モルフォ蝶の輝き
ウェルズ国は15の領地から成り立っている。それぞれの領地を貴族が統治し税を王家に納めている。周辺の国とも円滑に経済をまわし、国の裕福さは国王の優秀さを顕著に示していた。
この地では昔から蝶にまつわる伝説があった。語り継がれてはいるものの今ではその内容を知るものは少ない。
ウェルズ国王のウィリアムは頭を抱えていた。優秀なはずの男が、である。
「はぁー。我が息子は何をしておるのだ。あの馬鹿者。誰か使いをだせ」
「オスカー様を探してお連れすればよろしいのですか?」
すぐにウェルズ国王付き家令のセオドアが一歩前に出て答える。
「そうだ。本日婚約者を決める茶会を開いているのに本人が不在では話にならん。すぐに見つけ出し連れて参るのじゃ」
「はっ! 30分以内に会場にお連れします! 」
「あぁ、頼んだ。私は会場で待つ」
⭐︎
「オスカー様、お戻りください。お茶会の時間です」
先ほど王命を下された家令のセオドアは首が痛くなるほのど大木を見上げ、声をかけていた。
ガサガサと葉が揺れる音がすると、枝の間からヌッと革のブーツが飛び出す。
「よっと!」
トン。という音と共に降り立った青年は美しい金髪についた木の葉を取りながら悪戯好きなサファイアブルーの瞳をセオドアに向けながらこう言った。
「セオドア。見つけるのが早すぎるよ。もう少し時間かけてくれてもよかったのに」
「オスカー様、そうはおっしゃってもいつも時間がある時はこちらにいるのは使用人全員承知の事。王命があればお呼びに来るのは致し方ないことでございます。」
「王命があったんじゃ仕方ないか。セオドアも仕事だもんね。では、行きますか」
伏魔殿へ。
最後の言葉は飲み込んだオスカーであったが、15歳の誕生日が過ぎてから頻繁に行われるお茶会に辟易していた。茶会の回数ばかりが重なるものだからだんだん聞いたことある話や中身が無い薄っぺらな会話ばかりになる。
「……逃げたくもなるだろう。」
おっと、これは声に出てしまった。
「……独り言を言います。本日のお茶会にはスタンホープ侯爵家のお嬢様がお見えになるそうです。どこのお茶会にも参加せず、デビュタントまで隠しておきたかったようですが、王命で半強制的に参加されたようです」
「ふ〜ん……理由ありってことかな?」
「さて、どうなのでしょう?ご自分の目でお確かめになればよろしいかと」
⭐︎⭐︎
私は今、宮廷に向かう馬車に揺られている。
目の前にはスタンホープ侯爵家当主ヘンリー・スタンホープが、私、ローズを見つめ少し悲しげな表情で座っていた。
「ローズ、デビュタントまでお前の美しさを隠しておきたかったのだが、王命が降ってしまった。せめて、うまく髪の色を隠せ通せればいいのだけれど……」
「お父様? 私の髪色はいつかは公にしないといけないのでしょう? ならば粉をかけて隠すなどせず堂々としてしまえばよろしいのではないですか?」
「あぁ、だが、だが、お前の髪は世にも珍しいのに、すぐにでも婚約して守っていただけるならいざ知らず、公にして誘拐でもされたら……」
「お父様、心配しすぎですわ。死んだお母様も笑いますよ?誘拐だなんて」
「いいや、いいかい? 君の髪だけでも取引で大金になるんだよ? しかも髪の毛は伸びる。切っても切ってもだ。あ〜〜〜どうしよう。やはり帰るか?」
「だから、誘拐して、生かして髪だけ刈り取ると? お父様、そんな人で無しな考えの人がいるとお思いで?」
「いる」
「……そんなにキッパリと……」
ん〜でも、大丈夫だと思うんだけど。
だって……。
すると、馬車が止まる気配がする。速度が落ちてきたもの。
「いいかい? ローズ。今日のお茶会は屋外で行われるから、絶対に帽子をとってはいけないよ? 取らなくても失礼にはならないから。いくら粉で灰色にしてても水がかかったらすぐに落ちてしまうからね、いいね?」
「はい。わかったわお父様」
優しいお父様が心配しないように目の前で帽子の紐をちょっとキツめに顎の下で結んでみせた。少しだけ安心したような顔をするお父様。大丈夫よ。取らなきゃいいんですもの。
馬車停留所に入ると馬車の扉が開かれる。
お父様が先に降り立ち、私の手をとりエスコートしてくれる。
「ようこそお越しくださいました。スタンホープ様、お待ちしておりました」
見ると少しだけ白髪混じりの優しそうなおじさまが礼を取りながらそういった。
「こちらこそお招きいただきありがとうございます。本日は娘もようやく病から解放され元気になりましたので参加させていただいた次第です。ローズ、ご挨拶を」
そっか、私病気だったのね。
「初めまして、ローズ・スタンホープです。お招きいただきましてありがとうございます」
と、後ろにふらつく私。
(も〜、お父様、ドレスの裾踏むなら言っておいてよね!)
