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処刑された魔法使い兼悪役令嬢の本当のエンド  作者: 碧井 汐桜香


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サシャラインside

「サシャライン様ぁ!」


 毎日毎日、飽きもせず追いかけてくるのは、元孤児の自分よりも遥かに身分の高い公爵令嬢。しかも、国で一番力のある家の美しい娘だ。……自分の婚約者はこの子に夢中なのに、その娘に追い回されるなんて皮肉よね、とサシャラインあは独りごつ。


「今日こそはぁ、弟子にしてくださぁい!」


 最初に話しかけられたときに、人目が多いところで話しかけられると困ると言ってから、忠実にそれを守ってくれているのはありがたい。それに、身分を盾にして命じられたら、サシャラインには逃れられないだろう。実父であるはずの男爵は、サシャラインのことを王家とのつながりを作るための道具としか見ていないのだから。そう考えると、サシャラインの婚約者である王子に気に入られているこの娘こそが、一番サシャラインを尊重しているのかもしれない、と、サシャラインを小さくため息を落とした。


 母親が亡くなって、孤児院に入れられた。その頃の記憶は朧げだが、孤児院で育てられ、判別の儀で魔法の才がわかった瞬間、世界が変わった。

 実の父だと名乗る男爵に、愛情を期待してしまったのは、仕方ないだろう。それに裏切られ、次に婚約者として紹介された王子と愛情を育むことができるかと期待して、それも裏切られた。両親からの愛情も、王子からの恋心も、皆からの称賛も、すべて持っているこの娘のことを妬ましく思ったのも仕方ないと、サシャラインは気が付いていた。


「……無理です」


 サシャラインがいつも通り冷たく言い放っても、この娘は、サシャラインを親鳥と覚えた雛のように、ずっとついてくる。もちろん、周囲に人の気配を感じた瞬間、他人となってくれるのだが。


「じゃあ、せめてぇ、サシャライン様のほしいものとかぁ、願い事とかはありませんかぁ? それをルリリーアが叶えたらぁ、弟子にしてくれるとかぁ……」


 愛情、と答えそうになったサシャラインは足を止め、口を閉した。きっと自分で叶えると言っているこの娘は家の力を使って叶えるのだろう。それならば、絶対にできない願いを……そこまで考えたサシャラインが一度思案し、ルリリーアに向き直った。


「……家からの解放と、王子との婚約の解消。さすがのあなたでも、難しいのではありませんか?」


 サシャラインのそんな言葉に目を丸くしたルリリーアは、一瞬考えたそぶりを見せて、すぐに口を開いた。


「男爵家の影響下から抜け出しぃ、王子との婚約を破棄されるという方法でもぉ、いいのですかぁ?」


 サシャライン様の悪評になっちゃうけどぉ、と呟いたルリリーアが救いの女神に見えたほど、サシャラインは疲れていたのだろう。全てから逃げ出したいくらいに。


「方法はどうでもいいです。家と王子との婚約からの解放、それができたら弟子にして差し上げましょう」


 王家から逃れられるなんて思ってもいなかったサシャラインは、ルリリーアに少し期待を抱いてしまった気持ちを胸の奥に押し込み、悠然と微笑んだ。


「本当ですかぁ!? 約束ですよぉ!」


 嬉しそうにそう飛び跳ねたルリリーアが、サシャラインの想像と遥かに違う方法で願いを実現したのは、きっと創造神すらも予想がつかなっただろう。







⭐︎⭐︎⭐︎

「殿下ぁ!」


 ルリリーアとサシャラインが約束した翌日から、ルリリーアは王子に媚び始めた。それまでは幼馴染のお兄様と、一歩引いて接していたのを、まるで実兄に甘えるかのように甘え始め、王子の機嫌がいい日が続いた。


 「諦めたのかしら」と、サシャラインが思わなかった理由は、授業終わりのルリリーアの訪問が止むことはなかったからだ。


「サシャライン様ぁ! 早く弟子にしてくださぁい!」


 そう甘えていたルリリーアが王子と親密になるに従い、サシャラインが婚約者であることを非難する声が高まった。その非難をルリリーアはうまく誘導し、サシャライン自身には向かないように、王子とサシャラインの婚約について、王子の王政への不安に向けたものとなるように動かしていることにサシャラインが気が付いたのは、己の手に枷が嵌められたときだった。


「サシャライン様ぁ、もうすぐ弟子になれますねぇ!」


 サシャラインと王子の婚約を強引に破棄するためには、サシャラインに冤罪であろうと瑕疵が必要だとルリリーアが思い、そう貴族たちを誘導し始めたその頃には、ルリリーアはもうすぐ弟子になれると浮かれていた。ルリリーアの恐ろしいところは、その浮かれ具合はサシャラインと二人きりの時にのみ発揮し、他の者とのやりとりは無邪気さの下で計算尽くして動いていたことだろう。公爵とのやり取りでは、その愛らしさもなりを潜め、強引に物事を進める支配者としての挙動そのものだったというが。もちろん保険をかけることは忘れないルリリーアは、国王との交渉で自身とサシャラインの婚約の解消や他国との交渉等様々な方法を準備していたのだが。








⭐︎⭐︎⭐︎

「ただいま戻りましたわぁ! ……お師匠様ぁ?」


 己の手に枷を嵌められた時、約束を有耶無耶にして逃げることは叶わないとサシャラインも認識した。しかし、サシャライン自身には甘く、そしてサシャラインへの執着が恐ろしいこの娘から逃げるためのタイミングがあったら、逃げ出すことも辞さないと考えていたサシャラインの心はルリリーアにはお見通しだった。


 この子が王妃になるべきだったのでは? その交渉手段や民意の動かし方、何手先もいくその思考に恐ろしさを感じるサシャラインは、王妃になるべく人は自分のような凡才ではなく、この娘のような天才だと思った。実際、弟子ではなく王妃にしようと何度も画策したが、それは叶わなかった。


「お師匠様ぁ? ルリリーアはぁ、お師匠様の弟子にしかなりたくありませぇん!」


 あれこれと社交界へと送り出したのに、ルリリーアがそう笑顔を浮かべて帰ってくるたび、サシャラインはため息を落とすと同時に、徐々に安心していったのだった。何があってもこの弟子はサシャラインから離れない、と。



「仕方ないわね。弟子ならこれくらい、こなして見せなさい」


「お師匠様ぁ!」


 課題の難易度を上げるたびに、嬉しそうにまとわりついてくる弟子を見て、サシャラインは若干の恐怖を抱きながら、仕方なさそうに笑うのだった。


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