30 留守番
「鳥! 生きてたのか!」
あの鳥だ。
なんだかんだでいろいろあった、あの鳥じゃないか!
「おれだ!」
「そうか! 鳥だな!」
「お前……。おれのこと、ちゃんと覚えてるか?」
鳥が言った。
「……もちろん!」
「ならいいがよ」
鳥は素直な性格だった。
「それより、どうしてここへ?」
「お前らが、あやしいやつらに運ばれてくのを見たからよ、いちおう追ってきたんだよ」
鳥は言う。
「城から、網にくるまれた状態で台車で運ばれてんのを見てよ。追ってきてやったんだぜ。これでもよ、王都で飯もらってるから、これくらいのことはしてやらねえとと思ってな」
「助かる。じゃあ、縄とか持ってきてくれよ」
鳥は自分のとまっている場所と、俺たちがいるところを見比べた。
「人間が、ここまでのぼってくるためには、縄をどこかに縛らなきゃならねえよな?」
鳥は言った。
「そうだな」
「誰が縛るんだ?」
「……」
「……」
「おい、さっきから鳥と話をするのはいいが、そんなことをしてる時間はないぞ」
ファイリスが、待ちきれない様子だった。
「ファイリス、あの鳥が縄を持ってきてくれるみたいだけど、鳥だから、縛れないらしいんだ。どうしたらいいだろう」
「夢の話は夢でやってくれ」
「持ってきてくれるって言ってるだろ? 頼もうぜ」
「……そうだな……」
ファイリスはすこし考えて口を開いた。
「もし、持ってこられるというのなら、縄をどこかに引っかければいいだろう。縄の両端を持って、半円になっている部分を投げて引っかけて、よじ登ることもある」
どこか投げやりに言うファイリス。
「なるほどな!」
縛らなくてもいける!
「いけるぞ、鳥!」
「長い縄を運んでくるのか……? 鳥だぞ……?」
鳥は言った。
「くちばしではさんで、空を飛んでくるんだぞ……?」
「たしかに、な……?」
縄を運ぶのも、なかなか難しいだろう。縄を何重にも束ねたものをくわえて、空を飛ぶ。難しそうだ。
そもそも縄を用意してもらうのも難しい。俺が話をすればいいだろうが、他の人には……。
「他の人に話は通じるのか」
「無理そうだな。エサはもらえる」
俺と鳥は考え込んだ。
「おい、なにをしている。鳥さんとのお話が終わったのなら別の方法を考えるぞ」
ファイリスがいらついた感じで言う。
「終わってないぞ。鳥に、脱出するためのものを持ってきてもらうんだから」
「鳥に、できないだろうが!」
ファイリスの声が大きくなっていく。
「おい鳥、ちょっと、右、左、左、左、右、って動いてみてくれ!」
「なに?」
「ファイリスに、話が通じるところを見せる」
「いいだろう」
鳥は、左、右、右、右、左、と動いた。
「あ、ちがう! 俺から見て!」
「そうか! しまった!」
「もう一回!」
「なんだっけ? 左、左、右右右?」
「全然ちがう! もう一回!」
「おい待て」
ファイリスが言う。
「ちょっと待っててくれ、いま教えるから、すぐに」
「そうか、あのときの、言うことを聞く鳥か」
ファイリスは、はっとしたように言った。
「言葉を完全に理解していたのか」
「ファイリスも利用してなかったか?」
「手紙を届けさせてみただけだ。失敗しても問題ない文面だった。なんとか頼めないだろうか」
「そう言われてもよう。鳥には、限界があるんだよなあ」
「……そうだ」
俺は改めて見上げた。
「ファイリス、ひとりならあそこまで行けるんじゃないのか?」
「なに?」
「ファイリスが行って、縄でもなんでも持ってきてくれよ」
「お前がいなくては困るだろうが!」
「よく考えてみたけどさ。ローブ野郎が、俺を魔人のところへ連れていくなら、それはそれで問題ないだろ?」
俺は魔人に強いんだし。
「まずいのは、ファイリスが一緒に魔人のところへ行って、殺されるときだよな?」
「お前がここで殺されたらどうする!」
「ローブ野郎が俺を殺すと思うか?」
「わからないだろう!」
「おい鳥! お前、ここまでの道順とかわかってるんだよな?」
「もちろん!」
「ファイリス、そいつに道順を教わって、早く助けにもどってきてくれ」
「……時間がない」
ファイリスは壁をけって、屋上への出口にとりついた。
「かならずもどってくる! それまで持ちこたえろよ!」
「わかった!」
なんだか不安になる言い方だったが、俺は元気にこたえた。