「おっと、ローズ、大丈夫かい? まだ病み上がりなのでもしかすると途中で失礼するやもしれません。その時はよろしくお願いします」
「はい。大丈夫でございます。では、お嬢様はこちらにどうぞ。スタンホープ殿はあちらの控え室で皆様と御歓談を」
心配そうに見つめるお父様に小さく手を振って会場に向かった。
会場には私と同じぐらいの御子息、御息女がひしめいていた。
(みんな私と同じ14歳ぐらいかしら?お茶会に出してもらえなかったから知らない人ばかりだわ。あぁ、きっとあの塊が王子様がいる場所ね)
手持ち無沙汰から椅子に座り、飲み物をいただく。
周りを見渡すと綺麗に整えられた花壇が並び、ところどころに立食用の食べ物が並ぶテーブルが置かれていた。
(あ、あの四阿……見覚えがあるわ)
小さい時、一度だけここを訪れたことがある。あの時はここからもっと奥に行った所に大きな木があったのよ。
思い立って立ち上がると、ふらっと足を向ける。
ところどころ眺めながら歩き進んでいくと、
「確かこっちだったわ……あ、あった。あの時は冬だったから葉も無くて下から丸見えだったのよね。ふふふ。今は葉っぱがいっぱいね」
大きな木だけど、低い場所にも太い枝がある。
「あのあたりに座っていたのよね、懐かしいわ」
自分でも登れるかしら?ちょっとした好奇心が湧いて木に触れたところで背後から声がした。
「危ないよ?女の子が木に登ったら怪我するよ?」
振り向くと見覚えのある男の子がいた。
「あら?あなたあの時の庭師の子?大きくなったのね。それにキレイな服着て」
「ん?庭師?……あ、君はあの時の??でも、髪の色が違うね?」
「ええ、理由があって隠しているの。ほら、あの色目立つでしょ?」
「そうだね、とてもキレイなのに残念だな」
「でも、私の髪の色をあなたが黙っていてくれたから今でも誰も知らないでいられるのよ?ありがとう」
「いつか公にするんでしょ?髪の色。いつまでも隠せないと思うけどなぁ」
「ええ、お父様が言うには婚約者ができて、私を守るものが増えたらって言うんだけど……いつになるやら……」
「ふ〜ん。確かに、守るものが必要だよね……そうだったのか、あれっきり見かけないから他の国の人かなって思い始めていたんだよ?」
「いいえ、ずっと灰をかけて髪色を隠してただけよ。あぁ、お茶会も行かなかったけど」
いつの間にかさっきの四阿まで戻ってきて座って話し込んでしまった。
「あ、ごめんなさい。お仕事あるんでしょ?引き留めちゃったわね」
「ふふふ、大丈夫だよ?それに、僕は庭師の息子ではないよ?」
「まぁ、そうなの? ごめんなさい。私勘違いばかりしてたのね」
「ううん、今日はいい日だ。まさか君に会えると思わなかった。そうか、この国のご令嬢だったのか。名前を聞いていい?」
「ええ、私はローズ・スタンホープ。あなたは?」
「僕はオスカー・ウェルズだよ?」
「そう、オスカー……。ん? オスカー・ウェルズ……………」
王子様の名前?
