第二話「大戦の傷跡」
2年後・・・
俺は、前回の話から数年くらい飛ぶ作品が嫌いだ。
だってしょうがないじゃないか。
最初の頃は2歳だったんだ。赤ん坊扱いしかされなくて話す事無かったんだよ。
今日も村長の家に来ている。
大人達が大広間でまた酒でも飲んで世間話している。
子供は色々だ。外ではしゃぐ奴、屋内で読書でもする奴、屋内ではしゃぐ奴。
「やあ、モモタロー!僕の勧めた『鬼退治』読んでくれたかな!?」
「ああ、読み切ったよ。」
コイツはリベリー。精神年齢21歳の俺とも馬が合う程、同世代のちびっ子の中では頭抜けて頭が良い為、すぐに友達になれた。丸眼鏡が特徴だ。
「僕の好きなシーンはこの『梁』が全員集合するシーンなんだ!それまで地味だった絵面がガラッと........」
こんな感じで長々と語ってくれているが、普段はこんな饒舌に喋る奴じゃない。好きな物について語る時だけだ。
この歳にして既にオタクの特徴を押さえてやがる。
親近感が湧くなぁ。
『鬼退治』とは、最近王都で流行しこの村にも出回るようになった絵本だ。
これもまた最近分かったんだが、共通の話題があるのは大きい。
「タロー!リベリー!」
「ここにいたんだ!」
ほら見ろ。さらにもう2人来た。
デブのブンテと、ヒョロガリのリガロだ。
「やっぱり老若男女にウケる分かりやすいストーリーにしたのが良かったんだよ。」
「いやぁ俺は家族愛ってテーマが途中からブレたのが腑に落ちなかったなぁ。」
「妹を人間に戻す手段が序盤で全部分かるのがなぁ。」
なんて、近頃はずっとこの4人で評論家ごっこしている。
子供の分際で生意気だと思うが、でもこれがまた楽しい訳だ。
他にも年上の奴だったり、女の子だったり。色んな人間と交流を深めた。
最初はちょっと自分を大きく見せようとしてた部分もあったが、その必要は無いと学んだ。
初めはぎこちなくとも、気の置ける存在になると案外普通に喋れる。
(着実に前進してるよな....)
そう思うと俺は、柄にもなく空を見上げた。
「....眩しッ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん?」
日も暮れてお開きになろうとした時だ。
「....」
何やら羨ましそうな顔で、物陰から1人の少女がこっちを見ていた。
年は俺達と同じくらいだ。
(何だよ。心霊現象か....?)
「あいつあれだよな.....」
「ああ、何してんだ.....?」
リガロとブンテがそう耳打ちし合ってるのが見えたのか、少女はそそくさと逃げて行った。
「誰あの子。知り合い?」
「知らないの?モモタロー。移住して来た鬼族の家の子だよ。」
リガロとブンテが説明に困っていると、リベリーが答えてくれた。
「あーそうなんだー。......って、え!?」
「どうしたんだい?モモタロー。」
「鬼族って、実在するんだ.....」
いや、考えてみりゃ異世界転生、それも桃から産まれた奴が何言ってんだって話にはなるんだが。
「今更?『鬼退治』は実話を元にした話なんだよ?まぁ、多少の脚色はあるだろうけど......」
「まじかよ.....」
俺は何となく、あの子の事情を察した。
その理由についてはまず、『鬼退治』の内容について言及しなければならない。
今から約100年前、この世界には6つの大陸が存在した。
主にヒト族が暮らす、四季豊かなセントリア大陸。
獣人族の国が集まる、森だらけのフォレス大陸。
広大な面積を誇り、魚人族やエルフ族。果ては猿人族まで幅広い種族が住むヴィナー大陸。
なんと空飛ぶ鳥人族が暮らす、バーディン大陸。
魔族が暮らす、というか魔族以外が住める環境ではなく、2000年以上前から魔神を封印している魔大陸。
そして、一つの国から成る大陸で鬼族が暮らすオニガ大陸だ。
鬼族はその圧倒的な身体能力で、人々を蹂躙していた。
しかし、セントリア大陸に位置した当時まだ小国だったカゲルド王国から1人の勇者が現れた。彼は他の3大陸に眠る3体の神獣をお供に付け、鬼族の軍勢を次々撃破。
ついには鬼族の長をも平伏させ、「鬼人戦争」を勝利に導いた。
と、いうのが大まかな内容だ。
だが、これが実話ならば話はここで終わりではない。
戦後、勇者と3神獣を輩出した4国は、オニガ大陸のオニガ帝国と併せて「五大公国」と呼ばれるようになり、各大陸で強い立場を持つようになった。
そう、あくまでオニガ帝国は敗戦こそしたが、国家が滅亡した訳ではない。
不可侵条約を締結し、多額の賠償金を支払って、国交は正常化された。
つまり鬼族への強い憎しみと偏見が、当人達に直接ぶつけられる結果となったのだ。
(差別か.....)
俺はまた柄にもなく空を見上げる。
「ーーーすっかり暗くなったな......」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家に帰るとガレスに相談した。
正直に言って、俺はあの子とも仲良くなりたいと、そう考えている。
鬼族や鬼人戦争と言っても異世界出身の俺にとっては知った事じゃない話だ。
「あー、キラリアんとこの娘か。確かに可愛いもんな。仲良くしたいのも分かるぞ。」
「そうそう孤独に付け入って美少女とお近づきに....って違う違う違う違う違う違う違う!」
「ははは、冗談さ。でもまぁ、お前も早くも壁にぶつかったな。」
「うん。みんなに疎まれる彼女の肩を持てば、僕の立場がは危ういかもしれない。せっかくここまで築いたみんなとの関係も大事にしたいし....」
「はは。まぁ、ゆっくり悩め。父さんはもう寝るよ。」
そう言うと、話していたベランダの戸に手をかける。
「タロー。答えが2つに一つだと思わない方が良いぞ。」
....どういう事だ?3択問題って事か?
「まさか第3の選択肢として差別の無い世界を作る為戦えとか言わないよね」
「母さんならそう言うかもな。だが俺はそうは思わない。安心しろ。」
確かにマクレガーは少し思想が強いところがある。
正義感の裏返しなんだろうか。
「じゃあ、何が言いたいの?気になって夜しか眠れないよ。」
「充分じゃないか....
分かった。明日の朝、答え合わせをしてやる。それまで考えてみろ。寝る前と後が、1番頭が回るんだ。」
「分かったよ。」
だが一つ分からない点がある。
ガレスは先程夕食の席で、「明日は朝早くから仕事に出る」と言っていた事だ。
一体、いつ教えるつもりなんだ...?
翌朝・・・
「起きろタロー!」
「んーもう何だよ父さんこんな時間に....」
「剣士のやり方を見せてやる!」
「.....?」
そう言ってガレスが俺を叩き起こしやがったのは、日が上り始めた頃だった。