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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第12話 若夫婦の噂と、異世界のキッチン革命



夕闇が村を包み始める頃、ピクニックから帰還した三好家の面々は門をくぐった。

「私は先に帰って夕飯の準備を始めておくわね。

ホーンラビット、楽しみにしていて!」  

サオリはそう言い残すと、軽やかな足取りで自宅へと向かった。

ケンとリナは、獲物を精算するために冒険者ギルドの裏手にある解体所へと足を運んだ。

 そこには、昨日のジャイアントボアでも驚愕していたベテラン職員のガンツが、エプロンを拭いながら一息ついているところだった。

「おっ、ケンにリナ嬢ちゃんじゃないか。

今日はどうした? まさかまた何か担いできたのか?」

 ケンは周囲に他の冒険者がいないことを確認し、声を潜めてガンツを隅へ呼び寄せた。

「ガンツさん、実は……とある伝手で私、マジックバッグを保有しておりまして。

あまり公にするのもどうかと思うので、こちらで直接お出ししてもよろしいでしょうか」

 ガンツは拍子抜けしたように笑った。

「なんだ、そんなことか! 安心しろ、凄腕の冒険者や商人はみんな持ってるもんだ。ギルド職員なら守秘義務もあるし、他にはバラしゃしねえよ。

で、何が入ってるんだ?」

「ありがとうございます。

……実は今日、北の森で『ワーベアー』を討伐しまして」

「ワーベアーだぁぁ!!?」  

ガンツの叫びが響き、ケンは慌てて口を塞ぐジェスチャーをした。

「シッ、声が大きいです!

……たまたまホーンディアと戦っていたワーベアーを見つけましてね。

疲弊している今ならいけるかもと、運良く仕留められたんです」

「それは……とんでもねえ幸運だな。

おいおい、マジかよ……」

 ケンはマジックバッグから、仕留めたばかりのワーベアー、ホーンディア、そしてホーンラビット二匹を取り出した。

ガンツはその死体を見るなり、プロの目になって唸った。

「こりゃあ……見事なもんだ。

ワーベアーの奴、内臓まで衝撃でいってやがる。

相当な腕前だな」

「それでお願いなんですが、デカいのは急ぎません。

ただ、ホーンラビットだけ今すぐ解体できますか?

妻が今日の夜ご飯に使うと言ってまして」

 ガンツはニヤニヤしながらケンの肩を叩いた。

「妻ってサオリさんだろ? 聞いてるぜ。

三人兄妹にしか見えないような若夫婦が、大きい子供まで連れて激ウマ料理を売りさばいてるって村中で噂だ。

若くて美人の奥さんに、これだけデカい獲物を持ち込む旦那。

村の独身野郎どもが嫉妬で歯ぎしりしてるぞ」

「パパ、若夫婦だって! 良かったね、若く見られて。

じゃあ私はパパの妹だね!」  

無邪気に喜ぶリナを見て、ケンは苦笑いを返した。

「ははは、ありがとうございます。

若く見られるのは嬉しいですが、親としては複雑ですね」

「よし、ラビット二匹なら三〇分もあれば終わる。

革の売却代金と一緒に渡してやるから、そこで待ってな」

 三〇分後。

ケンは革の売却代金である銀貨二枚と、丁寧に小分けにされたウサギ肉を受け取った。

ワーベアーの魔石や残りの部位は明日引き取ることになり、二人は急いで家へと向かった。


 玄関を開けると、そこにはエプロン姿のサオリが満面の笑みで立っていた。

「おかえりなさい! 早かったわね」

「ああ、ただいま。

……なんだか凄く機嫌が良さそうだけど、何かいいことあったのか?」

 サオリは待ってましたと言わんばかりに、テーブルの上に並べた草花を指差した。

「森で採れたものを鑑定してたらね、とんでもないお宝がいっぱいあったのよ!

こっちの世界でも名前が似てて……ほら、この『ロマリ』っていうのはローズマリーにそっくりなの。

こっちの『ガリケ』はガーリック、つまりニンニクよ。

さらに『ネスタド』はマスタード、『クミン』なんて名前までそのまんま『クミン』よ!」

 サオリのテンションは最高潮だった。

料理人にとって、未知の、けれど馴染みのある香辛料の発見は、何物にも代えがたい喜びなのだ。

「これがあれば、屋台の料理はもっと進化するわ! 定期的にあの森へ行きましょう、あなた!」

「ああ、もちろんだ。

……あ、これ、頼まれていたウサギ肉だよ」

「まあ、ありがとう! 腕が鳴るわ」

 サオリは肉を受け取ると、さっそくキッチンへと向かった。

すぐにガリケ(ニンニク)の香ばしい香りと、ロマリ(ローズマリー)の清涼感のある香りがリビングまで漂ってくる。

「パパ、今日の晩ごはん、なにかな?」  

リナがお腹を鳴らしながら期待の眼差しを送る。

「最高級のスパイスと、獲れたての肉。

サオリが作るんだ、間違いなく極上の晩餐になるだろうな」

 異世界生活三日目。三好家の食卓は、新たな香辛料の発見によって、また一段と豊かなものになろうとしていた。


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