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処刑された魔法使い兼悪役令嬢の本当のエンド  作者: 碧井 汐桜香


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断罪

「殿下ぁ。サシャライン様がぁ、ルリリーアのこと、怖い顔で見つめてきますぅ」


「なんだと!? サシャ。お前よくもルリーのことを脅したな!?」


「……わたくしはルリリーア様に対して怖い顔をしていたわけではなく、“婚約者がいる身でありながら、よくもそんな距離で女生徒と話せるな”と思っていただけですわ。わたくしの注意など、聞いてくださらないのでしょう?」


「不敬だ! いつまで僕の婚約者という身分でいることができるか、覚悟しておけ」


「承知いたしました」


 美しく妖艶な微笑みと共に、ピンク色の髪を翻して教室から出ていくサシャラインの迫力に、生徒たちは分かれて道を開けた。ポカンと見送った王子と、誰にも見られず笑みを深めたルリリーア。この二人が目を合わした途端、気がついたかのように王子が吠えた。


「なんなんだ! あいつは!」


「落ち着いてくださいぃ。殿下ぁ」


 ルリリーアが王子の方に優しく触れると、王子は相合を崩した。


「ルリーは本当にかわいいな。サシャと違って身分も僕に釣り合っているし、早く父上に言ってルリーを婚約者にしたいよ」


「えへへぇ。サシャライン様はぁ、魔法使い様ですものねぇ」


 美しく波立つ金髪に愛らしいピンクの瞳。砂糖細工のような愛らしさのルリリーアは、王子の幼馴染であり、両親からの愛を一心に受ける娘で、この国の筆頭公爵家であるミチリアルド公爵家の令嬢だ。一方、サシャラインは当主が気まぐれに手をつけたメイドの娘で、メイド亡き後孤児院にいたところを引き取られた、実父である男爵の養女だ。十歳で行われる判別の儀で、この国で珍しい大魔法使いの才に恵まれたため、メルダ男爵家に引き取られ、王子の婚約者となったのだ。


「でも、ルリーだって、魔法使いの才に恵まれたじゃないか」


「大魔法使いのサシャライン様には及びませんよぉ」


 王子に頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めたルリリーアの愛らしさに、周囲の人たちも思わずため息をついた。


「こんなにも愛らしくて優秀で、殿下とも親しいルリリーア様がいらっしゃるのに、妾腹の元平民が婚約者だなんて……」

「ルリリーア様と殿下がかわいそうです!」

「いくら大魔法使いの才があっても、元平民の王妃なんて笑えるよな」

「そんな国の貴族だなんて恥ずかしい」


 生徒たちの声が大きくなるにつれ、王子は笑みを深めた。そんな中、ルリリーアが声を上げる。


「皆様ぁ! たとえ納得いかなくてもぉ、サシャライン様は国王が定めた殿下の婚約者ですわぁ。ルリリーアは優秀なサシャライン様のことを尊敬いたしますわぁ」


 ルリリーアの声に、皆が拍手する。ルリリーアの心の美しさに対して。


「僕、父上に殿下の婚約者にはサシャライン様は相応しくないと、話してみるよ! 皆が親に話すことで世論を動かし、サシャライン様を婚約者から外すんだ!」

「わたくしも! お父様に相談しますわ」

「今度、お母様と一緒に王妃様のお茶会にご招待されましたの。そちらでも話してきますわ!」


 サシャラインを王子の婚約者から外すために動く。その声が大きくなるにつれ、ルリリーアの笑みが深まった。そんなルリリーアの笑みに気がついたのは、目立たない男子生徒一人だけだった。







「ルリリーア様!」


 男子生徒に呼びかけられ、愛らしい笑みを浮かべたルリリーアが振り返る。


「あら、同じクラスのぉ……ごめんなさいぃ。わたくしぃ、授業後は予定があって急いでいるのぉ」


 困った表情を浮かべて先を急ごうとするルリリーアに、男子生徒が追いかけるように声をかけた。


「さっき、笑ってましたよね!? 何を考えているのですか!?」


 男子生徒のその言葉に、足を止めてゆっくりと振り返ったルリリーアの笑みには、いつもの愛らしさが消えていた。暗い森の奥の魔物のようなその迫力に、男子生徒は思わず一歩、後ずさった。


