【第6話】新スキル「気づき力」。でもそれ、ちょっとだけ面倒かもしれない
月曜の夜。
今日も1日、淡々と働いて帰ってきた。
着替えてソファに沈み込む。スマホを手に取ると、見慣れた通知音が鳴った。
【新スキル獲得:「気づき力 Lv.1」】
「……気づき力?」
また地味なスキル名が来た。
スキル詳細を確認してみる。
■【気づき力 Lv.1】
・会話や行動、表情などから相手の“微細な変化”に気づきやすくなります
・感情の揺れ、違和感、空気の変化に対する注意力+10%
・※高レベルになると、望まない“本音”にも気づいてしまう恐れがあります
「……いや、“恐れがあります”って何だよ」
つい声に出して突っ込んでしまう。
たしかに、聞き上手スキルが育ってから、人の話をよく聞くようになった。
それが連動して、このスキルが派生したのかもしれない。
でも、相手の“本音”に気づいてしまうって、良いのか悪いのか……。
次の日の朝。
通勤電車の中で、隣の会社員のスマホから通知音が鳴った。
「はぁ……またかよ……」
小さくつぶやかれた声が耳に残る。
普通なら気にしない。でも、今日はなぜか妙に引っかかる。
──スマホ画面に一瞬見えたのは、“面接結果のお知らせ”という文字。
彼はずっと下を向いて、画面を消したあとも、しばらく黙っていた。
(……落ちたんだろうな)
勝手な想像かもしれない。でも、妙にリアルだった。
“気づき力”って、こういうことなんだろうか。
会社でも、ちょっとした違和感に気づくことが増えた。
いつも明るい声であいさつしていた佐藤くんが、今日は無言で席についた。
昼休みになっても、スマホを見ながらため息ばかりついている。
「……何かあったの?」
何気なく聞いてみたら、彼は驚いたように顔を上げた。
「あ……いや、ちょっと親が入院しちゃって。今朝連絡きたんです」
「そうか……それは大変だな」
それ以上は踏み込まなかったけど、「話せてちょっと楽になりました」と彼は言った。
【スキル効果:「気づき力 Lv.1」「聞き上手 Lv.2」連携 → 経験値+8】
人の“変化”に気づくことが、こんなに相手を助けることになるとは思わなかった。
でも、その一方で──
「……なんか最近、坂本さん、よく見てますよね」
別の部署の女性社員に、昼の休憩中、そんなふうに言われた。
「え? ああ、いや、そんなつもりは……」
「まあ、いい意味ですけどね。ちょっとドキッとしました」
冗談っぽく笑われたけど、こっちは少し焦った。
“気づきすぎる”って、たしかに場合によっては不自然になる。
空気を読むのと、詮索するのは違う。
(……やりすぎ注意ってことか)
ちょっとスキルの使い方を考えたほうがいいのかもしれない。
その夜、スーパーで買い物をしていると、店員さんの顔がどこか疲れていることに気づいた。
「……大変そうですね」
気づけば、口に出していた。
すると彼女は、ふっと苦笑した。
「見てわかります? 今日、2人欠勤で……回らなくて」
「それは……お疲れ様です」
自分にできることは、せいぜい「レジ袋いりません」と言うくらいだった。
でも、帰り際に「ありがとうございます、助かりました」と言われた。
大したことはしていない。
でも、誰かの“気持ち”に寄り添うことが、少しでも意味を持つなら──
このスキル、悪くないかもしれない。
帰宅後、スキル欄を見る。
【気づき力 Lv.1:熟練度+14(次Lvまであと36)】
「……気をつけながら、育てていこう」
気づきすぎず、でも見逃さず。
それが、“平穏な生活”を続けるコツかもしれない。