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【第3話】“スキル”らしきものが解放されたけど、地味すぎて笑った

 金曜日の朝。

 起きたときに、スヌーズを押さなかった。それだけで少しだけ、自分を褒めたい気分になった。


【生活レベル:3 → 4】


 そして、その瞬間にスマホが反応する。


【新機能「スキル」が解放されました】


 おお。なんかちょっとゲームっぽくなってきた。

 さっそくスキル欄を開いてみると──


■現在のスキル一覧


・【早起き確率向上 Lv.1】

目覚まし1回で起きられる確率が+5%


・【聞き上手 Lv.1】

会話中、相手の話を最後まで聞く集中力が+10%


・【散らかし防止 Lv.1】

物を元の場所に戻す意識がほんのり強くなる


「……いや、地味すぎるだろ」


 思わず声に出してつっこんだ。

 チートスキルでも、魔法でもない。誰も気づかないような、ちょっとした生活改善系。


 でも、正直──


「俺にとっては、こっちのほうがありがたいかもな……」


 出社前、机の上に置きっぱなしだったペンを無意識にペン立てに戻していた。

 何気ない行動。でも、少し気分がいい。


 会社につくと、またもや伊藤さんがいた。どうやら昨日のプレゼン資料で揉めたらしい。


「いや〜、昨日さ、部長がフォントの話だけじゃなくて、配色がどうとか……もう聞いてられなくてさ〜」


 前なら適当に流してた。でも、今日はちゃんと相づちを打って、最後まで話を聞けた。


【スキル発動:聞き上手 Lv.1 → 経験値+2】


「……おお、地味だけど、ちゃんと反応するのか」


 伊藤さんも、少しだけスッキリしたような顔をしてデスクに戻っていった。


 午後、社内の休憩スペースでコーヒーを飲んでいたら、新人の佐藤くんがノートPCを抱えて近づいてきた。


「坂本先輩、ちょっとこの資料見ていただいてもいいですか?」


 丁寧な資料だったけど、数字が少しずれていた。

 指摘して、どう修正すると良いかを伝えたとき、ふと気づいた。


 前より、言葉を選べるようになっている。

 “ダメ出し”じゃなく、“提案”として話せている。


【スキル効果:聞き上手&生活レベル補正 → 経験値+4】


「ありがとうございます! わかりやすかったです!」


「おう、がんばってな」


 ほんの短いやりとり。でも、なんだかいい気分になった。


 そして帰宅途中、スーパーに寄ってみた。

 いつもは弁当ばかり買っていたけど、今日は簡単な食材を買って自炊する気になっていた。


「キャベツ、卵、豚肉……うん、野菜炒めでいいか」


 家に帰って炒めて食べた。

 驚くほど普通の味。でも、いつもより少しだけ温かく感じた。


【生活経験値+7】


 風呂を上がって、スマホを開く。

 スキル欄に、新たな項目が追加されていた。


・【自炊意欲 Lv.1】

食材を買って帰る可能性が+10%

自炊時、段取り力+5%


「……お前、ほんとに地味だな」


 でも、いい。

 戦わなくていい。特別にならなくていい。


 ちょっとずつ、自分の暮らしが快適になる。それだけで、十分だ。


 地味なスキル。それが、俺の平穏な“力”だ。

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