「……サシャライン様は素晴らしい王妃になると思います。あなたに邪魔はさせない」


 男子生徒のその言葉に、小さく舌打ちしたルリリーアは愛らしい笑みを浮かべ直して口を開いた。


「……いつも言っているではありませんかぁ。サシャライン様の優秀さぁ? そんなことはわかっていますのぉ。……きっと近いうちに、ルリリーアの言葉の意味がわかると思いますわぁ」


 にっこり笑みを浮かべたルリリーアの迫力に押し黙った男子生徒を一瞥し、ルリリーアはどこかへと急ぐのだった。








⭐︎⭐︎⭐︎

「サシャライン! お前は僕の婚約者に相応しくない! 愛らしいルリリーアに嫉妬し、ルリリーアを虐めたお前を絶対に許さない。婚約を破棄し、お前を平民とする!」


 卒業パーティーでいつものようにルリリーアをエスコートした王子は、ルリリーアを腕にぶら下げたまま、サシャラインにそう宣言した。国王やその周辺への根回しなど行わずにされたそれに、教師たちも慌てふためいている。


 名を呼ばれ、前に出たサシャラインの服装は、金色のドレスにピンクのアクセントがあちらこちらに入っていて、サシャラインのために仕立てられたそれは、サシャラインの身体のラインを美しく引き出したとても豪華な物だった。王子が一瞬見惚れたように止まり、ルリリーアは笑みを深めた。

 まるで同じ職人によって作られたかのような、ルリリーアのドレスはサシャラインのものと揃いのように似たデザインで、ピンク色のドレスに青い刺繍の装飾がついていた。まるでサシャラインのピンク色の髪と青い瞳を意味するかのようなそのドレスに王子も一度苦言を呈したが、ルリリーアは“自分の好きな色だし自分で注文したものだから”と一切譲らず、今日を迎えたのだった。


「ねぇ、殿下ぁ」


 見惚れた王子の服の裾を引き、上目遣いで見上げたルリリーアが欲しい物をねだるかのように微笑んだ。


「ルリリーアが被害者ですよねぇ? サシャライン様の処遇ぅ、ルリリーアが決めちゃだめですかぁ?」


 今まで散々サシャラインを庇ってきたルリリーアのことだ。ルリリーアに任せた方が、父上も納得するだろうと王子が了承すると、一歩前に出て笑みを深めたルリリーアが言った。


「ルリリーアに意地悪をいっぱいしたぁ、サシャライン様の刑はぁ、処刑ですぅ! 安心してくださいぃ! 我が家できちんと処罰しますからぁ」


 愛らしく微笑んだルリリーアの言葉に会場はざわついた。ただ、サシャラインだけが表情を変えずに黙って聞いている。


「ル、ルリ、ルリリーア。そんなにこの女のことが気に入らなかったのか?」


 ニコニコと笑みを深めたまま、ルリリーアが王子を振り返る。


「いえぇ? 逆ですわぁ! とても尊敬しているのですぅ!」


「で、では、処刑というのはやり過ぎだろう? さすがに処刑場を使うとなると、父上の許可がないと……」


「なぜ国王陛下の許可が必要なのですかぁ? 我が家で処刑すると言っているではありませんかぁ。あ、男爵ぅ。殿下の婚約者でなくなったサシャライン様のことぉ、もう必要ありませんよねぇ? うちで処分してかまいませんかぁ?」


 きゃはっと声が出そうなテンションのルリリーアに話しかけられたメルダ男爵は、慌てたようにこくこくと頷いた。


「は、はは、はい。我が家ではもう不要ですので、お好きなようになさってください」


「わぁい! ありがとうございますぅ! 殿下からの婚約破棄も宣言してもらったしぃ、男爵からの許可もとったしぃ、では、サシャライン様の身柄は我が家で預かりますねぇ!」


