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第一話「異世界へGO」

(.....ん?え?)


気が付くと俺は暗闇の中に居た。

ここが死後の世界なのかと思うと途端に怖くなって来た。

さっきまで「フッ...脳機能の低下で死すら恐怖に感じなくなって来ている....」キリッ!

なんて言っていた人間とは到底思えない。

まるで生まれ変わったかのようだ()

しかしまるで別人のように慌てていると、ある3つの事に気が付いた。


1つ目は、今ここが、死後の世界だと言うにしては生の実感が強過ぎる為多分違う事。

慌てたら鼓動は早くなったしなんか果物のような甘い匂いも感じる。


2つ目。やけに自分の体が不自由な事だ。


(あれだけの重症あったら流石にか.....

重症.....?!?!)


そう、痛くないのだ。これだけ意識が回復した今なおも。あの時負った後頭部の負傷が痛くない。


そして、最後の3つ目。自分は今何かに乗せられ、揺れているという事だ。


(救急車か.....?にしては周りの音が....)


耳もちゃんと聞こえる。しかしさっきから聞こえるのは救急車のサイレンではなく、水流のような音だった。


(川かなんかに流されてね?これ....ってあれ?)


ザパーン


という音を最後に水音が消えた。そして代わりに聞こえて来るようになったのは何やら女性の声だ。


「ーーー・ーーー・」


(何語だ?これ)


しばらくすると揺られている感覚も無くなった。


(なんか....置かれた.....?)


するとその時だった。


(眩しっ!!!!)


突然暗闇が暗闇じゃなくなった。


そして目が慣れると、そこには驚いた表情で俺を抱える20代序盤の女性が居た。金髪に碧眼のいかにも美人って感じの女性。


(バカな....高2の俺を軽々と...!?そんなにヒョロガリか俺。それともこの女が霊長類最強クラスの腕力を持ってるのか...!?)


そんなどうでも良い事を考えながら周囲を見回すと、もう2人ほど人間が見える。

同じように驚いた顔の20代半ば頃の男性と、その後ろに隠れる5、6歳の少年。

そして真っ二つになった巨大な桃、がそこにあった。


「ーーーー・・」


「・ーー・」


「ーー・・ー」


全員何言ってるか分からんが、この3人が1世帯の家族である事はなんとなく分かった。

男の方は黒髪に灰色の目。そして少年の方は、女の方と似た金髪に碧眼、男の方に似た顔立ち。

さらに3人とも美形。


だがこんな人種的にも言語的にも日本とはかけ離れた場所に俺が居るはずがない。

ひとまず話を聞きたいが、こちらの言葉は通じるだろうか。


(すいませーんここどこですかー

....って、え?)


「あうあうあえー」


俺の発した声は、赤ん坊そのものだった。


まさかと思って俺は自分の手を見る。


そして周囲に落ちている俺が入っていたであろう巨大な桃に目をやる。


(これはまさか....あの....


『異世界転生』ってやつぅー!?!?!?!?!?)



2年後・・・


と、いう事で俺が無事2度目の人生を送る事になって2年もの月日が流れた。

2年も過ごせばそろそろこの世界の事もだいぶ分かって来た。

単語も文法も全然違うが、この体の遺伝子が良いのかそれとも赤ん坊のうちは覚えが良いのか、意外にも言語面はすぐに分かるようになった。

前世であれだけ英語に苦戦していた俺と同一人物とはとても思え....いやもう良いかこれ。


そしてこの世界でも、「人を殺めてはいけない」「物から手を離したら地面に落ちる」というような常識的な価値観や物理法則も大体前世と同じと言って良いようだ。


だがここまではあくまで家の中だけで分かった話であって、外に出れば違うかもしれない。

家に引き篭もったままの価値観で居るつもりはない。それだと「みんなと違って外で遊ばない自分」に酔っていた結果、遊んだりふざけたりしながらも他人と協調する器用さが全く身に付かなかった前世と何も変わらないからだ。


俺はまた前世のような人生を送る気は毛頭無い。

せっかくの異世界転生なんだ。

2度目という経験をフルに活かし、同世代の誰よりも早い成長スピードを見せ、陽キャの中の陽キャとなる。

女にもモッテモテで、人にドヤ顔出来る長所を数多く持った、一切の障害にもぶつからない素晴らしい人生を送らなければ勿体無い。



「ほらタロー。それっ!」ポイッ


今俺とキャッチボールしているのは4歳年上の兄、カリブ・ウェンブリー。

インドアな性格で、スマホもインターネットも無いこの世界では珍しく外に出て遊ぶところはほぼ見ない。

先述した通りめっちゃ美形でモテそうなので勿体無いなぁと思う。

まぁその分、こうして弟である俺の相手をしてくれているのだからありがたいのだが。

前世では妹しか兄弟は居なかったから凄い新鮮な気分だ。


(でもコイツは未熟児と遊んでて楽しいんかなぁ...)


「こらカリブ、まだタローと玉遊びしちゃ危ないでしょう?」


今カリブを注意したのが母のマクレガー・ウェンブリー。24歳らしいが、そうなると18歳でカリブを産んだ事になる。この辺は流石異世界ってところではあるな。

いや、DQNならあり得るくらいか....?

