第2章:神々の侵略(かみがみのしんりゃく)
——神殺しの前に、境界はすでに壊れていた——
ギルドを出発する直前、アキヒロとコーイチは「SSランク」の冒険者たちに阻まれた。
紫煙をくゆらせるヤナミの背後から、X字の傷痕が特徴の巨漢・レイジ=リンが声をかける。
「……つまり、俺たちSSランクが式神退治を続けて、こいつらCランクのクソガキどもが『SS級任務』をやるってことか?」
ヤナミは煙草をふかしながら淡々と言った。
「到着順ですよ、リンさん」
リンは嗤う。
「いいや、任務は俺たちが引き受ける。ガキどもには……経験値を稼がせてやる」
「『Cランク』だと!? このクソ野郎が——!!」
アキヒロが猛然と飛びかかろうとするも、コーイチに腰を抱き止められる。
「私とコーイチさんは一週間で10体の式神を狩った! お前は一月に1体だろが!!」
リンはゆっくりと近づき、二本の指でアキヒロの額を弾こうとした。
しかしアキヒロは素早く回避——
「へっ、それだけの力か?」
……が、次の瞬間、リンは掌底でアキヒロの頭頂部を叩きつけた。
ドスン!
アキヒロは地面に膝をつく。
「聞けよ、小僧」
リンが影で覆いかぶさる。
「お前らがCランクなのは……実力だからだ」
拳がハンマーのように振り下ろされる。
SSランクの圧倒的な力に、アキヒロは吹き飛ばされた。
「アキヒロ! しっかりして!」
コーイチが彼を揺さぶる。
「SSランクになりたきゃ……リンより先にプロメテウスを捕まえないと!」
「……ああ、そうだな」
二人はレイジ=リンを出し抜くため、黄昏の中を駆け出した。
山道にて
「五百万両も懸かる神様ってなんだ?」
アキヒロが険しい山道を登りながら呟く。
「ゼウスも怖じてるんじゃねえのか?」
「怖れてなんかいない」
コーイチは魔導杖のベルトを締め直す。
「支配したいだけよ。任務を『普通の討伐』に見せかけて……」
「へえ、『普通』の任務で不死身のティターンを狩るのかよ」
アキヒロが嗤う。
「だったら、ゼウスが自分で探せばいいだろ」
コーイチは朽ちた赤い鳥居の前で止まった。
神々に見捨てられた廃社だった。
「領外では力を失う。ゼウスはバカじゃない」
「……で、プロメテウスはここにいるのか?」
「旅行者の話では……エロスが歌舞伎町に、北欧神が中国地方に現れたらしい」
コーイチの声が低くなる。
「もう……『聖域』と『侵略』の境界は消えたのよ」
「植民地みてえだ」
アキヒロが舌打ちする。
「そう……でも、私たちだけが『神のいない国』なの」
コーイチは腐った木の彫刻をじっと見つめた。
アキヒロは沈黙した。
「……神々を、恋しく思わないか?」
「え?」
「日本神話の神々が」
風がカナエ・コーイチの黒髪を優しく揺らした。
「秩序が恋しい……太陽が確かに昇っていたあの頃。式神たちに統制があった時代が……」
「俺は別だ」
アキヒロは小石を蹴飛ばした。
「神も祈りも知らねえ。僧侶みたいに頭を垂れるつもりはない」
「でも今は……祈る相手すらいない」
コーイチの目に陰が差す。
「そして魔法は……腐り始めてる」
森の遭遇
不気味な森を進む二人。
倒れた鳥居が、神々の没落を証言するように見下ろしていた。
「そこで止まれ、ボンクラども!」
道を塞ぐ二人組。
銀の三つ編み(みつあみ)の女弓使い(おんなゆみづかい)と、褐色の肌にハンマーの巨漢だ。
「おお、氷の姫と無名の犬か!」
巨漢・ヒカルが乾いた根を噛みながら笑う。
「プロメテウス目当てだろう?」
コーイチが眉をひそめる。アキヒロは無言だ。
「ヒカル、やめろ」
女弓使いが呆れたように言う。
「なんでだ? 見ろよこいつ……名字もねえくせに女に従ってやがる。戦士の風上にも置けねえ!」
アキヒロの拳が震えた。
コーイチが前に出る。
「アキヒロはお前みたいなバカ十人分の価値があるわ。九州の巨大式神を凍らせたのを忘れた?」
「いや、あれはお前の功績だろ? こいつはただ従っただけ」
ヒカルが不敵に笑い、致命打を放つ。
「……そういや、アキヒロ。親の顔も知らねえんだっけ?」
ヒカルの笑い声が森に響く。
コーイチが反論しようとしたが、アキヒロは彼女を制した。
「……行こう」
異神の刻印
古い吊り橋を渡ると、異変が始まった。
「これは……日本のものじゃない」
コーイチが金色の渦巻くルーン文字に触れる。
「ギリシャ神話の刻印……!」
「こんな神社に、なぜ……?」
目の前の廃社には、アテナとヘルメスの紋が神々を塗り替えていた。
「プロメテウスじゃない……アレスか? アフロディテか?」
アキヒロの喉が渇く。怒りが滾る。
コーイチも、初めて恐怖を露にした。
空気が重くなる中……
「……聞こえたか?」
茂みから現れたのは、傷ついた鹿型の式神だった。
その背中には——日本語の祝詞とギリシャ紋が混じった刻印が灼きつけられていた。
式神は喘ぎながら、森の奥を指し示す。
「……助けを求めてる」
コーイチが呟く。
「……それとも、警告か」
二人は顔を見合わせた。
この森で、彼らは「最強」でも「選ばれし者」でもないと悟った。
ただ——「進む勇気」だけが武器だった。
コーイチの掌に氷の結晶が輝く。
「行きましょう」
アキヒロは無言で刀を抜いた。
「次回章:プロメテウスの痕跡!」
あとがき:
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
まだ日本語を勉強中なので、感想やアドバイスをいただけるととても嬉しいです。
また次回もよろしくお願いします!
それでは、素敵な一日をお過ごしください!(•̀ᴗ•́)و




