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序、✕月✕✕日
白雪姫は、毒を呑んだ。
序 七月×××日
意識が揺れる。
同じように、光も揺れている。
優しい温度と甘い匂いに導かれて、瞼をこじ開けた。
柔い緑と浅い空。少し眩い陽だまりの景色の中で、溶け込むように誰かがいる。
まるで水彩画で描いたような淡色の世界に、ともすれば吐息一つで掻き消えてしまいそうなほど、優しく、温かく。
輪郭が真っ白にぼやけているせいで、姿がよく見えない。
「 」
声がした。
「あ」
ほとんど反射的に右腕が伸びて、しかしなにも掴まずに空を切った。
背中の重心が後ろに傾く。そうなって初めて、自分がゆるやかに落下していることに気付く。
震える息を聴いた。
走り寄る速度を感じた。
誰かの声を、覚束ない意識が一瞬だけ捉えた。
「――の、――――」
ざぶん、とくぐもった音と共に背中から『何か』に沈む。
海、だろうか。布団にくるまれているような温かさが全身を満たす。
口から吐き出した泡がすうと水面へ昇っていき、光を反射して美しく煌めいた。
この海の中でずっとずっと眠ることを心から願っていた気がする。
どうしてだろう、そんなことを思った。