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第8話 ライムライト

8月1日9時27分――――


次の爆破予告先である新宿に、トパーズは朝から乗り込んでいた。人に聞き込みをして、爆破地点をなるべく特定するためだ。

気温は曇りで夏なのにだいぶ低く、横風がとても冷たい。

少年はどこで聞き込みをするか悩んだが、とりあえず新宿駅西口周辺から洗ってみることにした。移動中当然ながら警察とすれ違うことが多い。爆破犯のクイズをもう当てているのだろうか。

「よーしやるぞー!」


――――

坂の向こうからカップルらしき人がやってくる。

「すいませんちょっとよろしいですかー?」

「な、なに」

片手にノートパソコンを持った突然の少年のキャッチに、カップルはいささか驚いた様子だった。

「お二人はー例の連続爆破事件をご存知ですかー?」

「まあニュースでは聞いてるけど…」

「次の爆破場所は新宿なのに、のんびり新宿歩いていていいんですかー?」

「それはお互い様だろ」

「ですよねー!そこで!爆破犯の予告動画を観てもらって、何か気がついた点があればぜひ教えて欲しいんです。どーぞ!」

動画を眺める2人。

「…うーんこれといって特には…」

「わからないわ」

「…そうですか。すいませんでしたねどーも」

カップルはその場を去っていった。

「これでめげてちゃいけない!どんどんいくぞ!」

少年は気合いを入れ、次また次へと通行人に声をかけては動画を見せて回った。

西口ではだめだとなると、東口へと移動し再び呼びかけを続けた。


すっかり日も暮れてしまった。40人以上に声をかけたが、成果はなかった。

爆破予告まで2時間を切っている。さすがに少年にも焦りの色が見えた。が、それでも呼びかけを続けようとめげずにいた。

向こうからオタクっぽい少年が3人やってくる。少年は近づいた。

「どーもー」

「何?何かの勧誘?」

「違うんです。例の爆破犯の予告動画を観ていただいて、なにか気がついた事があれば教えていただけないかなーって」

3人はキョトンとしながらも、

「別にいいよ」

と快諾してくれた。すぐに動画を流し始める。じっと見つめる3人。

「ちょっともう1回流してもらっていい?」

少年はもう一度流し始める。3人のうちの1人がうなずき、

「これBGMに流れてるの、ゆかんちじゃん」

「ゆかんち?」

「そう、地下アイドルの。ライブハウスでよく出てたな―」

「その!ライブハウスは知ってますか!?」

「ライムライト。でも閉店になるらしいよ、小さい箱だったからねぇ」

トパーズの頭に電撃が走った。次の爆破場所を確かに捉えた瞬間に思えた。

ライムライトの場所を聞いて、3人のオタクと別れを告げた。

犯人はライブハウスにいるに違いないと思っていた。少年はダッシュでライブハウスまで向かった。


――――


「冴島指揮官、まだ爆発物のようなものは見つかっていません!」

「200人動員しているのにか!?とにかく徹底的に探せ!」

冴島は怒りと焦りが入り混じった怒号を警官にぶつけた。

ヒョイと蛙谷が現れる。

「…そもそも本当にここで良いんでしょうかねぇ…冴島さん?」

冴島は自信ありげな顔で応えた。

「人の多い場所で閉店する場所はここ、スタジオマルタしかないわ!」

警官が通りがかりの民衆に、爆破が起きるので避難して下さい、と呼びかけている。

旋回したヘリがこちらにライトを当ててくる。蛙谷と冴島は眩しくて思わず手で顔を覆う。

「朝から今まで探してるのに見つからないんですぜ?他にも場所が…」

「ここしかないわ。信じられないなら帰りなさい。どうぞ帰って」

「相変わらず手厳しいですなぁ…周囲を張りますよ、はいはい」

やれやれといった様子で蛙谷は両手を挙げながら踵を返した。


――――


ライブハウス・ライムライトは駅から近い場所にあったが、実に入り組んだ非常に分かりにくい場所に位置していた。トパーズはただでさえ方向音痴なので、同じ道を何度もグルグルと行き来してしまった。たまたま通った道に、地下1階ライムライトという看板を見つけたので、

「ラッキー!」

と指を鳴らしてからケータイを見た。後7分で爆破時間だ。少年は一気に店の階段を駆け下りた。扉の奥はとても静かだ。足で扉を蹴り倒す。

なか中央には数人の若い男女が横たわっている。少年はすぐにかけつけ、

「大丈夫?起きてる?」

との呼びかけも虚しく男女はピクリともしなかった。

「お前、警察じゃあないな」

突然後ろのカウンターから男性の声がした。少年が振り向くと、ウサギの被り物をした男が拳銃をこちらに向けていた。本能でその拳銃は本物と悟った。

「あなたが犯人っ…!?」

被り物をしているので表情は分からなかったが、笑みを浮かべているように思えた。

「この眠っている男女は…?」

「バンド・ゆかんちだ。知ってるだろう?」

問答を繰り返していると、カウンターから中年男性がよろよろと起き出した。

「うーん…どうなってるんだ?」

男性には明らかに爆弾らしきものが装着されている。人間爆弾と化していた。

うさぎは慎重に言った。

「いいかオーナー、お前には爆弾を背負ってもらっている。爆破を逃れる方法はなるべく背筋を伸ばして体を並行に保ち続けることだ。中のパチンコ玉を端に寄せなければお前は助かる。もし一定に傾いて玉を端に寄せれば…」

「ひいいぃっ!!!」

うさぎは男の爆弾についていたピンを外した。

「おいお前!ここから逃げるぞ!」

「え?ああうん」

うさぎと少年はダッシュでホールを後にする。

「待ってくれ!平行になんて無理だ!平行になんて…」

地下から思い切りでかい爆発音がした。爆炎と爆風が地下から吹き上がってくる。

「ダッシュだ坊主!」

「熱い!」

すんでのところで地上に出ることができ、一命をとりとめた。

少年はうさぎに叫ばずにはいられなかった。

「どうしてゆかんちまで犠牲にしなくちゃいけなかったんだ!?」

うさぎはしばらく間を置いてから、首をかしげた。


ライムライトからはモクモクと黒煙が吐き出されていた。


――――


「南口の近くから爆発音、至急総動員で向かいます!」

冴島はあまりのショックで応答することもできなかった。まさかそんな。

持っていた自信が脆くも瓦解したのだ。蛙谷が近寄ってきて囁いた。

「指揮官として2度の失敗は痛い。痛すぎますなぁ。まぁ分署の窓際で書類整理も良いものですぞ…ふふ」

冴島はなおも黙ったまま無線を握っているのが精一杯という体だった。


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