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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第10話 オーバーキルの風と、チートな鞄



北の森へ一歩足を踏み入れると、そこは村の近くののどかな風景とは一変し、巨木がひしめき合う神秘的な空間だった。  

三好家の面々は、それぞれの目的を胸に森の奥へと進んでいく。

「鑑定! ……あ、これはハズレ。

ただのシダね。

……鑑定! ……あら、これは『香りワサビ』の根っこじゃない! お肉の薬味に最高だわ!」

 サオリはさっきから鑑定スキルを連発し、道端の植物一つ一つに一喜一憂している。

主婦であり料理人である彼女にとって、この森はまさに「無料のスーパーマーケット」状態なのだろう。

 一方でケン(三好賢治)は、手頃なオークの木の群生を見つけると、足を止めた。

「よし、この辺りで一度、自分の魔法を試してみるか」

 神様から貰った『魔法教本』知識によれば、魔法を使うには基本的に「詠唱」が必要だ。

ただ、威力が低くてもいいのであれば、イメージを固定することで「無詠唱」でも発動は可能らしい。

「ちょっと魔法を使ってみるから、二人とも俺の後ろに下がってくれ」

「はーい、パパ頑張って!」

「ケン、気をつけてね」

 二人が十分に距離を取ったのを確認し、ケンは精神を集中させた。

脳内の魔力回路が熱を帯びるのを感じる。

まずは古書にあった通りの正式な詠唱を試す。

「(ええと……)天に在す父よ、世界を巡る自由なる息吹に感謝を捧げん。 御心が空を翔けるごとく、透明なる刃を地に成したまえ―― 『ウインドカッター』!」

 刹那、森の静寂を切り裂くような、凄まじい風切音が響き渡った。  ケンの手から放たれた目に見えない風の刃は、放物線を描きながら森の奥へと吸い込まれていく。

 ズパパパパパンッ!!

 乾いた音が連続して鳴り響き、重厚なオークの木がまるでおが屑のように宙に舞った。 「…………え?」

 風が止んだ後、ケンの目の前には、見事に切り倒された丸太が転がる一本の「道」が出来上がっていた。  ケンが呆然としながら倒れた木を数えると、その数、実に二十三本。しかもどの切り口も、鏡のように滑らかだ。

「……神様、これ、いくらなんでもチートすぎるんじゃないか?」

 後ろを振り返ると、リナとサオリも口をあんぐりと開けて固まっていた。

「パパ、すごい! すごいよ! もう魔王でも倒せるんじゃないの!?」  リナがいち早く我に返り、ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。

「……あなた、これ……ちょっとした環境破壊よ。もはや木こりの仕事じゃないわ……」  サオリは引きつった笑顔で呟いた。

「ごめん、威力設定を間違えた……もう一回だけ試していいか?」

 二人が頷くのを確認し、今度は詠唱を省くことにした。  ケンは手のひらを見つめ、カミソリのような鋭い「鎌鼬かまいたち」を小さくイメージする。

「(心の中で――ウインドカッター)」

 シュッ。  先ほどよりはるかに静かな音とともに、数本の風の刃が飛んだ。  今度は三本の木が、音もなく横倒しになる。

「よし……これなら実用的だ。さっきの正式詠唱は、ここぞという時以外は『詠唱禁止』だな。……よし、二人とも、もう大丈夫だぞ」

「あなた、どういうこと? さっきのと何が違うの?」  サオリの疑問に、ケンは実感を込めて答えた。

「詠唱っていうのは、魔法のプログラムをフルパワーで起動させるためのコマンドみたいなものなんだろうな。言葉にしないことで出力を抑えられる。……分かったか、リナ?」

「えっ? えーと……『エイショー』をしないと、パパが優しくなるってこと?」 「……いや、リナは気にしなくていいと思うぞ」 「ウン、ソウダネ」 (絶対わかってないな、この勇者様……)

 ケンは苦笑いしながら、倒れた大量の木材をマジックバッグへと放り込んでいった。  その時、サオリがふと思い出したように言った。

「そういえばあなた、自分たちが持ってる『マジックバッグ』に鑑定をかけたことある? 見てみてよ」

「そういえば、自分の道具は盲点だったな。どれどれ……鑑定!」

【名称:マジックバッグ】 【詳細:神が与えた最高性能のマジックバッグ。容量無限。内部の時間経過無し。ただし生き物は入れれない】

「……ははは。容量を調べるまでもなかったな。笑うしかないよ」

 ケンが鑑定結果を伝えると、サオリが今日一番の歓声を上げた。

「えっ!? 時間経過無し!? ってことは、入れた時の温度や鮮度のまま、ずっと保存できるってこと? 冷凍しなくてもいいし、賞味期限を気にしなくていいのね!」

 料理人として、これ以上の宝物はないだろう。

喜ぶサオリを見ていると、ケンの足元に何かが転がっているのが見えた。

 さっきの「二十三本切り」の際、運悪く巻き込まれてしまった魔物だ。

「あ、これ……『ホーンラビット』だ。

二匹とも胴体が真っ二つになってる……」

 角の生えたウサギの死骸を見つめ、サオリが顎に手を当てた。

「ホーンラビットね……。

フレンチレストランだと、ウサギ肉の煮込み料理やローストは定番だわ。

血抜きは私の浄化ですぐ終わるし、今日の晩ごはんで試してみましょうか」

「……我が妻ながら、たくましいな」

 つい数日前まで、お店で仕入れた肉やスーパーのパック肉しか扱っていなかったはずの妻が、今や魔物を食材として冷静に吟味している。

最強勇者の娘、食材ハンターの妻、そしてオーバーキル気味の魔道具師の父。

「よし、木材も肉も手に入った。次は本命の魔石だな!」

 三好家のお仕事ピクニックは、まだ始まったばかり。  

ケンの号令とともに、三人はさらに深い森の奥へと足を進めた。


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