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33 どうせ負けなら

 剣の魔人は、ローブ野郎を見た。


「勇者への耐性があるようです」

 ローブ野郎は言った。


 剣の魔人は俺を見る。

 また別の剣が現れた。弓のやつみたいな技だろうか。

 今度は投げつけてきたが、俺に当たるとそれは折れて落ちて消えた。

 効かねーよ!


「しゃべれないのか? そいつ。いてっ!」


 なにか顔に当たった。

 落ちていたのは石ころのようなものだ。


「ってえな。お前が投げたのか」

 ローブ野郎め。

 また殴り飛ばす理由が増えたな。


「どうやら、耐性があるのは勇者の持ち物だけのようだな」

 ローブ野郎は刃物を出した。


「あっ」

 あっ。

 それ、だめなんじゃ……?


「終わりだ」

「終わりだ」

 俺も言ってみた。

 終わりだ!


「おいちょっと待てひきょうだぞ!」

 見抜きやがって!


「お前が我々の考えを理解しないことはわかった」

「待て! 話せばわかる!」

「死んでもらう」

「お前、話しても俺に理解させるだけで、殺す気満々だったじゃないかよ!」

「そうだが」

「だからって殺すのか? 本当にそれでいいのか? いいのか!?」

「そうだが?」

「くそ!」

 なにか解決案が出るかと思って話してみたがなにも思いつかなかった!


「ごごごご!」

 しゃべる魔人が、またなにか言っている。


 あいつじゃなくて、ファイリスだったら。

 ……いや?

 ちょっと待てよ。

 人間が魔人のようになって、魔人が人間のようになった。

 俺がローブ野郎と会った時点で気を失っていたということは、近くにファイリスもいた。


「……まさかお前、ファイリスか?」

「ごご!」

 御名答!


「そうなのか!? ……お前ら、だましたな、人間が魔人の認識とか言ってたけど、ただ魔人に変えただけじゃねえか! お前が魔人にされたから、俺たちも魔人にしたかっただけだろうが!」

「なにを言うかと思えば」

「だってそうだろ!」


 俺はファイリス? を指した。

「魔人を人間に、人間を魔人に……。認識の問題とか言ってるけど、ファイリスは言葉を話してた。だけどもう話せなくなっている。ってことは、ファイリスを魔人に変えたってだけじゃねえか!」

「その女は元々魔人だった。人間に見えるほとんどは魔人だったと、そう言っただろう」

「じゃあなんて言葉がわからないんだよ!」

「そういうこともあるだろう」

「いいかげんなこと言いやがって……!」


 そんなことあるか!

「だったら、本当は理解できるのに、理解できないと思いこんでるから、ファイリスの言葉が聞こえなくなった、とでも言うのかよ!」

「そうだ。物わかりがいいな」

「なんだと!? そんなことがあるとしたら、鳥の言葉がわかったり、わからなかったりすることもあるっていうのかよ!」


 鳥の言葉がわかったり、わからなかったり……。

 そういうこともあった……。

 あったな。

 それに、ファイリス? はいま、俺の言っていることを理解できているようなようにも見えなくもない。


 でもあれがファイリスなのか、別の、魔人にされかけてる人間、っていうだけなのかもわからないし。


「ということは、やっぱりうぐっ」


 急に右脇腹を押された。

 気づけばローブ野郎がすぐ横にいる。

 俺が考えごとをしているのをいいことに、突っ込んできた。

 突っ込んできた?


 ローブ野郎が離れていく。

 右脇腹に、なにか生えていた。

 いや刺さっていた。ナイフだ。


「てめ……」


 刺されたと思ったとたん、は、まだ平気だったけど、言葉を発したとたん痛みが走った。

 痛みに体をよじったらさらに痛い。ちょっと動くだけで鋭い痛みがくり返される。

 刺さっているというか、体の一部が変質してしまったようだというか。

 まあ魔人になってるからかなり変わってるんですけども。

 言ってる場合か。


「ふざ、けんな……」

 ひゅっ、と力が抜けてひざが抜けそうになる。

 

 ナイフの柄をさわる。

 抜いたほうがいいのか?


「ごごご!」

 魔人ファイリスが首を振る。


「抜かないほうがいいのか?」

「ごご!」

 ファイリスがうなずく。


「血が出るから?」

「ごご!」

「なるほどな」


 会話できるな。


「長くは保つまい」

 ローブ野郎が言う。

「クソ、俺が死んでもいいのかよ……」

「即死するような傷でもない。では勇者様、これから拘束しますので、力を……」

「ふざけんなよ!」

 俺はナイフを抜いた。


 いてえ!

 というより力が抜ける。

 ひざをついた。


「ごご!」

「なにをしている。死にたいのか」

 とローブ野郎。


「おお、そうだよ」

 俺はナイフを両手で持った。

 先は俺を向いている。


「さすがに俺が死んだらまずいんだろ? だったらよ、お前ら、くっそムカつくからよー! 絶対に役に立たせないようによー! 即死してやるぜー!」

 俺は首にナイフを突き立てた。


「ごぼぼぼぼぼ!」

 俺の最後の言葉は、吹き出した血で自分でもなにを言っているかわからなくなった。

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