そしてこのボールも、マクレガーが土の魔法で作った物だ。

俺が産まれて本当に数日の頃、家で遊べるようにと作っているのを見たが、実はこのボール結構凄い。

野球ボール程の大きさしかないが、表面には綿が仕込まれていて当たってもそこまで痛くない上に、中は土で埋め固めるのではなく、レンコンみたいに要所要所で空洞があり非常に軽量だ。

これくらいの魔法は使えて当たり前なんだろうか、それともマクレガーが凄いのだろうか。


「なぁタロー、これお前が産まれた時に母さんが作ったのに使うなだってよ?おかしくね?」


た し か に


「ただいまー」


「あ!お帰りなさい、父さん。」


父のガレス・ウェンブリー。

職業は騎士らしく、この地域一体の警護が主な仕事内容らしい。

仕事上毎日家に帰って来れる訳じゃないようなので、今日は珍しい帰宅となる。

魔物だったり、魔獣だったり。色んな話を聞かされるので俺もガレスが帰ってくるのはかなり嬉しい。

なんせ騎士の仕事だ。厨二病にはたまらない。


「ねぇ父さん、次はいつ仕事?明日は遊べる?」


仕事帰りで疲れただろうガレスにカリブが詰め寄る。


「カリブ、お父さん疲れてるのよ。」


マクレガーはガレスの夕飯を用意しながらカリブをそう注意する。


まぁ実際、ガレスが働いてくれているからこうして食べて行けてる訳だしな。


「父さん、今回はどんな任務だったの?」


もちろん俺も問い詰める。


「全く2人とも.....」


「ああ良いんだよマクレガー。俺もこうして家族と触れ合う方が、1番疲れが取れるんだ」


「よし分かった。明日は2人とも村の集まりがあるから連れて行ってやろう。」


「村の集まり?」


「ああ、タローは行くの初めてだったな。年に何回か村長の家に言って、近況を話し合ったり、酒飲んだりするんだ。」


要は宴会か。


「大人に連れられて、子供も来るぞ。そこで友達でも見つけると良い。」


(友達かぁ.....)


前世は友達と呼べる友達も居なかったな。

確かに、同年代との正しい付き合い方を幼少期から学んでおくのはやはり重要なんだろう。

だが一つ気になる点がある。


(俺多分、桃から産まれてんだよな.....)


両親は何も言わないが、産まれてすぐに真っ二つになった巨大な桃がそこら辺にあった事からも間違いない。

両親も流石にまだ2歳の子供に「お前は川から流れて来た桃から産まれた桃人間なんだよ。やーいどんぶらこ〜」なんて言えないのだろう。

まぁいつか説明するのか、それともこのまま自分達の子供として育てるつもりなんだろうか。

もちろん育ててくれるんならありがたい話だ。


(....そういえば前世では親に感謝した事なんて、ほとんど無かったな....)


とにかく自分が桃人間なのかどうか。そこら辺ハッキリさせとかないと、友達なんて出来るんだろうか。

また前世みたいになるんじゃないか、不安だ。


「父さん....友達なんて、出来るかな....」


俺がそう聞くとガレスは真面目そうな顔で答えた。


「良いかタロー。『友達出来るかなぁ』なんて考えてる内は、絶対に友達は出来ない。

『自分とは友達になる価値がありますよ』と、堂々と構えていなさい。

何で知りもしないモジモジした奴をわざわざ知りに行かなきゃいけないんだって話になるだろう?自分から知らせに行くのさ。」


「ちょっとあなた、2歳の子になんて事教えてるの。ダメよタロー。お友達には優しくしなさい。」


俺は2人の言葉を聞いてハッとした。

前世の俺は母子家庭だった。故に相談事は母親にしていたが、今のマクレガーのような言葉しか帰って来なかった。

当然だ。自分の性別が男である以上、俺がよっぽどハーレムを作らない限り、俺が生きるのは基本男社会になるが、母親は女性として生きて来たのだから、男社会で生きる為の正しい処世術など知っているはずがない。

通りで前世でああなった訳だ。


「もちろん、母さんの言う通り優しさも大事だ。タロー、自分を強く見せる事と、人に優しくある事は決して矛盾しない。難しいけどな。」


「なるほど.....分かった、やってみるよ父さん。」


「よし、決まりだ。じゃあ、今日はもう寝なさい。明日は早くなるぞ。」


「はい。....父さん、最後に一つだけ。」


「なんだ?」


「もし明日、友達作りというか人間関係で失敗したら、どうすれば?」


少し2歳児が話すには無理があるセリフだったか.....?

前世の記憶がある事はまだ話していないが、ここだけはどうしても聞いておきたい。聞かなきゃならない気がする。


「明日の失敗?明後日取り返せば良いさ。お前はまだ2歳なんだ。道ゆく女性の胸にいきなり飛び付いても許される年齢だぞ?

少しずつ学んでいけば良い。何が良くて何がダメなのか。父さんはいつでも相談に乗ってやる。」


(学んで行けば良い....か、確かにそうだよな....)


「うん、そうするよ。おやすみなさい!」


俺は何年ぶりか、明日というものを楽しみにしながらベットに入った。

ガレスに教わった事、自分がどれだけやれるのか。そもそもガレスの主張はこの世界の基準から見て正しいのか。間違っていたとしたら、それはどこか。どうすれば正せるのか。早く試したい。

間違いが許される年齢のうちに、色んなことを試そう。

目を閉じて何を試すべきか考え始めたら、アイデアが溢れて止まらなかった。

前世では俺が出来なかっただけで、みんなやってだんだろうか。

俺が陽キャと呼んで、今世で目指すその存在は、実際は『普通の人』なんだろうか。

たまに、「みんな本当に人生1周目か?」と思う事があったが実は俺が遅れているだけだったのか?

だがもう過ぎた事だ。どうしようもない。俺は1周目にしては良くやった。それはもう良い。

新しい人生、新しい世界、新しい家族。

それが今、俺にはある。その「今」を一生懸命生きて、その人並みとやらになればそれで良い。

学んで学んで、そして....


(同じ過ちは繰り返さない....)


明日への期待と共にそう誓って、俺は眠りに着いた。


あ、でも一個気掛かりな点がある。

今世の俺のフルネームが『モモタロー・ウェンブリー』な事だ。


....隠す気無えな両親。

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