05 かわいそう?
「魔法陣を描いたローブの男たちによって、おかしな場所に移動させられ、そこには魔人がいた」
「そうだ! 離せ!」
話をしている間も、ローブ女は全然離してくれない。
「ローブの色はどうだ」
「なに!?」
「トキマの着ているローブは青いだろう。そいつらは、黒じゃなかったか?」
ローブを見る。
「そんなの、覚えてねえよ!」
「本当か?」
「黒だった! でも、そんなの、光の加減でも変わるだろうが!」
「でも?」
「明るかったけど黒かったよ!」
「なるほど。トキマ、離してやれ」
「はい」
やっと力が抜けた。
急いで転がりながら離れて立ち上がる。
「あー痛え! くそ」
関係ないかもしれないけど一発ぶん殴ってやりたい。
「そんなに痛くはなかったでしょう?」
「まあな!」
考えてみればな!
意外とな!
肩に鳥が乗った。
「素直なんだかひねくれてるのか、よくわからないやつだな」
と鳴く。
「うるせえな」
俺が言うと、ローブ女が意外そうにする。
「そいつは鳥と仲がいいんだ」
「あら、いいですねえ」
トキマ? が言う。
「それで? なにするんだ? 殴り合いか? どっちでもいいぞ」
「無駄だ」
たしかに、トキマは俺より小柄だったが、わけのわからない技に吸い込まれるように倒され、拘束されてしまった。
もっとでかい女のほうは、もっとわけのわからない技を使ってくるかもしれない。
「じゃあなんだ!」
「これから、お前を町へ連れていき、保護する」
「捕まるってことか!」
「いいえ」
トキマがゆっくり首を振る。
「食事やベッドを用意して、安心して暮らせるように、あなたの話を聞いて、現状を確認するの」
「ふうん」
いいやつか?
いや、いいやつはいきなり押さえ込んだりしないな。
「お前が言うローブ野郎というのは、こちらでも調べているやつらかもしれない。魔人を鎮めるため、人を生贄にする団体だ」
「それだ!」
「こちらでも調べているが」
「ぶっ飛ばしてやる!」
俺が走り出すと、またトキマに押さえ込まれた。
「まあまあ、まちなさいよ」
「離せ!」
どこがどうなってるのか、びくともしない。
「このまま捕まったらまた、魔法陣でどこかに飛ばされるだけよ?」
「……」
俺が黙ると、手を離してくれた。
「あなた、名前は?」
トキマが笑顔で言う。
「名前?」
「あなたの名前」
「そんなものはない」
「ない?」
トキマは目を大きく開いた。
「名前がないの?」
「そう言ってるだろ」
「……いままで、どうしてたの?」
「名前なんてなくても、どうにでもなるだろ」
「そう……」
俺はふと思った。
「……じゃあ、ファイリスとか、トキマっていうのは、名前か?」
「そうよ」
「スタシアとか、すーちゃんっていうのも名前か?」
「そうだ」
鳥は鳴いた。
「店長とか、そういうやつじゃなくて、いちいち、名前がついてるのか?」
「そうだ」
「じゃあ、王都とか、魔人班とかそういうのも名前か?」
「それはちがう」
「ふざけんなよ!」
意味わかんねえ!
「いちいち名前なんてつけなくてもいいだろ?」
「それじゃあ、誰が誰だかわかんなくなるだろうよ」
鳥が鳴いた。
「もしかしてお前にも名前があるのか」
「もうやめて!」
ファイリス? が大きな声を出した。
「なんだ?」
「君は絶対にこちらで保護する。安心しろ! もう、つらい思いはさせないからな!」
ファイリスが、俺の両肩をしっかりつかんだ。
涙ぐんでいるようにも見える。なんだ?
「は? はあ」
「興奮しないでね」
トキマがファイリスを引きはがず。
「じゃあ、どこから来たの?」
「またその話か。名前のない村だ。そこから出たことはない」
「うっ」
ファイリスが口をおさえて顔をそむける。
「なんだ?」
「わかりました。あとで、村の様子なんかも教えてもらいます。そこでどういうふうに生活していたかも」
「そんなことを思い出させるな!」
ファイリスが怒鳴る。
「それでも人間か! 私は、目上の人間にタメ口ということなど気にして、彼のことを真剣にかんがえてあげられなかった……。うっ……」
「思い出したらローブ野郎を殴れるならいくらでも思い出すぞ」
「うっ。強い子に育って……」
またファイリスが口をおさえる。
こいつはなにを言っているんだ。
「それより、ローブ野郎は追わないのか。この先にある湖の近くに図形みたいなのを書いて、そこから俺をどこかへやったんだ。俺がもどってからすぐ追いかけて……」
「魔法陣?」
トキマが言う。
「なんか、そういうやつかもしれない」
「どこ? 案内して」
「それよりローブ野郎を」
「そいつらは、おそらく森の中をバラバラに逃げている」
ファイリスは言った。
「全員が一度に捕まらないような動きをよくするんだ。だからやつらを追うより、残された問題を解決したい」
「どういう問題だ」
「それがあると、魔界とつながり続けるかもしれない」
「つまり?」
「かんたんにいえば、魔人がそのあたりに出てくるかもしれない」
「出てたぞ」
「なに!?」
ファイリスが俺の肩をつかむ。
力が強くて痛いんだよな。
「すぐ案内してくれ!」