第50話 やり直し
おそらく最後のアジトとなるであろう北綾瀬の戸建てに、電気水道ガスが開通し、ネットで購入したものも次々に自宅に到着し始めた。
とりあえずBは瓶のバニラコークと新品のノートパソコンとポケットwifiが届いたので満足していた。しきりにノートパソコンをカスタマイズしている。
Aはとりあえずタバコとコーヒーがあればいいみたいだった。かくいう今もタバコをくゆらせている。
「元に戻すには1日かかるなぁ…」
Bはモニターに視線を釘付けにしながら呟いた。プログラムを1から組み直さねばいけないからである。
「ピザでも頼むか」
Aの提案でピザを食べることになった。ピザは大好物だ。
ピザを食べながら、2人はテレビを眺めていた。相変わらず特番が組まれており、専門家が、犯人は次第に追い詰められているだのどうのこうの喚いている。Aはタバコを吸いながら涼しい顔をしている。Bはちょっとバツの悪い顔でテレビを見ていた。
テレビを見ながら、Aが唐突に提案を持ちかけた。
「少し休息が必要だ。明日動物園でも行こうか?それか映画。最後はもちろんステーキ!」
「うん…そうだね。行こうか!」
それからは楽しそうに2人はテレビを見ていた。
――――
騒がしい捜査1課の松島のデスクに冴島が寄ってきた。
「例のノートパソコンのパスワードは解読できたの?」
「解読できたみたいですけど…他のプログラムにも全部パスワードが付いているみたいでして…」
「まだまだ解読は遠いわけね」
「あぁあと…トパーズに似た人物が先日ホテルに泊まったという情報が」
「場所は?」
「足立区です。そのあたりに犯人は潜伏してるかもしれません」
「捜索を強化しなさい」
――――
翌日、動物園に着いた2人は、はしゃぎながら入口ゲートを通過した。
「まず何見る?何見る?」
「最初と言えばパンダだろ」
2人は小走りでパンダのいる檻に向かって駆けていった。
しかし実際のパンダは檻の奥でこちらに背をむけながらふてくされていた。
「もう…」
仕方が無いので、他の動物、アルパカやしろくま、コウモリなどをみて騒いだ。
Aがソフトクリームを買ってきてくれたので、ベンチで抹茶味を堪能していた時だ。
「まずい、ケーサツだ」
警察が数人、固まって喋っている様子が向こうから伺えた。
AとBの2人は腰を下ろしながら、ゆっくりその場から逃げるように移動した。
「もう色んな場所に警官がいるな」
「じゃあこの後の映画はキャンセル?」
「あぁ…そうだな。でもステーキ店には行こう」
行くはずだった映画はキャンセルし、ステーキ店でドーパミンをドバドバと出した。
「しばらくアジトに籠もろう。飯はテイクアウトで何とかなる」
「そうだね…でないと本当に危ない所まできているから」
2人はれからは静かに食事に集中したのであった。




