表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

不老不死の童貞恋愛事情

久しぶりに新しい話を書いてみました。

ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです。


『マッチしました』


画面にそう表示された。

その通知を確認して急いでスマートフォンを手に取りロックを解除する。


僕はマッチングアプリに登録してみた。

出会いを求めるために。

出会い求めるため等と言ってみたが実際は恋人が欲しいだけ。

更に言うと今の年齢まで恋人がいない事をコンプレックスとし焦っているだけである。

始めたばかりのマッチングアプリで初めてのマッチング、僕は胸を躍らせていた。


『初めまして、マッチングありがとうございます』


『僕は大学2年生で趣味は映画鑑賞です』


相手の名前はチアキと表示されていた。

最初の挨拶と自己紹介を入力し2回に分けて送信した。

この人はどんな人だろう、付き合ったらこんなことがしたいな、デートプランは、等と想像しながら返信を待っていた。

だが返信は一向に来ない。

待てど暮らせど来ない。

彼女は、チアキさんは忙しいのだろうか? 等と考えるが無情にもチアキさんのプロフィールにはオンラインの表示が緑色に光っている。


「はぁ、なんでだよ…… 」


ため息と悲しみの独り言が漏れる。

マッチングアプリを始める前までは自分に謎の自信を持っていた。

それが粉々に砕かれたのだ。

悲しくもなる。

キメ顔の自撮りプロフィール写真の僕が僕を見つめている。


「大丈夫、さっきのは運が悪かっただけだ」


そう自分言い聞かし手当たりにマッチを送った。

ただ足跡は付くがマッチングはしない。

何故だろうと原因を考えた結果、時間帯のせいだと落ち着いた。

今日は金曜日の昼過ぎ。

夜が勝負だと自分に言い聞かし仮眠をとることにした。




ふと目を覚ますと時計は21時を指していた。

眠い目をこすりながらスマートフォンを確認する。

寝る前にあれだけマッチを送ったのだ、数人はマッチングしているはずだと考えていたからだ。

ただ、悲しいかなマッチングは0。


「俺の価値って0なのか…… 」


無情にも突きつけられた0という数字は心を酷く落ち込ませた。

落ち込みながらもスマートフォンを確認していると、あることに気づく。


『新着メッセージがあります』


マッチングは0なのにメッセージ? と疑問に思ったが、新着メッセージの期待感が落ち込ませていた心に元気を与えた。

急いでメッセージを確認しにいく。

メッセージの差出人は最初にマッチしていたチアキさんからだった。

やはり自分の良さに気づいてもらえたんだ、と心は喜びの舞を踊っていた。

肝心のメッセージの内容を確認する。


『忘れられない夜を約束します』


『今夜24時、新宿区歌舞伎町、ホテルクラウン404号室』


ただ、それだけが画面上に表示されていた。


「なんだよ、スパムかよ…… 」


それが僕の感想だった。

普通そう思うだろう。

会う時はもっと計画を立てて話し合うはず。

ただ今まで恋人のいなかった僕は思考を沼にハマってしまう。


--もしかして僕が間違っているのか?


--スパムじゃなく本当だったら?


