08 狙撃
「よくやった、トキマ!」
ファイリスが、膝をついているトキマさんをほめながら、治療している。
「いや、あいつの手。なんか出てるよ」
俺は首なし巨大女を指した。
「仇を、討てた……」
「よかった、よかった!」
「いや、あれ」
「うるさいぞ!」
ファイリスが振り返った。
「こっちは、喜びに震えてるんだ!」
「喜びよりほころびを気にしろ。あの手」
俺が言うとファイリスは見ずに言う。
「あれは残りかすのようなものだ。勝手に崩れて消える」
「動いてるって」
「動くくらいのことはあるが、首をはねれば死ぬ。無論、通常の魔人もしばらく動くのだから、装備持ちともなればもっと活動できるだろうが、複雑なことはもうできん。やろうとしていたことが、体に残っているだけだ。そのうち止まって、崩れる」
「でも、弓に矢をつがえてるけど」
巨大女はゆっくりと、こちらに向けて半身になり、矢じりの先を向けている。
「だから、そういう動きをしているだけだと言っ」
矢を放った。
トキマさんに向かって飛んだ光の矢。
言葉を発する間もなく、目で追うことしかできなかった。
吸い込まれるようにトキマさんの胸に矢が。
そこで、トキマさんの横から軽い爆発。
押されて、トキマさんは転がり、矢はトキマさんの肩をかすめた。
「トキマ!」
「……危なかったです」
トキマさんが笑いながら体を起こす。
「うっ」
傷が痛むのか顔をしかめた。
「次は」
「来ない」
ファイリスは言った。
巨大女は、弓を放った形のまま止まっていた。
「本当に動かないのか?」
「一回射ただけで、充分おどろきだ」
「とどめを」
と言うトキマさんは、にやにやしている。
「やっと、やっと、仇を討てました……」
拳を握って、両手足をぐんっ! と突き出す。
「パパ、ママ……。倒したよ……」
「トキマ」
「倒した。倒した、倒した! 倒せるんだ、役職付きだって……!」
やった! やった! やった! と両手両足を交互に、ぐん! ぐん! と突き出しながら、巨大女に向かって歩いていく。
「格好悪いぞ」
「失礼ね!」
二人ともニコニコと、楽しく話している。
「始末したら、国に帰って報告したほうがいいかしら」
「それはそうだろう」
「わたし、そうしたら、帰ってこないかもしれませんよ?」
「それはトキマの自由だ」
「ファイリスは、わたしがいないと困るでしょう?」
「お前、ほどほどにしておけよ」
「ふふふ。隊長に言ってあげないと。人間に、装備持ちは倒せないって、なんだったのかしら? って」
そんな話をしている間も、ちらちらと、二人は立ったまま動かない巨大女を見ていた。
二度同じ被害は受けないということだ。
動かない。
「さて」
トキマさんが剣を抜いた。
「ちゃんと切っておきましょうか」
動かない相手なら、トキマさんならどうとでもなるだろう。。
俺も二人も、もう、終わった気分だった。
そのとき。
「危ない!」
鋭く鳴いたのは鳥男だった。
でも、二人には、ただの鳴き声にしか聞こえなかったか、意味がわからなかったか、トキマさんは動けなかった。
背後から、光る矢がトキマさんの腹部を貫いた。