第60話 フィナーレの音
「しまった!来たか警察」
Aは舌打ちした。早くも警察に居場所を特定されてしまったのだ。と、一個団体の集団がこちらに向かって歩いてきた。
「いたぞ警察め!」
先ほど無線で何かを喋っていた警官は、途端に来た集団に囲まれリンチされた。その集団は警察を憎む暴徒と化した市民だった。
市民はこちらに向かってくる。緊張と焦りが漂う。市民はAとBに近づくと言った。
「お前ら爆破犯だろ、なぁに何も言わなくてもわかってる。俺達にとってはヒーローだ。なるべく警察を追い払うからあんたらは行きたい場所へ行きな」
「あ、ありがとう」
2人は暴徒に助けられながらもその場から逃げ出した。目的地はこの巨大なショッピングモールにある階段で上がれる場所だ。なるべく早足でそこへと向かってゆくのだった。
――――
蛍光掲示板は残り7分を切っていた。爆弾処理班の背中に汗が滴り落ちる。なかなか雷管を抜けずに混戦していたのだ。
「B2、処理はまだか」
無情な無線が入ってくる。爆弾処理班は無線に叫んだ。
「黙っとけ!!」
――――
ショッピングモールに数十台のパトカーが到着していた。もちろん冴島と松島も同行していた。パトカーを降りると暴徒と化した市民が火炎瓶を投げ込んだ。あやうくいち警官に当たりそうになる。その時。
パーン!という銃声が夜空をつんざき、全員が固まる。
冴島が上に向けて拳銃を発射した音だった。
「職務を遮る者は誰であろうと射殺するわよ!死にたくなかったらどっか行きなさい!」
冴島は逮捕に執心するあまり、狂気の沙汰と化してした。それは狂気と狂気のぶつかり合いだった。それでも市民は目が覚めず、再び火炎瓶を放り投げた。今度は警官にぶつかり、火だるまと化した。冴島は火炎瓶を投げた方角に向かって1発撃った。市民が一人銃弾に倒れると、さすがの市民もじりじりと下がり始めた。数十名の警官が市民に向けて拳銃を向けている。
「なめんじゃないわよ、あんた達!!」
市民は一人、また一人と逃げ出し始めた。そのタイミングで自衛隊の群衆も到着した。
「お疲れ様です!犯人はこのモールでありますか」
「そうよ!先導して追いかけて!」
――――
AとBは駆け足でショッピングモールに沿って走っていると、やっと階段らしきものがぼんやりと見えてきた。
「ここだ!」
今度は螺旋階段を登り始める。汗がほとばしるが休む事は許されない。ただ懸命に巨大な螺旋階段を駆け上がるだけだった。3階相当の高さまで来た時、警察の群れが近づいてくることに気がついた。
「何十人いるんだよ!」
「大丈夫なの?」
「上に行くしかない!とにかく登れ!」
ひたすら階段を駆け上っていった。
――――
犯人を追いかける警官たちの先頭に、冴島がいた。目的はトパーズの射殺であろう。もうこの冴島の狂気は松島をもってしても遮れなかった。
「トパーズ!お縄にかかれ!」
冴島は狂ったように銃撃を繰り返した。しかし距離があるためか全弾虚しく外れた。
冴島は空になった弾をスピードローダーで6発一斉装填し、今度は慎重になるだけ近づくことに執着した。
「はぁ…はぁ…」
長い螺旋階段だった。頂上までは一体どれくらいかかるのだろう。
――――
爆弾処理班の作業が架橋に入っていた。蛍光掲示板には1分切れている。
「頼む…頼む頼む!!」
焦りながらも慎重に手に汗をかきながら作業を続ける。
残り10秒、9秒…。
「これだぁっ!」
爆発処理班は雷管を引き抜いた。
掲示板には残り2秒を示している。
「はぁ…てこずらせやがって……」
犯人からしてみれば、かくして爆破計画は失敗に終わった。
――――
何階か来たところに、広い場所に出た。まだ頂上ではないが、とにかく広い場所だ。自衛隊がやって来た。Aは自前の拳銃で応戦する。Aの弾丸は自衛隊の持つ盾を貫き絶命する者多数だった。そこへ女性が息を切らしてやってきた。
「トパーズ…覚悟しなさい」
