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桃太郎転生〜あいつ人生2周目じゃね?〜  作者: kissy_0
第一章「始まりの村編」
1/4

プロローグ

ロー....!

タロー.....!


ん?

揺れる電車の中で俺は目を覚ました。

危ない。ほんの一瞬のうたた寝で降り過ごすところだった。


バサッ......


「あー『ももたろう』おちたー」


ん?前の座席の子供が絵本落としたのか。


「ほーらよっと」


俺が足で蹴り返した絵本は前の座席を通り過ぎてさらにその前のサラリーマンの座る席の下まで滑って行った。


「はい、どうぞ」


良識あるサラリーマンは当然の如く絵本を手渡す。


「あっ、有難う御座います.....。ほら、たくちゃん、おじさんにありがとうは?」


「おじさんありがとー」


「どう致しましてー。おじさんって言ってもまだ27歳なんだけどねぇ....!」


電車の音にかき消されて周りで聞いている者などほぼ居ないだろうが、そこには確かに暖かい空間があった。

母親の方が一瞬こっちを睨んで来た気がするが、気にしない気にしない!


「次はー〇〇〜(ダミ声)」


学校の最寄駅に到着した。


(はーあ。俺の人生も桃太郎みたいにトントン拍子に行かねえかなぁ)


しかし、子供向けのおとぎ話にこんな事言ってる奴の学校生活などたかが知れている。



「石田くぅーんwww」


(来た.....)


朝のホームルームが終わり担任が職員室に戻った頃、彼らは来た。

マッシュと坊主が1人ずつ、背の高いセンター分けが2人。バスケの強豪校である我が校の英雄達だ。俺は、簡単に言えば彼らにいじめられている。


「ちょっとトイレまで来いよ」


この流れは前もあった。個室に入れられて上からホースで水をぶっかけられるんだ。こういう時はバケツのイメージがあるけれど、どうもバケツだと水を貯める時間が発生してその間に楽しい雰囲気が冷めてしまう為、ホースが主流だ。


従ってはダメだ.....


「い、いやだよ.....」


「あぁ?」


「んだって?」


「聞こえねぇーよ」


リーダー格のマッシュ野郎こと、羽田陽介が俺の肩を押して威圧する。


「だ、だから.....い、、いぎだくないのぉぉぉぉ!!!!」


クラスを巻き込んだ静寂が走る


「......ぷっ」


「「「「ぎゃははははははははつ!!!wwwwww」」」」


「いぎだぐないのぉぉぉぉだってwwwwww」


「えっろwww」


「声裏返り過ぎwwwwwwwww」


......これで雰囲気的に許されたりしないだろうか。


「いや行きたくないとか良いから。早く来いよ、あ?」


リーダー格のマッシュ野郎......!!!!!!!!!


「だ、だから嫌だって.....」


「いや嫌とか良いから」


「いやもう本当に.....」


「あーも早くしろよ」


「だから.....」


「チッ....!来いっつってんだろ!?舐めてんのかクソチー牛!!」


マッシュ野郎が俺の胸ぐらを掴む。


「ッ....!」


俺はそこで、何を血迷ったか、キレたヤンキー漫画の主人公のようにマッシュ野郎に掴みかかる。


「!?」


しかし相手は仮にも全国クラスのバスケ部。パワー、スピード、反射神経で勝てるはずもない。


「コイツ.....!」


あえなく振り払われ、腹にお見舞いされたキック一発で壁に叩きつけられた。俺が女だったら確実に出産出来ない体になっていただろう。

いや、そもそも女ならこんな暴力受けないかもな。


「んだコイツ」


「舐めてんのかお前。勝てると思うなよ!!」


そこからはリンチタイムだ。

無数の足が何度も俺を踏みつける。


「よっわw」


「ガチギレチー牛くんイキリ過ぎ笑」


物理的な痛みもさることながら、何よりも観衆や傍観者と化した他のクラスメイトからの視線が痛い。コイツらの中にも後ろから消しかす投げてニヤニヤしたり、すれ違い様に悪口言うなどしたり、地味だが狡猾ないじめをしてくる奴と何もして来ない奴がいる。

今日の場合後者の奴らも笑っている。


(早くチャイム鳴ってくれないかな.....)