--これが最後のチャンスかもしれない


--チアキさん以外マッチングできてないし


--登録料も4000円するんだから会わないと


--忘れられない夜って……


そのような思考を繰り返していると自分の中でメッセージの場所に行ってみようという気持ちが強くなった。

気づいたら着替え終わっていて必要最低限のお金を財布に残し身分証などを机の上に置き家を出た。

もし美人局だったとしても所持金以外何も持ってなかったら大丈夫だろうという、せめてもの対策だった。




僕の住んでいるところから新宿駅まで電車で1本だが1時間ほど。

チアキさんと出会った時のことを妄想し電車に揺られているうちに新宿駅に着いてしまった。

電車内でチアキさんにメッセージを送ってみたがプロフィールはオフラインのまま音沙汰はなかった。

新宿に着いたのは23時。

既に約束の時間まで1時間を切っている。

急いで向かわなければ。

地図アプリを開き建物名を検索する。

検索結果は1件。

建物の詳細はラブホテルと表示されていた。

その表示は僕の足を早める理由に充分であった。


歌舞伎町は何度が来たことがあった。

だから大丈夫だろうと思っていたが、その予想は外れてしまった。

なぜなら前に来た時は昼頃。

昼と夜とでは歌舞伎町は顔を変える。

酔いつぶれているサラリーマン。

数人のグループにしつこく話しかけるキャッチ。

若い女性と明らかに不釣り合いな中年男性。

怒声までも聞こえる。

僕は怖くなり更に急いで目的にへと向かう。

何も知らない僕は欲望が渦巻く町を奥へと進む。


「ここで間違いない」


地図アプリを使用し一心不乱に歩きホテルクラウンの前に立っていた。

あとは404号室に向かうだけだ。


「あれ? そういえばラブホテルで待ち合わせってどうすればいいんだ? 」


純粋な疑問だった。

なぜなら僕は利用したことなんてないのだから。

初めてのことをする時は怖い。

その怖さに負けて踵を返そうとするがなんとか踏みとどまる。

振り絞った勇気でラブホテルに入り受付を探し話しかける。


「す、すみません、404号室で待ち合わせをしているのですが…… 」



「…… 、404号室だね、扉の前でも4回ノックするように聞いてるよ」


顔が見えないようになっていたが女性の声が帰ってきた。

404号室と言った時に妙な間があった。

だが、そんなことは気になりはしない。

なぜならチアキさんまで、あと少しなのだから。


「ありがとうございます」


そう受付の方に声をかけてエレベーターで4階に向かう。

エレベーターが降りてくるまでの時間ですらとても長く感じる。

それ程までに僕の期待は高まっていた。



そして404号室の前に僕は立っている。

ノックしようとしている手が震えてるのに気づき深呼吸をする。

1回、2回、3回、と繰り返し震えは止まった。



--コン、コン、コン、コン



「…… どうぞ」


透き通るような声で返事が返ってきた。

ドアノブに手をかけゆっくりと扉を開ける。

入口から部屋の奥が見えた。

椅子に誰か座っている。

その誰かとはチアキさんなのだろう。

だが、窓から入る月明かりなのか街灯なのか光によって影でしか見えない。


「チアキさんですか? 」


「はい、初めまして」


そのやり取りだけで僕はチアキさんに魅了された。

声なのか、立ち振る舞いなのか、それとも僕の妄想が過ぎたのか、理由は分からない。


「わざわざ来てくれてありがとう」


「い、いえ、会いたかったので」


「ふふっ、ありがとう」


優しく微笑んでいるのが伝わってくる。

まだ影しか見えないはずなのに。


「立ってるのもなんだから、こっちに座らない? 」


そう言われて言葉のまま僕はベッドの縁へ向かい腰を下ろした。


「早速だけど…… 」


チアキさんはそう言い僕に近づいてくる。

まだ顔は見えない。

だが、どんどんと僕はチアキさんに魅了されていく。

そんな中、僕の頭の中には忘れられない夜というワードが浮かんでいた。

チアキさんに会うまでは邪な気持ちになるワードだった。

ただチアキさんに会ってから、ただただ純粋にそのワードが思い浮かぶ。


「いただきます」


そうチアキさんが呟き僕の首筋に近づく。

不思議と何も感じない。

チアキさんが僕に近づいた時、顔がハッキリと見えた。

その顔だけが目に焼き付き離れなかった。



切れ長の目にカラーコンタクトかと思う深紅の虹彩。

すらっと通った鼻筋。

真っ白とも思える肌に吸い込まれるように真っ赤な唇。



そしてほかの歯に比べて明らかに発達した八重歯が。

まるで吸血鬼のように。



「とても綺麗だ…… 」


そう無意識に呟くと僕の目の前は真っ暗になった。







読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや感想などよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