04 二人組
「何者だ」
木の間から出てきたのは、女だった。
真っ赤な髪の毛がふわふわ広がっていて、半月の目がにらむようにこっちを見ている。
銀色の鎧。胴回りだけの鎧だ。
背は高く、男と見間違えるくらいの、筋肉というか、姿勢の良さというか。そういうのを感じるが、女性とわかったのは、体の起伏だ。
胸が大きく尻もでかい。
俺よりは年上だろう。
鳥が、ごくり、と喉を鳴らしたような気がした。
「お前が誰だよ。ローブ男か?」
俺は言った。
「おい」
鳥が鳴く。
「どこかの兵士だ。それも、ただの町の兵士じゃない。それなりの身分があるぞ」
「お前どこの兵士だ」
俺が言うと、鳥が、だからあー、と鳴いた。
「変なこと言ったらローブ野郎を殴れなくなるんだよ!」
「なんでだよ」
「他に誰がいるのか」
女が言う。
「他にはいない」
「嘘を言うな。誰と話していた」
「この鳥と」
「そのペットがどうした」
「鳥と話してたって言ってるだろ」
「はじめましてー!」
鳥が鳴いた。
「いろいろありまして! おれが、元通り、人間にもどるためのお手伝いをしてもらえませんか!」
鳥の鳴き声に、女は無言だった。
「……」
「……」
「なにか返事したらどうですか」
「……鳥と話をすることを否定しないが、付き合うつもりもない」
「はあ?」
「つまり、他には誰もいないということか? こんなところでなにをしてる」
女は言った。
なんだ?
性格悪いのか?
鳥が言葉を話して、人間にもどりたいって言ってるんだぞ?
あなたは最初から、言葉を使える鳥なんですよ、くらいの話をしてあげたらどうだ?
「……もしかして、言葉が通じないのか……?」
鳥は鳴いた。
「だから、おれをちゃんと相手してくれないのか……?」
「通じてるだろ」
「お前には。でも、この女性には通じていない気がする……。そう考えれば納得できる」
「なんで俺とお前だけが通じ合ってんだよ」
そんな俺たちを疑うように見る女。
「他にはいないみたいですよ」
横から、また誰かが出てきた。
ローブ姿。
俺は、そいつに向かって走り出して、隠れた顔に向かって右拳を突き出す。
「うおっ」
視界がぐるりと回り、背中に衝撃。
気づくと空を見ていた。
ローブをめくった顔が俺を見下ろす。
顔のきれいな女だった。
こっちもたぶん年上だ。
「なんですか、この子」
おっとりとした声でローブ女が言った。
「いや、よくわからんが……。鳥が好きな少年だ」
「鳥好きさん?」
ローブ女がにっこり笑う。
「おい離せ! このローブ野郎が! ぶん殴ってやる!」
「あらあら。わたし、男の子にはあんまり嫌われないんだけど」
立ち上がろうとしたら、腕をつかまれひねられ、どうなっているのか振りほどけない。立ち上がれない。
「トキマに会ったことがあるのか」
背の高い女が言った。
「さっきだ! 俺を殺そうとしやがったやつらのひとりだ!」
「やつら?」
「俺を魔界に落として、魔人の生贄にしようとしたやつらの仲間だろうが!」
そう言うと、顔色が変わった。
「詳しく話してもらおう」
背の高い女は言った。
「私は王都の魔人班に所属するファイリスだ。なにがあった?」