頭を隠して縮こまって踏みつけられながらそう思った。


「ちょっと!辞めなさいよあんた達!」


チャイムの代わりに俺を助けたのは1人の勇敢な少女だった。


「なんだよ翼、別に顔には行ってねえってwなぁ?お前ら。」


「そういう問題じゃないでしょ?ほら、大丈夫?石田くん。」


「あ、アリガト.....」


コミュ障過ぎてお礼もなんかキモい感じになってしまったが、なんとか助かった。


「チッ…行こうぜ」


キレ気味に席に去る羽田に他も付いて行く。


「本当に大丈夫?ダメそうなら保健室行きなよ?」


「う、うん.....」


この子の名は影山翼。最近俺がいじめられていると助けてくれる。

艶のある黒髪を後ろで結び前は熊手みたいな前髪。細身でスラッとした体型をしており、背も俺と同じくらいある。

そして顔はバイアスが掛かっているんだろうか。すげぇ可愛く見える。

美人は大抵性格も良いのだな。



昼休み。今日は母親と電話している。

いじめのことを話してからたまに向こうから電話してくるようになった。

本当は親を巻き込むとなんだか産まれてきた自分の一族ごと否定された気分になって非常に不愉快な為、話したくもなかったのだが、ある日運悪く胸のあざが見つかりやむなく白状した。


「それで、怪我は無いの?」


「うん.....まあ、だいぶ蹴られたからまだちょっと痛いけど、血とかは出てないかな。」


「無理するんじゃないよ?いざって時は先生に....あ」


先生、というより学校に相談した事もある。だが、子供がじゃれあってるだけだと、加害者側にも言い分はあるからと相手にしてもらえなかった。

それを思い出し母は言葉が詰まったのだろう。


「まぁ何はともあれ、そんなに気に病むんじゃないよ?あんたは悪くないんだから。いじめられ始めたのだってクラスLINEでの悪ふざけを注意してからなんでしょう?」


素直に「うん」と言えないのは何故だろうか。


「それからその影山さんって女の子は大切にしなよ?今時そんな良い子珍しいんだから。」


「大切にって...別に付き合ってる訳でもないんだからさ」


「あらー付き合っちゃいなさいよー。思いきってガツn.....」プープー


あんまり下世話過ぎるから切った。


でもまぁ、そうだな。


この先あれだけの容姿と性格を併せ持った女性に出会えるか怪しい。

それに逆に言えばあんなに良い子なら俺の事も好きになってくれるんじゃないか?

てかもう好きだろ。だから助けてくれたんじゃないか?

そうだそうに違いない。そう考えるとなんだか行ける気がしてきた。ひょっとしたら俺って出来る奴なんじゃないか?心無しかトイレから出る時に見た鏡に映る自分がイケメンに見えるぞ。



放課後、俺は影山さんを呼び出した。


「それで何?石田くん」


場所は廊下。うちの学校は廊下の幅がかなり広い、というかほとんど大広間みたいになっており、人盛りも多い。

周囲の目は多少あるが、緊張するな....落ち着け....


「えっと、そのさ.....」


「?」


影山さんが不思議そうな顔で首を傾げる。

きょとんとした顔も可愛いな。


「そのっ.....今日、うち来ない!?一緒に...」


俺は言った後で気づいた。いきなり家に誘うとか、キモ過ぎる。完全に距離感掴めてない奴のやる事だ。


「その....色々と助けてもらってるしさ.....」


頼む....うんって言ってくれ....


「ごめん、今日はちょっと....ていうか、私彼氏居るからさ。そういうのは当分無理かな.....」


俺の恋は儚なくもあっさり終わった。


「あそっかー。じゃあしょうがないね。」


「うんごめんね!またいつか都合が合う時にね!」


でもなんだろう。どこかスッキリした気分だ。


「あ!丁度来た!じゃあね石田くん!」


丁度待ち合わせしていたんだろうか、彼氏とやらのお出ましだ。どれ、影山さんに釣り合うだけの男ならぜひ一度この目で拝んで....


え?


「よぉー翼。と、あれ、石田?w何してんのここでwwww」


「ああ、今石田くんにお家に誘われてたとこ。もちろんあんたが居るから断ったけどね。


陽介。」


嘘だろ....?マッシュ野郎が....影山さんの彼氏......!?!?


「羽田くん.....?なんで.....」


「え?w石田お前、翼を家に誘うってwwwww勘違いも甚だし過ぎだろwww鏡見ろってwwwww」


マッシュ野郎、もとい羽田陽介が俺の肩をポンとどつく。


「ちょっとやめて!陽介。何度も言ってるでしょ!?もう石田くんをいじめるのはやめてって.....

ごめんね?石田くん。でも私は、みんなには仲良くしていて欲しくて....」


「なんで....彼なの....?」


「え?うーんと、なんだろう。

最初はね?石田くんへのイジメを止めるようにって言いに行ってたんだけど、次第に部活が終わるまで待ってる間とか練習を覗き見るようになったり、部室に入って体拭いてるところとか見たりして、そこでちょっとかっこいいなーなんて思ったり笑」


「......は?」


「それで、徐々に仲が深まって行って、部活に対する決意みたいなのも聞いたりして、」


「もういい....」


「逆に、私の悩みとかも聞いてもらうようになってさ.....」


「やめろ.....」


「気付いたら.....好きに笑、なっちゃってて.....」


「やめろって言ってるだろおぉぉぉぉぉ!!!!!」


「ちょ、ちょっと何!?石田くん。怖い!離して!」


「お前触るんじゃねえ!」ボコォッ!


