第17話 領主の呼び出しと、秘められた魔道具第一号
三好家の平和な朝は、玄関を激しく叩く音と共に破られた。
立っていたのは、顔を真っ青にしたギルドマスターのバルガスだった。
「すまん、ケン! 本当にすまん!」
「……いきなり謝られても、一体どうしたんですか?」
ケンが呆れ顔で迎え入れると、バルガスは絞り出すような声で告げた。
「リナ嬢ちゃんが『勇者』だってこと、領主にバレちまった……」
「「ええーーっ!!?」」
ケンとサオリの絶叫がハモる。
だが、当のリナだけは一人、不思議そうに首を傾げていた。
「……で、リョーシュって何? 美味しいの?」
頭を抱える両親をよそに、ケンが溜息混じりに説明する。
「リナ、お前なぁ……。
領主様っていうのは、このコトコト村を治めている一番偉い人のことだ。
日本で言うところの市長さんみたいなものだよ」
「ふーん、偉い人ね。わかった!」
(……絶対わかってないな、この顔は)
「でもバルガスさん、どうしてバレたんですか?」
「それなんだが……その領主様ってのが、元S級冒険者で、前ギルドマスターの俺の師匠なんだ。
ブイヨン子爵って言えば、この国で知らない者はいないってくらいの名士でな。
引退して隠居してるんだが、俺の挙動が怪しいってんで、昨日問い詰められて吐かされた……」
「S級? じゃあ、すっごく弱い人なの?」
リナの突拍子もない質問に、ケンが即座にツッコむ。
「リナ、それはF級とかと勘違いしてるだろ。Sは最高ランクだよ。リナ、少し黙っててね」
「ぶー」
「冒険者から子爵になるなんて、相当な功績を立てた方なんですね」
サオリが感心したように言うと、バルガスが重々しく頷いた。
「ああ。というわけでリナ嬢ちゃん、今から俺と一緒に領主邸へ行ってもらうぞ。師匠がお呼びだ」
「そんな! リナは領主も子爵も知らないような、世間知らずですよ! 何か失礼があったら……」
「ぶー。
ちょっとママ、今さらっと私を馬鹿って言わなかった?」
「リナ、事実なんだからしょうがないでしょ。
大人しくしてなさい」
「ぶー!」
不安に駆られる夫婦を置き去りに、リナはバルガスに連れられてドナドナと出かけて行った。
「……まあ、バルガスさんが付いてるんだ。
命までは取られないだろう」
ケンは自分に言い聞かせるように呟くと、作業机に向かった。
リナのことは心配だが、今は気を紛らわせるためにも、没頭できる「仕事」が必要だった。
「よし、サオリ。
俺はリナが帰ってくるまで、魔道具作りに集中するよ。ついに第一号を形にするんだ」
ケンは作業机の上を整理し、昨日見つけた『漢字回路』の法則を形にするための材料を並べた。
まずは羊皮紙。
そこに、青石インクで精密な魔法陣を描いていく。
サークルはこの世界の言葉、そして中心に据える事象詠唱の漢字は……二文字。
ケンは魂を込めて、その文字を書き入れた。
「よし、事象漢字はこれでいい。あとは固定と構造だな」
続いて固定の魔法陣、今度は四角を書いて、その線上に『固定』の詠唱を書く
〈天の父よ、御手に成る世界の調和を仰ぎ見ん。
此処に記すは御心の欠片、地において理を刻む誓いなり。
感謝を以てこの文字を聖別し、天の理をこの器に繋ぎ留めたまえ 〉
次に手に取ったのは、市場で買ってきた鉄の管だ。
その管の管の片側に木の箱をはめて 、先ほど漢字回路を書いた羊皮紙を慎重に貼り付ける。
さらに、ジャイアントボア から採取した魔石をセット。
レッドラズリで回路を繋ぎ、魔力を流すための「道」を作る。
そして、漢字回路の上に固定の魔法陣を重ねる。
仕上げに、握りやすいように加工した持ち手を取り付け、親指で操作できる位置に起動スイッチを配置した。
「……ふう。これで完成だ。
見た目はちょっと武骨だけど、機能は完璧なはずだ」
ケンは手の中にある「管のついた不思議な道具」を見つめた。
これこそが、三好家がこの世界で快適に過ごすための記念すべき魔道具第一号。
「あとはリナが帰ってきたら、みんなの前でお披露目だな。ふふふ、これを見たら二人とも驚くぞ……!」
ケンは自画自賛しながら、その自信作を布で包んで隠した。
領主邸でリナが放つであろう爆弾発言の予感も知らず、ケンは自分の「大発明」に満足感でいっぱいだった。