目の前が暗くなる。
名前を聞いて気を失うなんて……。
「わ! ローズ! セオドア!ちょっと来て………」
声も遠くに……。
⭐︎
目が覚める。まだ、ぼーっとする頭。ええと、私、何してたんだっけ……。
「は、そうだわ、名前を聞いて気を失うなんて……失礼すぎるわ」
サッと青ざめる。どうしよう。
「ローズ、気が付いたかい?気分はどうだい?まさか本当に倒れるなんて……」
お父様、いてくれたのね。すぐに上半身を起こしながら謝る。
「お父様。ごめんなさい心配かけちゃって……私、王子様に失礼な事してしまったわ」
「あぁ、大丈夫だよ。殿下は怒ってなんかいなかったよ? それどころか」
コンコン
「どうですか?彼女の具合は?」
扉越しでもわかる、王子様の声だ。
お父様が扉に立つとドアを開ける。
薔薇の花束が入ってきた。
じゃなくて。
王子様が薔薇の花束を抱えて入って来た。
一気に部屋中に薔薇のいい香りが充満する。
「父さんはお茶を頼んでくるよ」と、少し慌てた感じで出ていってしまった。
花束をベッドの上に置くと、王子様は枕元に近い椅子に座る。
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだよ?」
「いいえ、そんな、勝手に気を失ったのは私です。こちらこそ失礼を」
「ふふ、ねぇ、僕の昔話を聞いてくれるかい?」
「はい」
⭐︎⭐︎⭐︎
あれは6歳の時、あの大きな木に登ってお菓子を食べたり、空を眺めるのが好きで、あの日も太い枝に腰を下ろして本を読んでいたんだ。すると、
「ねぇ、あなた、庭師の子? 危ないわ? 落ちたら大変よ?」
声がする方を見て僕は息を呑んだんだ。
髪の色が青く、光の反射で色が変わる。
まるでモルフォ蝶。
読んでいる本のちょうどそのページに載っている。
すぐに降りていって、君に見せたよ。そのページの絵を。
「あ、本当だわ。私の髪の色にそっくり」
「うん、キレイだろ?君の髪もものすごくキレイだね」
「ふふ、ありがとう。でも、1本だけ抜くと青くないの」
プチッと1本髪の毛を抜くと。
「ほらね?」
「本当だ、不思議だね。それくれる?調べたいんだ」
「どうぞ? ふふふ。何かわかったら教えてね」
「うん、絶対だ」
それから僕はレンズで拡大して見たんだけど、光の角度によって反射して青くなるぐらいしかわからなかったんだ。
でも、君にそれだけでも伝えたくて……。
時間があればあの場所に行っていたんだよ。
でもあれきり君は来なかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ねぇ、ローズ。僕はあの時から君に恋をしていた」
ドキンと胸が高なる。
「……はい」
「ゆっくりでいいから、僕を好きになってくれないか?」
王子様だったなんて……。
「……王子様を?」
「うん。オスカーでいいよ? どうかな?」
夢のようだわ……考えてもいなかった。
「……は、はい」
するとオスカー様はベッドに置いていた花束を抱えると、
「あぁ、よかった。ローズ、僕と婚約して? 時が来たらもちろん結婚しよう」
と、言いながら花束を差し出した。
「うふふ、はい。オスカー様」
笑いながら涙が流れ出る。嬉しい。
「ローズ、ローズ!ありがとう!」
ぎゅーっと抱きしめられ、キスをされた。
あ、また気を失いそう。
「いけない。ごめんね、嬉しくて、大丈夫??ローズ?」
「ふぁい。だ、だいじょぶでふ」
全然大丈夫じゃない〜、クラクラする。
「ふふふ、あぁ、かわいい……」
コンコン
すでにドアは空いていたけど、ノックの音。
「おほん。殿下、ローズ。話は終わりましたかな?お茶のご準備ができたそうですよ?」
「あぁ、ありがとうスタンホープ殿。ローズはまだそこにいて?お茶を持ってくるから。君はベッドで飲もう?」
それから、かいがいしくオスカーはお茶を運び、ベッドのそばで飲み始めた。
私はまだ顔が熱い。そうよ、お父様に婚約の話をしないと……。
