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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第16話 漢字回路の法則と、分かたれた大陸の理



冒険者ギルドでの面談を終えた三好家の三人は、どこか晴れやかな顔でギルドを後にした。

あの後の話し合いで、ケンとリナは一足飛びに『B級冒険者』に、そしてギルドに登録していなかったサオリも、その「熊殺し」の特例として『C級冒険者』に正式登録された。

これで身分は保証された。

あとはこの世界のルールに沿って、静かに、時に大胆に暮らすだけだ。

帰り道、ケンはバルガスから聞いたこの世界の地理を、頭の中で地図として描き出していた。

この大陸は、巨大な『÷(割る)』の記号のような形をしているという。

「中央の太い横棒がメインの大陸になっていて、その中央にあるのが僕たちの住むポタージュ公国……。

さらに西側を見れば、魔王ヴァンドレッドが治める魔族領アビスガルドが広がり、東側には美しき森の民が住まうエルフ領エルダー・リーフがある。

そのエルダー・リーフの南に軍事国家ヴォルガノン帝国 。

地図で見ると、エルフ領とポタージュ公国が帝国が隣接しており、そこには常にぴりついた緊張感が漂っているのが容易に想像できた。

大陸の上下に浮かぶ点、すなわち南北の島々は、北がドワーフのアイアンフォルジュ、南が獣人族のファングランド。

「コトコト村はポタージュ公国の北の端っこ……ドワーフの島にも近い。

本当に、魔道具師の真似事をするにはこれ以上ない場所だな」

家に着くと、サオリが手際よく昼食の支度を整えた。

「あなた、午後からリナと屋台に行ってくるわね。

ジャイアントボアの肉、まだあるし!」

「ああ。

俺はやっと、念願の実験の続きをさせてもらうよ」

家族を送り出したケンは、作業机に向かった。

目の前には、ワーベアーから採取した巨大で魔力密度の高い魔石。

そして筆とインク。

今回の研究テーマは、昨日思いついた『漢字回路』の成立条件だ。

「この世界の魔法言語を、どこまで日本の言葉に置き換えられるか……。

これができれば、設計の自由度は跳ね上がる」

ケンは四つのパターンを仮定し、実験を開始した。

ベースは前回の「水を出す」回路だ。

サークル(外枠)=こっちの言葉 / 事象(中心)=漢字

サークル(外枠)=こっちの言葉 / 事象(中心)=日本語ひらがな・カタカナ

サークル(外枠)=   日本語 / 事象(中心)=こっちの言葉

サークル(外枠)=   日本語 / 事象(中心)=日本語のどれか

板の上に、青石インクで精密に回路を描いていく。

結果は驚くほど明確だった。

成功したのは、**パターン1(サークル=こっちの言葉 / 事象=漢字)**のみだった。

「なるほど……。

サークルの詠唱は、この星の神に祈りを捧げ、魔力の『器』を作るためのものだ。

だから、この星の言葉じゃないと受理されない。

だが、その中に入れる『命令(事象)』は、魔法を文字に表したものに過ぎないんだな」

無詠唱魔法がイメージの力で発動するように、漢字という文字に宿る強力な『表意文字としての言霊』が、ケンの魔力を通じて魔法現象へと変換されたのだ。

一方で、ひらがなやカタカナは文字自体の意味が弱いためか、魔力を乗せようとしても霧散してしまった。

「よし、次は『漢字の制限』だ。

何文字まで制御できる?」

ケンはさらに検証を重ねた。

一文字の『水』は成功。

二文字の『熱湯』も、見事に火傷しそうなほど熱いお湯が噴き出した。

だが、三文字を狙って『超熱湯』と書くと、回路が激しく明滅し、魔力が中空で立ち消えてしまった。

「……二文字までか。

熟語として意味を固定できるのは二文字が限界のようだな。

だが、二文字あれば十分だ。

組み合わせ次第で、どんな魔道具も作れるぞ」

夕方。

屋台を終えたサオリとリナが、意気揚々と帰ってきた。

「パパ、ただいま! 今日も完売だよ!」

「お疲れ様。リナ、今日は計算ミスしなかったか?」

ケンの問いかけに、リナはこれ以上ないほど得意げに胸を張った。

「パパ、失礼しちゃうな! 今日はね、なんと『銀貨三枚と銅貨五枚』のお会計に、パッと『銅貨三十五枚ですね!』って答えたんだから!

お客さんも『おっ、このお嬢ちゃん計算早いな』って驚いてたよ。

私、計算の天才かもしれない!」

リナが鼻の穴を膨らませて自慢する横で、サオリが「本当に助かったわよ」と微笑んでいる。

だが、ケンは一人、遠い目をして立ち尽くしていた。

「(……リナ、それただの二桁の掛け算と足し算だぞ。……っていうか、お前あっちの世界じゃ高校生だったよな? 九九ができるだけで天才扱いされて満足してるなんて……)」

異世界の過酷な環境(?)がそうさせたのか、それとも単に「おバカ勇者」の性質が加速しているのか。

義務教育の記憶が「九九」という最低限のラインで踏みとどまっていることに、ケンは頼もしさよりも、親としての深い悲しみとガッカリ感を禁じ得なかった。

「……あ、あの、パパ? なんでそんなに切ない顔して溜息ついてるの?」

「いや、いいんだ。

……リナがパニックにならなければ計算ができることが分かっただけでも、一歩前進だよな。

うん……」

ケンは自分に言い聞かせるように頷くと、気を取り直して今日の研究成果を二人に話した。

「……ということで、サークルはこの世界の言葉、中の命令は漢字二文字までなら通ることがわかった。

これで、いよいよ本命の『魔道具』が作れるぞ」

「まあ、楽しみだわ! あなた、やっぱり凄い魔道具師になれるわよ」

窓の外には、ポタージュ公国の穏やかな夕焼けが広がっている。

南の軍事国家の不穏な影も、西の魔王のチャラい笑顔も、今はまだ遠い。

三好家のキッチンに、新しい漢字回路の灯がともる日は近かった。


挿絵(By みてみん)

AI画像生成で簡単な地図を作ってみました

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