03 名前?
「おれは、すーちゃんになったんだー!」
鳥は鳴くと、バタバタと不格好な羽ばたき方で俺の頭の上をぐるぐる飛ぶと、もどってきて肩に止まった。
「なあ?」
「人の言葉を使える鳥だったのか」
鳥男が気に入っていたのは、そういうところか。
「鳥じゃねえ、すーちゃんだ!」
鳥が突っついてくるので、俺は振り払った。
鳥は地面に着地する。
「おれはすーちゃんになったんだー!」
鳥はまた鳴いた。
言葉が話せるなら、協力してもらえるだろうか。
「お前も運が良かったな! 死なずにすんだじゃないか!」
「はあ」
「あの化け物、おれたちを食って満足したんだな」
鳥が鳴く。
「あれを倒したのは俺だぞ」
「ん? どうやって」
「食べた」
「……ふうん」
鳥に、ふうん、って軽く言われるとなんだかムカつく。
「まあいいや、鳥」
「すーちゃんだろーが!」
「……すーちゃん。ローブ野郎を知らないか」
「ローブ野郎?」
「ローブを着た集団で、人を生贄にして喜んでるクズ野郎どもだ! とりあえず一発ぶん殴ってやる!」
思い出したらムカムカしてきたので、俺は走り出した。
鳥が勝手に肩に乗る。
「盗賊のやつらにも、手を出すなって言われた集団ならいる。あいつらは頭がいかれてるってよ」
「頭がおかしいのは知ってる。ぶん殴る」
「いや、だから、手を出すなよ……」
「お前の飼い主だって、誰かの仇討ちしただろ」
「おれは、恋人が殺されたんだからいいんだよ」
「俺だって、俺が殺されかけたんだからいいんだよ! ああ! なんで走るとつかれるんだ!」
俺はいったん歩きにもどした。
「おれが見てきてやろうか」
そう鳴くと、鳥は舞い上がった。
高いところまで飛んでいく。
飛べるのはいいな。
魔人を食えるのとどっちが便利だろうか。
「なんでおれはすーちゃんになったんだあー!????」
急に大きな声で鳴くと、肩にもどってきた。
「なあ、なんでだ!?」
「しゃべれて、自分のことを飼い主だと思いこんでる鳥、ってめんどくさいからやめてくれよ」
「おれは鳥になった人間だ!」
「どこの世界に鳥になる人間がいるんだ」
「魔人と、鳥になる人間だったらどっちがふつうだよ!」
面倒くささとどうでもよさが押し寄せてくる。
「それよりローブ野郎は見えたか」
「いない。おれはこのへん、詳しくないが、お前は詳しいのか」
鳥が鳴く。
「俺は村から出たことないから」
「村の名前は」
「村に名前なんて必要なのか?」
「ああ? そりゃそうだろう。どこの村か、区別できなくなる」
「村ってたくさんあるのか?」
俺が言うと、鳥はちょっと黙った。
「そんな状態でよく、わからない土地を走り回れるな」
「ぶん殴るためだからしょうがないだろう」
「どこの国だか知ってるのか」
「国?
「アルカンダの、山側の土地だ」
「アルカンダ?」
「……」
「……?」
鳥は横を見た。
「……町に行くか」
「町?」
「おれは、鳥からもどる方法を、お前は、いま自分がどうなってるのか、知りたいだろ」
「俺はローブ野郎をぶん殴りたいんだよ!」
「ぶん殴るためには知らなきゃいけないことがあるだろ、って言ってるんだよ!」
鳥がぎゃあぎゃあうるさい。
「じゃあ、町に行ってやるよ。どっちだ?」
「お前なあ……」
鳥が、羽を動かす。人が腰に手をあてるような動きだった。
それから、はっとしたように首を動かした。
「……誰か来る」