 ルリリーアはふんふんと鼻歌を歌いながら、サシャラインの身柄を拘束するようにミチリアルド公爵家の兵たちに指示を飛ばした。身柄を拘束するときに魔力封じの枷までされたところで一瞬サシャラインの表情が曇ったが、すぐに無表情に戻って大人しく連行された。


「こ、公爵! ルリーの暴走を止めてくれ! 流石に元婚約者を処刑した女を王妃に迎えるには民衆の反感が強まるぞ!」


 ミチリアルド公爵の姿を見て、その方を揺らしながら頼み込む王子に、諦めた表情を浮かべたミチリアルド公爵が力無く笑った。


「……無理です。ルリリーアが一度決めたことを覆すなんて、あり得ません。残念ながら、殿下が婚約破棄を大衆の前で宣言し、ルリリーアにその処遇の決定権を譲渡し、男爵がサシャライン嬢の所在について否定したその時から、彼女は平民として扱われます。ルリリーアの行動を止めることなど誰にもできないのです」


「そんな!?」


 国の大魔法使いを平民に落とすことでも大問題なのに、処刑するなど愚王の所作の他でもない。頭を抱えた王子が、ルリリーアに言い募った。


「ルリリーア。さすがに処刑はやりすぎだ。君はこのままだと僕と結婚できなくなるぞ!?」


 生き生きとサシャラインに関する指示を飛ばしながら見送っていたルリリーアは、そんな王子の言葉に一瞬きょとんとした後、口を開いた。


「ふぇ? 殿下がルリリーアに好きにしていいって言ったんですよぉ? それにぃ、ルリリーアはぁ、別に殿下と結婚したいなんて言ったことぉ、ありませんよぉ? ルリリーアはお兄様のように殿下を慕っているだけですしぃ。それにぃ、」


 ルリリーアの言葉に全員が目を剥いたそのとき、慌てたように国王が現れた。


「どういうことだ!」


「ち、父上」


 焦った様子の王子に、国王が冷たく言い放つ。


「大魔法使いを処刑するなど、言語道断」


「国王陛下ぁ」


 ルリリーアが可愛らしい顔を国王に向けると、一瞬笑みを浮かべた国王が、再度王子に向き直った。


「お前をもう息子だとは思わぬ」


「そんな! 父上! 僕はルリリーアと共に国を導きたいと思っています!」


 王子のその言葉に一度ため息を吐いた国王が言った。


「お前のその考え、ルリリーアやサシャラインにきちんと話してから行動に移ったのだろうな?」


「あ……」


 言葉を失って顔色を悪くした王子に、国王が言い募った。


「ルリリーアから奏上を受けている。腕のいい師匠を手にいれる予定だから、自分を国定魔法使いに認定してほしい、と。国定魔法使いは結婚が認められない。腕のいい師匠が手に入ったら了承すると回答しておったが……」


 にこにこと笑みを浮かべるルリリーアに、国王も公爵も頭を抱えた。


「それと、第一王子、つまりお前だ。第一王子には、国を納め導く才がないことから、サシャラインとの婚約を解消し、王位継承権の剥奪が相応しいと。この件については、多くの貴族から婚約解消の提案とお前の王位への疑問の声が届いておる。よって、第一王子の王位継承権を剥奪し、第二王子を立太子することとする」