俺が影山さんの腕を掴むと、羽田が俺を殴り飛ばして影山さんを助ける。

その様子はまるで悪質なストーカーとそこからヒロインを守る主人公さながらだった。

これには周囲も大騒ぎ。羽田へのエールと俺へのブーイングが飛び交う。


「やれー陽介ー!」


「クソキモ陰キャをぶっ倒せー!」


「羽田くん頑張ってー!」


「石田くんも頑張って笑まぁ勝負になってないけどww」


俺は頬に受けた拳の痛み以上の痛みに耐えながら、立ち上がる。


「何純情ぶってんだよ.....仲良くして欲しいとか言っときながら、結局生物的に強いオスの方に尻尾振って.....どうせ陰で俺の事笑ってたんだろ!?!?ただ悪者になりたくないだけの癖に!綺麗事並べて期待させんじゃねえ!!!」


「お前.....言って良い事と悪い事があるぞ!」ドゴォッ


羽田がまた俺をぶん殴る。


「そ、それはね....?陽介の方にも言い分とかがあるから、お互いが納得出来るようにって.....

そんな、生物的に強いオスとか、悪者になりたくないなんて.....ちょっと捻くれ過ぎだよ....」


「ふ.....ふざけるな....!!!

俺は被害者なんだぞ!俺は正しい事を言ったのに逆上していじめて来たそいつらが悪なんだそしてそんな奴らに股を開くお前みたいな女なんてせいぜいその女としての魅力だけでも引っ提げで正義側の俺に許しを乞うべきなんだ!!!」


ここまで言った時、俺は気づいた。

自分が言っている事のクズ具合と、周りが俺に向ける目が嘲笑する目から蔑むような目になっている事に。

そんな空気の中最初に口を開いたのは羽田だった。


「お前、本当どうしようもない奴だな。」


「石田くん....今のは流石に気持ち悪いよ....」


「....ぇ.....」


何か喋ろうとするが声が出ない。というか何を喋れば良いか分からなかった。


「陽介!翼たん!どいてどいて!」


いつも俺を羽田と共にいじめて来ていた取り巻きが、騒ぎを聞いて駆け付けた。



その時だった



「....うぉりゃぁ!!!!」


ドッゴォーン!!!!


ゴツン!


ビタァー....


ガシャァーン!!!!!!


取り巻きの一人である坊主野郎が俺に助走を付けたドロップキックを放った。

涙目になっていて視界が悪かった俺は避けることはおろか、事前に気付いて逃げる事すら出来ずドロップキックをモロに受けてしまう。

俺は2〜3メートル吹っ飛ばされ、後ろにあった棚に頭をぶつけ、棚に倒れかかる。

そしてその衝撃で棚に置いてあった割とガチで大きめの花瓶が、先程強打した俺の後頭部に降ってくる。


「石田くん...!!!!!!

ち、血が....!?せ、先生!いや救急車!」


意識が朦朧としている中、影山さんが心配してくれているのが分かった。


「よっしゃぁー!クソキモチー牛撃破ァ!

.....って、へ? ち、血!?ひ、ヒェッ.....!!!!」


ドロップキックの張本人。坊主野郎こと丸山太一は、一瞬遅れたが流石に自分がやった事の深刻さを理解したらしい。


「太一.....?何....してんだ....?」


「い、いや.....俺は、ただ.....」


羽田はまだ状況が飲み込めていない。


「「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」


「え?ヤバくね?」


周りのギャラリー達は、俺の無惨な姿を見て悲鳴を上げて逃げ出して行く者とただただドン引きしている者に分けられた。


俺は朦朧とする意識の中、痛みが徐々に引いて行く事に気づいた。

もちろんこれは回復している訳ではない。

痛みを感じなくなるくらい脳機能が停止に近づいているだけだ。


(まぁ激痛に苦しみながら死ななくて良かったか....てか、走馬灯とかってやっぱ見えないもんなんだな....)


これから死ぬ人間にしてはやけに冷静だ。

これもまた感情を司る脳みそも全身の神経も衰弱しているからだろう。

生命の危機に俺がこんなに冷静なはずがない。

でもそれだけじゃない。

どこかホッとしてる自分も居る。

こんな無様で屈辱的な死に方でも、もう苦しまなくて良いなら。


「石田くん!しっかりして!石田くん!待ってて!すぐにせんs......@#//&☆♪→¥$€%°#」


ついに周りが何言ってるかまで分からなくなってしまった。

だが人が大勢居るのは分かる。

俺と違って、周りと適切に付き合いながら上手く生きている人達が、大勢。

俺には出来なかった。


(どうすれば....良かったんだよ.....ぁ....死ぬ...)


こうして、石田茂則は17歳の若さでこの世を去った。

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