に、サオリは指を折って数え始めた。

「私はてっきり、『給湯器』みたいなものとか、一気にパンが焼ける『オーブン』みたいなものを作ってくれるのかと思ってたのに」

「私も! パパ、真っ先にお風呂を自動で入れてくれるやつ作ってくれると思ってたよ!」

「何を言うんだ二人とも!

今までだってタオルで拭くだけで散々苦労しただろう? ドライヤーがないと髪が傷むんだぞ!

タオルドライだけの放置を舐めるなよ。

髪の艶もなくなるし、髪同士の摩擦ですごく傷むんだ。

美容師として、愛する家族の髪がボロボロになるのを黙って見ていろと言うのか!」

突如として始まった熱い「髪論」に、二人は呆れ顔で顔を見合わせた。

「はいはい、わかりました。パパが『髪馬鹿』だったこと忘れてたわ」

「そうそう、パパは髪のことになると周りが見えなくなるんだよね」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! せめて『髪フェチ』と言え!」

「はいはい、髪フェチさん。

……で、次は何を作るつもりなの?

先に聞いておかないと、またガッカリしそうだわ。

私は絶対、給湯器がいい。

お湯の調整が本当に大変なのよ」

「私も! キュウトキがいい!」

二人の強い要望に、ケンは肩を落としながらも頷いた。

「わかったよ……次は給湯器にすればいいんだろ。

漢字回路の応用でなんとかなるはずだ」

「よし、次が決まったなら食事にしましょう!

今日は景気付けに、ワーベアーの肉を使った『クマ辛鍋』よ!」

「わーい! 美味しそう!」

サオリの作った特製鍋は、ピリッとした辛みの中に熊肉の濃厚な脂が溶け込み、疲れた体に染み渡る絶品だった。

リナもバルガスとの特訓の疲れを忘れて、何度もおかわりをした。

食後、いつものように苦労してお湯を沸かし、順番にお風呂を済ませた後。

サオリとリナが、半信半疑でケンのドライヤーを使ってみた。

「……あら」

サオリが声を上げた。

温かく、かつ柔らかい風が、濡れた髪の間をすり抜けていく。

「パパ、これ凄い! すぐ乾くし、髪がサラサラしてる!」

リナも目を輝かせて自分の髪を触っている。

二人の嬉しそうな様子を見て、ケンはリビングの隅で満足げに腕を組んだ。

(ふふん……。やっぱりあるといいだろう? 美容師のこだわりを舐めてもらっちゃ困るな)

給湯器への課題は残ったものの、三好家の夜に「文明の風」が吹いた、記念すべき一日となった。



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