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処刑された魔法使い兼悪役令嬢の本当のエンド  作者: 碧井 汐桜香


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3/3

王子のその後

「————ルリリーアはぁ、別に殿下と結婚したいなんて言ったことぉ、ありませんよぉ? ルリリーアはお兄様のように殿下を慕っているだけですしぃ。それにぃ、」


 ルリリーアのこの言葉を聞いてから、王子は女性……いや、人間そのものが怖くなった。


 どれだけ愛らしく笑っていても、腹の底では何を考えているのかわからない、と。

 ルリリーアに言われるまでもなく、己の愚鈍さは自覚していた。しかし、ルリリーアは成績だけはいいものの、表立ってその優秀さを見せたことは、幼少期から今に至るまで一度もなかった。ルリリーアが褒められるのは、その愛らしさと優しさ、そして、成績の優秀さだった。王子たる自分を立てていたと言われれば、そうかもしれないが、周囲の者たちもルリリーアの特異さに気が付いた者は誰もいなかったと王子は確信している。


「殿下ぁ」


 愛らしく微笑み、舌足らずな声でそう呼びかけてくるルリリーアを愛らしく思っていたのは、きっと王子以外の生徒のほとんどだったのだろう。もしも、自分がルリリーアの望むように動かなかったら、自分は……いや、この国はどうなっていたのだろうと考えると、王子は背筋が寒くなる思いがした。


「殿下ぁ」


 小さな頃からその舌足らずな声で、でも一度も名を呼ばれたことはなかった。サシャラインのことは何度も読んでいたのに。幼少期から一緒に育ったルリリーアが、サシャライン以外の者の名を呼んだ光景に見覚えがないことに、王子は薄ら恐ろしい気がした。きちんと名を覚えているはずのルリリーアは、全ての者に対して敬称や爵位名で通していたのだ。自身のことはルリリーア、と呼ぶのに。


「殿下、いえルフィサー様」


 第一王子から単なる王の子ルフィサーになってから、一度もルリリーアは会いに来ない。元々淡白な性格だったが、念願のサシャラインの弟子になって、忙しい日々を過ごしているようだ。


 愛らしく甘えてくれたり、愛らしく触れてくれたのは、幼馴染のお兄様への感情だったのか、それともサシャラインのためだったのか。


「お支度の用意が整いました」


 大魔法使いと優秀な魔法使いで弟の婚約者であった筆頭公爵家の令嬢を失った責任は、メルダ男爵だけでなくルフィサーにも降りかかった。何人かの高位貴族の令嬢がかなり高度な教育を施されていると、ミチリアルド公爵の進言で明らかになり、弟の婚約者はその中から決まった。また、サシャラインを失ってもルリリーアが優秀な魔法使いとして国に属することになっている。ミチリアルド公爵家の権力はますます増すばかりだ。……たとえ、処刑したはずのサシャラインが生きていたとわかっても、王家が苦言を呈せない程に。


「わかった、今行く」


 ルフィサーは王家の血筋を引くものとして、王位の代わりに爵位を与えられた。ルフィサーの愚鈍さは全国民の間で有名となり、担ぎ上げるなら傀儡にするつもりだと明らかだ。誰も担ぎ上げたりしないだろう。


 無能な王家の血筋を引くものという犠牲は必要だ。危険地域に派遣され、叱咤激励する仕事から、汚れ仕事。はたまた反乱分子の炙り出し。様々なことに使われている。国の役に立てている。今やそのことだけがルフィサーの誇りとなっている。


 国で役目を終えたら、大国の女帝の元に婿入りするのだろう。人間不信なルフィサーにとって、国と国の繋がりであるその関係は、心地の良いものになるかもしれない。そんな期待を胸に、ルフィサーは今日も職務に励む。





「あ、殿下ぁ! じゃなかったぁ。お兄様ぁ!」


 お師匠様が社交に行けって追い出すんですよぉ! 王妃に向いてるとか言ってぇ! そんな愚痴をこぼしながら、久しぶりに会ったルリリーアが声をかけてきた。あれだけのことがあったのに、変わらないルリリーアに、ルフィサーは苦い思いを飲み込んで口を開いた。


「ルリリーアが王妃になったら、国が大変なことになるな」


「ですよねぇ。ルリリーアも向いてないと思いますぅ」


 向いてないとは決して言っていないのに、向いてないと言ったと判断したルリリーアは、満足げにコクコクと頷いた。遠くの方で、ルリリーアがルフィサーと話していることに気がついたミチリアルド公爵が血相を変えて駆けてきている。それに気がついたのか気がついていないのか、ルリリーアはにへらと笑って、ルフィサーの元から去っていった。


「またお話ししましょうぅ、お兄様ぁ。ルリリーアはぁ、有名な魔法使いになりますからぁ、お兄様も頑張ってくださいぃ」



 はるか年上の女帝の婿になることしか考えてなかったルフィサーは、ルリリーアの言葉をしみじみと噛み締めた。


「まだ、僕はやり直すチャンスがあるのだろうか?」


 ルリリーアならきっと笑ってこういうだろう。


「全然ありますよぉ!」

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