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【第4話】世界は変わらない。でも、少しだけ優しくなった気がした

土曜日。久しぶりに、何の予定もない朝。


 目覚ましはセットしていなかったけど、自然と6時過ぎに目が覚めた。

 それだけで、ちょっと驚く。


「……あれ、ちゃんと起きられたな」


 たぶん、“早起き確率向上 Lv.1”が効いてるんだろう。

 実感があるような、ないような。でも、悪くない気分だ。


 コーヒーを淹れて、静かな部屋でゆっくり飲む。

 外から聞こえるのは、風の音と鳥のさえずりだけ。


 何も予定がない日って、昔は時間を持て余してたけど、

 今は、こういう時間がちょっとありがたく感じる。


「散歩でもしてくるか」


 ジャージに着替えて、近くの公園まで足を運ぶ。

 特別な場所じゃない。ブランコとベンチと、小さな広場。

 でも、朝の光に照らされたその風景は、どこか清々しい。


 ベンチに腰を下ろすと、向こうに見慣れた人影があった。

 毎朝、犬を連れている強面の中年男性。

 話したことはない。いつも無言で歩いている。


「……おはようございます」


 なんとなく声をかけてみた。

 返事はない。目も合わない。


 まあ、そうなるよな、と心の中で苦笑して、空を見上げた。


 そのあと、公園の片隅で落ち葉を集めているおばあさんが目に入った。

 近くの老人会の人だろうか。小さなほうきで、黙々と掃いている。


「お手伝いしますよ」


「あらまあ、若い人が珍しいわねえ。ありがとうねぇ」


 しゃがんで一緒に落ち葉を集めていると、近くで遊んでいた小学生の女の子が声をかけてきた。


「おじさん、なにしてるのー?」


「お掃除だよ。一緒にやってみる?」


「やるー!」


 その声につられて、もう一人、もう一人と、子どもたちが集まってきた。

 わいわい騒ぎながら、遊び半分で落ち葉を集めていく。


 掃除というより、ちょっとしたイベントみたいになった。


 おばあさんは笑いながら、俺に小さくつぶやいた。


「こういうのが、一番の“地域貢献”ねぇ」


【生活経験値+12】【聞き上手スキル 熟練度+1】


 スキルって、こういうときにも育つのか。

 経験値だけじゃなくて、なにかが“積もっていく”感覚がある。


 子どもたちは飽きると同時に、ボール遊びへ戻っていった。

 俺も一礼して、その場を離れる。


 帰り道、公園の入り口近くで、さっきの強面の男性と再びすれ違った。

 すると──


「……おはようございます」


 低く、しかし確かに、彼はそう言った。


 一瞬、誰に言ったのかわからなかった。

 でも、目が合って、軽く会釈されたときに確信した。


 ──俺にだ。


「おはようございます」


 思わず、少し声が弾んだ。

 ただ、それだけのことなのに、なぜか胸の奥があたたかい。


 別に、世界が劇的に変わったわけじゃない。

 貧困がなくなったわけでも、争いが消えたわけでもない。


 でも。


 落ち葉を拾ったら子どもたちが手伝ってくれて、

 強面のおじさんが挨拶を返してくれて、

 誰かがちょっとだけ、笑ってくれて。


 それだけで、「世界、ちょっとだけ優しくなったかもな」って思えた。


 それって、けっこうすごいことなんじゃないか。


 そんな気がした、土曜日の朝だった。

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