「わぁ! ありがとうございますぅ」


 嬉しそうに笑うルリリーアに、王子が呆然とした表情で問いかけた。


「なぜ……?」


「ん? だってぇ。殿下はサシャライン様の才能に気づかないほどの愚鈍さですしぃ、サシャライン様を解放するための布石は多い方がいいじゃないですかぁ」


 にっこり笑って、「殿下がぁ、ルリリーアの思った通りに動いてくれてよかったぁ」とはしゃぐルリリーアに、がっくりと項垂れた王子に、ルリリーアは挨拶をする。


「ではぁ、ルリリーアはサシャライン様の処刑で忙しいのでぇ、御前失礼してもよろしいですかぁ?」


「あぁ」


 国王がそう言ったところで、公爵令嬢らしい美しいカーテシーをしたルリリーアはるんるんと歌いながらスキップして消えていった。


「……娘が申し訳ございません。陛下」


 頭を下げる公爵を手で制し、国王はメルダ男爵に向き直った。


「良い……。ところで、メルダ男爵。儂はしっかりとサシャライン嬢を守るように、厳命してあったよな?」


「え、え、あの」


「ルリリーアとサシャライン。優秀な二人の魔法使いに婚約者の座から逃げられた王家の損失はどう埋めるつもりだ?」


 ルリリーアと第二王子の婚約は、内々に進められていたのだった。婚約者二人逃した王家の損失について、メルダ男爵が詰められる中、ミチリアルド公爵は黙っていることにした。「……ルリリーアがその損失補填とか言って、数人の女生徒に教育を施していたことは、陛下への今後の交渉材料として利用させてもらおう」


 





「ふんふんふふーん……あらぁ?」


 ルリリーアが鼻歌まじりに馬車に向かって歩いていると、影の薄い男子生徒が寄ってきた。


「ルリリーア様の手腕には感動いたしました。国を守るため、あえて王子に言い寄っていたとは」


 そう言ってきた男子生徒に向かってにっこりと笑ったルリリーアは、男子生徒の肩に手を置いて言った。


「ふふふ、心にもないことをおっしゃってぇ。……サシャライン様は、貴国には差し上げませんわぁ」


「……どういうことでしょう?」


 笑みを深めた男子生徒に、ルリリーアが笑う。


「我が家できっちりと処刑いたしますからぁ、お国に帰ったらいかがですかぁ? ……隣国の魔法使い兼間諜さぁん」


 そう言ったルリリーアは再び鼻歌を歌いながら、スキップして馬車に向かうのだった。残された男子生徒は「恐ろしい女だ」と呟いた次の瞬間、その場から姿を消していたのだった。








⭐︎⭐︎⭐︎

「ただいま戻りましたわぁ! ……お師匠様ぁ?」


 拘束を解かれることなく、兵に守られた客室に押し込められていたサシャラインに、ルリリーアは嬉しそうに挨拶する。


「お師匠様ぁ。ルリリーアはきちんと約束を守りましたよぉ?」


 にこにこ笑うルリリーアに、一度ため息を吐いたサシャラインが言った。


「わたくしと王子との婚約を破棄し、わたくしを生家から解放したら弟子にしてあげるとは言ったけど、本当にやり遂げるなんて思わないじゃない?」


「ふふふ、お師匠様の想像よりもルリリーアが優秀だったってことですねぇ。お褒めに預かり恐悦至極ですわぁ。さぁさぁ、何から教えてくださいますぅ?」


 杖を構えて尻尾でも生えたかのように喜びを表すルリリーアに、サシャラインは言った。


「あなた、わたくしを処刑すると言ったのよ? それはどうするの?」


「ふふふ、我がミチリアルド公爵家にぃ、口の軽い人間はおりませんのぉ。お師匠様が嫌がるだろうからぁ、新鮮な死体は準備できませんでしたがぁ、ちょうどいい身寄りのない死体がありましたのぉ。我が家で丁寧に埋葬いたしますわぁ」


 にっこりとわらったルリリーアに、無駄だと分かりながらサシャラインは問いかける。


「この枷、外してくれないかしら? 魔法が教えにくいわ」


「……お師匠様ぁ。まだダメですぅ。お逃げになるつもりですよねぇ? ルリリーアの目はごまかせませんよぉ?」


 にっこりと笑ったルリリーアに、小さくため息を吐いたサシャラインの手から枷が外されるのはきっともうすぐ。

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