Bに対して拳銃を向けた瞬間、1発の銃声が轟いた。Bが放った銃声だ。それは見事に心臓を貫き、
「かはァ!!」
と叫んだが最後、冴島は今度こそ絶命した。
「B…」
「これでいいんだ」
Aは空になった弾倉を落とし、新しい弾倉に変えた。
「上に上がろう」
2人は再び階段を上がり始めた。
自衛隊は狭い螺旋階段を登ってきているので、一人づつしか登れなかった。それが逆に有利に働いていた。
最上階まで登るのは地獄の所業だった。Bは途中で吐いてしまった。それでも何とかショッピングモールの最上階の広場に到着し、がっくりと両者倒れてしまった。自衛隊も苦戦しているらしく、まだ到着する感じではなかった。
Aは時計に目をくばった。
「爆破も失敗したか…」
Aは愕然としていた。そうしている間にも何とか到着した自衛隊がにじり寄ってくる。AとBは拳銃で応戦した。バタリバタリと自衛隊員が倒れている中、生き残った自衛隊員はマシンガンで応酬してくる。
壁に隠れながら、
「マシンガンはまずいな…」
とAはつぶやいた。同じく壁に隠れていたBが、
「怖いよう」
と情けない声を上げた。
「B…」
意味ありげにAはBに諭すように言った、
「B…お前だけは生き残れ」
「…どういうこと?」
「俺の今回の計画は完全に失敗した。俺は何も未練はない。だがお前は生き残れ」
「いやだよ!2人で一緒にこれまでもやってきたじゃないか!今さら何を」
Aは壁から飛び出し、自衛隊員を寄せ集めるかのような動きをした。自衛隊員もAを追いかけるように動きを合わせる。しばらく自衛隊員を集めたAは上着をバッと開けた。そこには爆弾が腹に巻き付けてあった。
「ば、爆弾だ!罠だ」
「ただで地獄に行くかよ!」
「A…!!!!」
AはBに対してグッと親指を立てた。反対の手で爆破スイッチを押す。
超巨大な爆破が起こる。自衛隊群はあっという間に弾き飛ばされた。階段付近で爆破したため、階段の下にいた自衛隊員にも影響が出た。次々と階段を落ちてゆく。
しばらく沈黙が流れた。Bは壁に隠れていたので爆風に巻き込まれることはなかった。
「A…!」
Bは涙が止まらなかった。僕のために犠牲になってくれたAが信じられなかった。
と、単独でヘリがこちらへ向かってきた。コブのついた縄を垂らしながらこっちへとやってくる。Cだ!
「やってきたっすー!」
Bは縄にしがみつき、GOGOとCに呼びかける。ヘリは急上昇し、目的地の沖縄に向けて一気に移動した。
警察の今回の取り逃がしで、さらに市民は暴徒化し、警察への攻撃がより激化していった。
――――
事件より数日が経ち、元あった沖縄のアジトでのんびり過ごしていた。Cは一生懸命ラーメン修行をしていたが、結局芽が出ず、なにか他の仕事を探している最中だという事だった。
冷蔵庫から瓶のバニラコークを取り出しながら思うのは、Aの事…。しばらくは落ち込みそうだった。
2人はご飯を食べながら、談笑していた。
「Aはもしかしたら、心の中では死にたかったんじゃないですかね」
「Aが…」
「ただのサイコパスだったAですけど、Bに出会って少し愛を知ったサイコパスになったってことでは」
2人は黙ったまま食事を摂った。
――――
「Bの行方は必ず特定して、逮捕にこぎつけます」
「もう警察署には市民であふれているぞ、早くしてくれないと」
「分かっています。今一度時間を下さい」
松島は強気で演説を終わらせた。一人の警官が松島に言い寄った。
「居場所、割れてるんですか」
「わからん。だが絶対逮捕する。これは使命だ」
――――
Aの墓は名前から戸籍謄本を調べて、故郷の宮城県の鹿島台という場所に眠っている。
Bはノートパソコンに集中していたが、リビングからCの声がしたので、リビングに向かっていった。ノートパソコンの画面には裏サイトで購入したダイナマイト300個を購入した画面が禍々しく映し出されていた。
了