「お父様、たった今、オスカー殿下と婚約と結婚の約束をいたしました」
「そ、そうか……。そうか。殿下、これから娘をよろしくお願いします」
お父様はニコニコしながらも涙ぐみ、2人の婚約を喜んでくれた。
⭐︎
そしてもう1人、大喜びの人物がいた。
「何! そうか! オスカーがやっと決めたか!! うんうん。祝いの席を設けないとな、大々的に公表するぞ!」
オスカーの父、ウィリアム王その人であった。
ウィリアムも王妃を亡くした後、再婚もせず、ただオスカーを大切に育てていたのだ。
⭐︎
オスカーの決断からすぐに婚約発表となった。
巷では一切表に出なかったローズが婚約者となったものだから、大騒ぎとなっていた。
中でもオスカーの妃になりたかったご令嬢たちは怒りのやり場が見つからずにいた。
「私なんかお会いしたこともないのよ?そのローズ様という方」
「いつもお茶会に参加していたのに、急に現れて王子様を奪っていったのよ」
「選定し直すべきだわ。どうしてそうなったのかわからないもの。裏があるのよ」
当の本人が決めたことなのに、周りが段々と騒ぎ出す。
「異議を訴えるわ」
さて、そうなると王様も黙ってはいない。
「ほう、王家の決定事項に異議とな。面白い、では、明日婚約発表のパーティーでしかとローズ嬢を見るといいのだ。そして異議を唱えた者をきちんと記しておけよ?」
「っは!」
セオドアはすぐに婚約発表の準備に取り掛かる。
⭐︎
婚約発表のパーティー当日、すでにオスカーの部屋の隣が私の部屋となり、毎日私達は会って仲睦まじくしていた。
この国周辺では蝶の伝説は有名であった。数10年に1人ぐらいで輝く蝶の羽根の色を髪にもつ娘が現れていたのだ、時には黒、時には白と、その時々で色が違うものの光に輝くものだから一目でわかる。 その美しさを求め、ヘンリーが心配していたように誘拐事件などが起きていた。
伝承は伝わっているのだけど、詳しい内容は誰も知らないのよね。
私のモルフォ蝶色の髪はあえて結ばず、丁寧に梳かされていた。
ドレスもあえてシンプルなエンパイアスタイルにし、色も白にした。
「あぁ、ローズ……美しい。誰にも見せたくない」
「まぁ、オスカー様。私を見ないと納得していただけませんわ」
「言いたいやつには言わせておけばいいんだ。君の美しさは僕だけのものなのに」
姿見で見る私の姿はとてもキレイだった。髪色が派手なのでシンプルなドレスは正解だったかも。
背後からオスカーが抱きしめてくる。
もう、最近はいつでもこうやってくっついてくる。
私もそれに慣れつつあった。そしてキスをする。
「これからお化粧するから、キスは控えてくださいね」
侍女のキツめの一言にオスカーも両手をあげ
「あぁ、わかっているよ。仕方ない、僕も着替えてくるか」
と言って部屋を後にした。
⭐︎
宮廷のホールが開放され、オスカー王子婚約発表会場となった。
会場には招待された貴族や商家が入り、衛兵で周りは厳重に監視されている。
最後に王族の入場である。そして、パーティーの主役であるオスカー王子と私の名が呼ばれる。
「行こうか?ローズ。緊張してる?キスしようか?」
「ふふ、もう、オスカーったら。ありがとう、今ので緊張も解けたわ」
「あはは、キスはいつでもしたいんだよ?これでも遠慮してるんだ」
扉が開かれる。
静かに流れる音楽の中、ゆっくりと会場に進む私達。
スポットライトが当たり、髪色が浮かび上がると会場内は息をのむ気配で静まる。
そして徐々に声が上がる。
「なんて美しい髪色だろう」「あれはなんというんだっけ、モルフォ蝶?」
「あぁ、そうだ。あの美しい蝶の色だ」「お姿も大変神々しい、未来の王妃に相応しいではないか」「あぁ、本当に、あの美しさは表に出したくないな」
そして拍手が広がっていった。
よかった……。ふとオスカーの横顔を見ようと視線を動かすとキラリと光るものが視界に入った。
「オスカー!危ない!!」
だが、剣先はオスカーではなく、私に向かって来た。
あぁ、逃げ場がない! 刺される!
