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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第18話 勇者の初稽古と、吹き飛ぶお屋敷の塀



領主邸へと続く美しく整えられた並木道を、バルガスとリナの二人が歩いていた。

道中、リナの止まらない好奇心は、ギルドマスターのプライベートへと向けられた。

「え、じゃあギルマスって結婚してるんですか?」

「そりゃあ俺だっていい年だからな。

独身だと思う方が無理があるだろ。一応、これでも一端の男だぞ」

「へぇ~、ギルマス何歳なんですか?」

「四十一だ」

「あはは! じゃあパパと同じ年だ!」

「プ―――!!!」

バルガスが隣で、まるで噴水のように盛大に吹き出した。

「わっ、汚い! ギルマス、大丈夫?」

「ゴホッ、ゲホッ……! ま、マジか……。

ケンは四十一なのか!? そりゃあ詐欺だろ、若作りにも程がある。

俺はてっきり、二十代後半の若造が背伸びして親父ぶってるんだと思ってたぞ」

「あはは、パパ、私と兄妹って言われて喜んでるからね。

あ、それでギルマスの奥さんは何歳なの?」

「ん? ああ、たしか八十七だったかな」

「ええっ! お婆ちゃんなの!?」

「ははは、違うぞ。家のカミラは魔族なんだよ」

「魔族のお婆ちゃん……」

「おい、そんなこと口が裂けてもカミラ本人には言うなよ? 殺されるぞ。

魔族は人より寿命が長いんだ。

見た目は二十代に見えるし、コミュ力抜群の美人だ。

元々は魔王様の側近だったらしいが、こっちに来て、師匠とパーティーを組んでて、今じゃこの村の冒険者たちを影で牛耳る姐御肌よ。

ただ、怒ると本当に怖えんだ……」

「へぇ~、そうなんだ。世界は広いねぇ」

「それ、世間は狭いって言うんだろ」

そんな世間話をしながら歩くうちに、二人は一際立派な石造りの門構えの前に到着した。

コトコト村の領主、ブイヨン子爵の邸宅だ。

すると、それまで気さくに喋っていたバルガスが、まるで別人のように背筋を正し、厳しい表情を作った。

「コトコト村冒険者ギルドマスター、バルガス。

子爵様にお取次ぎを。

リナを連れて参りました」

門番に対し、一寸の隙もない所作で告げる。

そのギャップに、リナがクスクスと笑いながら小声で茶化した。

「すごーい、ギルマスあんな風に喋れるんだ。

カッコイイ!」

「……俺を誰だと思ってるんだ全く。

少しは静かにしてろ、お前の評価が俺の評価に直結するんだからな」

「どうぞ、お入りください」

門番に促されて門が開く。

中に入ったリナは、広大な前庭と豪華な屋敷の造りに目を丸くした。

「すごーい、お城みたい!」

「くれぐれも失礼のないように」

「大丈夫! たぶん!」

「……その『たぶん』が一番不安なんだよ」

バルガスが胃を押さえるような仕草をしながら案内された先には、長い白髪を後ろで束ねた、穏やかな雰囲気の老人が立っていた。

彼こそがこの村の隠居領主であり、元S級冒険者のブイヨン子爵。

「師匠、お久しぶりです。これが勇者のリナです」

「リナです。領主様、よろしくお願いいたします!」

リナが元気よく挨拶すると、老人は目尻を下げて微笑んだ。

「ふぉふぉふぉ。そう緊張しなくていいぞ、勇者リナよ。

お主の噂は聞いとる。こっちについておいで」

子爵に連れられて着いたのは、屋敷の裏手にある広大な訓練場だった。

「ここは?」

「兵士たちの訓練場じゃよ。せっかくじゃから、勇者の力というものを少し見せてもらおうと思っての」

ブイヨン子爵は、傍らの武器ラックから無造作に木剣を一本手に取った。

バルガスがリナに耳打ちする。

「師匠は引退したとはいえ、元S級。今でも俺より強い。

安心して胸を借りてこい、リナ」

「……わかった。じゃあ、行きます!」

リナも木剣を構え、自慢の脚力で地を蹴った。

だが、十分後。

「も~、全然当たらないよ~!」

リナは肩で息をしながら叫んだ。

どれだけ速く動いても、どれだけ力任せに振っても、子爵は最小限の動きでそれを逸らしてしまう。

「ふぉふぉふぉ。お主は力もスピードも一級品じゃが、剣の使い方を全く知らん。

獣相手ならそれでも良いかもしれんが、相手が知恵のある悪い奴らでは、その無駄な動きを突かれてやられるぞ」

「うーーん……。じゃあ、魔法使ってもいい? パパが練習しなさいって言ってたし!」

「ふぉ? 魔法も使えるのか。

いいぞ、どんなもんか見てやろう」

「じゃあ行きます! 燃えろー!」

リナが叫び、魔力を練り上げた瞬間、ブイヨン子爵の表情が劇的に変わった。

長年の実戦経験が、リナの制御不能な魔力の膨張を察知したのだ。

「いかん! バルガス下がれッ!!!」

「はっ!」

バルガスが反射的に後方へ飛び退くと同時に、リナの周囲からサークル状の猛烈な火柱が噴き上がった。

訓練場の空気を一瞬で焼き尽くすほどの熱風が吹き荒れる。

「あー! ごめんなさい! 木が燃えちゃう! えーっと、水出てー!」

慌てたリナが再び願う。

今度は空中に巨大な魔法陣が展開され、そこから幅十メートル、高さ五メートルという災害級の津波が、文字通り「出現」した。

ザバァァァァァァァッ!!!!!

溢れ出した膨大な水流は、燃えかかった訓練用の木々を軽々となぎ倒し、そのままの勢いで屋敷を囲んでいた立派な外壁の塀までをも粉々に粉砕して、外の街道へと流れ去っていった。

静寂が訪れた後、そこにあったのは瓦礫と化した塀と、泥だらけの訓練場だった。

「…………ごめんなさい」

リナが泥の中に全力で土下座する。

「貴様ッ! 何をやっとるんだお前は!!」

バルガスが怒鳴り声を上げ、リナに詰め寄った。

「おいリナ! お前、詠唱は知ってるんだろ!? なんだ今の無茶苦茶な詠唱は!」

「だって、あんな長い呪文覚えられないんだもん!

『出て!』って言ったら出たから、これでいいかなーって……」

「なんて無茶苦茶な親子だ……!!」

バルガスは天を仰いだ。

パパはパパで空を焼こうとし、娘は娘で領主の家を流し去る。

常識という言葉が、この親子には通用しなかった。

「ふぉっふぉっふぉ! よい、よい。勇者リナよ、これを見てどう思う?」

ブイヨン子爵が、濡れた顔を拭いながらリナに問いかけた。

「……ひどいことしました。弁償しきれないです。

これから、こうならないようにちゃんと練習します」

「うむ。素直でよろしい。

では、儂が直々に力の使い方を教えてやろう。

勇者を育てられるなど、隠居の身にはこの上ない冥途の土産じゃ」

「冥途の土産って……子爵様ならあと五十年はいけるでしょ」

バルガスがぼそっと言うと、頭に木刀が落ちてきた

「まったく、そう言う所はよく聞いてるんですね」

それを見てリナがケタケタ笑う。

「ふぉっふぉっふぉ、元気な娘じゃな。よろしくお願いいたします、と言え」

「よろしくお願いします!」

こうして、リナは最強の師匠、ブイヨン子爵に教えを乞うことになった。



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