28 網
前からやってくる剣の魔人(仮)は立ち止まった。
「どうするんだ? こっちから行くか?」
「いや、剣の出方を見たほうがいいだろう」
そうファイリスが言ってからしばらく経った。
うしろに控えている見張り軍団たちも、なんとなくどうしたらいいのかわからないような様子だ。
「まだ様子を見るのか?」
俺はファイリスを見る。
「そうだな……。いままでの魔人はどうだった?」
「ガンガン来たぞ」
「最後の魔人はちがうのかもしれないな。自分が最後だと知っているのかもしれない」
「弓はまだ生きてるぞ」
「それ、隊長にも言ってたが、本当なのか?」
「本当なのかってさ。その質問意味あるか? 俺は嘘なんて言ってないんだけど」
こっちは、ファイリスと手錠でつながれている。だからなにもされないほうがいいといえばいい。
だがなんだろう。
「なあファイリス。相手が来ないなら、その間に手錠外したらどうだ」
「そんな行動は許さないだろう」
とは言うものの、足を止めた魔人(仮)はそのまま動かない。
「すげえ許しそうじゃないか? もう、こっちから行くか? あいつを食えばいいんだろ?」
「そうだが……。しかし……」
「やろうぜ。他に方法はないんだろ。なあ。他の魔人はいないのか」
俺はまわりを見た。
「なんか、どうってことない魔人。あいつら、一緒に出てきたりするんじゃなかったっけ? いないよな?」
「……」
「あれが城に入ったらまずいんだろ?」
「よくはないが、ここは王都だ。いくらでも精鋭がいる」
「魔人に慣れてんのか?」
「ザコ魔人ならどうにでもできる人間がそろっている。……杖の魔人のところにザコ魔人はいなかった気がするが」
俺も思い返してみる。
「そうだな。鎧のところいはいたぞ。ぞろぞろ」
「弓はどうだ」
「さあ。いなかった気がする」
「魔人によるのか」
「で、どうすんだよ」
「やるか」
ファイリスは言った。
「ザコ魔人が出てきてから困るのでは遅い。いや、ザコ魔人を大勢出す準備をしている可能性すらあるな」
「だよな! やろうぜ!」
よくわからないが俺は言った。
どうせやるんだ。
やらなきゃ終われない。
だろ?
「さっさと終わらせようぜ!」
俺はファイリスと一緒に走り出す。
そのときだ。
「止まれ!」
「うおっ」
上からなにかとんできた。
手で頭を軽く防ぐくらいしかできなかった。ばさっ、と広く俺たちに覆いかぶさってきたのは、網だ。
黒い細い縄で作られていて、ずっしり重みがある。
「なんだこれ」
「切れないな」
ファイリスの剣が、じゃり、じゃり、と網でこすれて音を立てている。
「防刃なら出たほうが早い!」
見張りが言った。
「そりゃそうだな」
と網をめくっていくように動いて端を探す。
「いっつ」
指先に鋭い痛みがあった。
「どうした」
「なんか」
左手の人さし指の先で、血の玉がふくらんでいた。
傾けると指の横を伝って落ちる。
石畳に一滴、血が広がった。
「ささくれでもあったか?」
「ああ?」
頭がふらついた。
と思ったら石畳に横たわっている。
「どうした!」
「なんか、頭が……」
ぐらぐらして、耐えられない。
立ち上がろうとしても力が入らない。
「……頭が?」
ファイリスが俺に近づいて、ならんで横になった。
「一緒に、横になって、どうすんだよ……」
「毒だな……。私も、やられた……」
「おい……」
「よし、回収しろ!」
誰かの声がする。
顔を上げようも動かない。
「なんだ……?」
「やつは、魔人ではないかもしれない……。お前を、捕まえに来たんだ……」
「なに……?」
「城のまわりに、現れた白い壁は、ただの、めくらましだろう……」
ファイリスが体を起こそうとするが、ゆっくりした、力の入らない動作だ。
「お前流に言うなら、ローブ野郎、あるいは、その仲間か……。誘いに、乗ってしまったか……」
「どうするんだよ……」
「知らん……」
ファイリスが目を閉じるより早く、俺は目を閉じていた。