「ローーズ!!…」
「キャーーーーーーー」
「衛兵!!衛兵!!!」
「あ……、そ、そんな……」
「オスカーーーさまーーー!!!いやーーー!!」
刺されたのはオスカーだった。私を庇ったのだ。
すぐに運び出されるオスカー様。私もついていく。
救急室に運び込まれ、すぐに治療が始まる。
「オスカー様、あぁ……なぜ、私などを庇ったの……。オスカー……」
どのくらい時間が経ったのか、もう感覚が麻痺してわからない。
すると、
ドクターが出てきた。
「御命は助かりましたが……意識が戻るかどうかはオスカー様次第です……力及ばず、申し訳ありません……」
「いいえ、いいえ。ドクターのせいでは……オスカーの側にいたいのですが……」
「ええ、どうぞ。こちらです」
部屋に通され、オスカー様の側に座る。
「オスカー様……オスカーさま……うぅ……お願い、目を覚まして」
涙がとめどなく流れる、まだ血だらけの手でオスカー様の手をにぎる。
いつの間にか、ウィリアム王とお父様が後ろにいた。
けれど、そんな事も気にならない。
「オスカー様、愛しています。あ、愛しているんです。お願い、お願いします」
涙でぐしょぐしょだ。でも、かまってられない。
神様、お願いします。
どうか、彼を助けて!
どうか……。
すると、不思議な事が起きた。
私の髪の輝きがオスカー様の手から体に移り、オスカー様が輝き始めた。
「……こ、これは」 「何が起きている?」
私の髪色が全て移るとオスカー様が輝く現象も治った。
「……オスカーさま?」
「……ローズ」
「お、オスカーさま!!!わーーーーーーん。オスカーさまーーーあぁぁぁ。よかったーーーああああ」
涙でぐしょぐしょになって、なりふり構わず泣いた。
「オスカー、奇跡だ……よかった」「あぁ、ローズの髪が奇跡を起こしたのだ」
「ローズ……髪の毛どうしたの?」
「オスカー様、私の髪の輝きがオスカー様を救ってくれたのです。でも、もう、モルフォ蝶の輝きは無くなりました」
「そうか、ローズ、ありがとう。モルフォ蝶の色は残念だけどそういう奇跡の力があったんだね。今のパールシルバーの髪色も好きだよ」
「いいのですか……?まだお側にいても」
「? 何を言っているの? 僕がローズを好きになったのは、木に登っている庭師の少年に優しく危ないわって言ったからだよ?髪の色じゃない」
「あぁ、オスカー……愛してるわ!」
「うん、僕もその何倍も愛しているよ!」
「……蝶の伝説とは、こういう事だったのですね……愛する者を救う。」
お父様がつぶやいた……。
「ええ、ですが伝承に付け加えると今後生まれてくる蝶の乙女は取り合いになりますな……。これは黙っていたほうがいいようですな」
ウィリアム王も黙っていたほうが得策だと思われたようだわ。
今後も生まれてくるであろう蝶の髪色をもつ乙女の安全のため、事実は隠されることになった。
きっと、こういう経緯で今までも秘匿とされていたのね。
落ち着いてから聞いた話では、自分が選ばれなかった伯爵家の令嬢がドレスの中に剣を仕込んで私の命を狙ったそうだ。逆恨みでオスカーの命を危険な状態にしたのは許せない。極刑処分となった。
⭐︎⭐︎⭐︎
ー数年後ー
私とオスカーは結婚し、子供にも恵まれた。双子の男の子と女の子だ。
「おかぁしゃまー、ほらみて!」小さな手には花が握られている。
「だぁめ!ぼくがさき!」こちらは手にキレイな石。
「にぃしゃま、っめ!」
「うふふ、2人とも仲良くするのよ?順番に見るわ?」
「父様もいるのに、2人ともお母様なのかい? だめだよ? お母様は父様のなんだからね?」
相変わらずね、オスカーは。
今の私の髪色はパールシルバーだけど、私の双子の子供たちは輝くキレイな黒アゲハ蝶の色とオオルリアゲハ蝶の色をしていた。男の子でも蝶色の髪になるなんて……。最初、なんの蝶なのかわからず図書館で調べまわったものよ。蝶色が受け継がれると思わなかったけど。とてもキレイで嬉しいわ。きっと2人とも王族だから守ってもらえるし、大丈夫でしょう。
きっといつか子供達の愛する人のためにその髪は力を発揮してくれるはず。
Fin