26 白い
俺はまわりを見た。
オレンジジュースの水面が揺れている。
「頑丈そうに見えるけど揺れるんだな。地震か?」
「地震はこんな揺れかたはしない。すぐ終わるにしても、もっと長く揺れる」
上司男がぐるりと部屋を見た。
「地下を見てくる。ファイリスは彼を警護してくれ。もしもに備えて人員を補充する」
「はい」
ファイリスは立ち上がった。
「魔力ってさあ」
俺が言うと、出ていこうとした上司男が立ち止まった。
「なんだ?」
「貯めてたとか、そういうことじゃないのか?」
「わからないが、そうそう貯められる量ではないだろう」
「じゃあ……、弓なんじゃないのか」
「弓?」
「お前らの言う、弓の魔人だよ。あいつが生きてるから、ローブ野郎に協力したとしたら、いけるんじゃないのか? 装備がある魔人の魔力はすごいんだろ?」
「弓の魔人は死んだが?」
「俺言ったよな。死んでないって。あんた、ちゃんと聞いてなかった感じだけど」
上司男はこっちに向き直った。
「弓は確実に始末した」
「あのあと、俺が変な部屋に閉じ込められただろ? そこで出たんだよ。小さくなった弓が」
「小さくなった……?」
「手に乗りそうな大きさのな。そのあとローブ野郎が部屋に来た。そのときはなんにも気にしなかったけど、よく考えると、関係があったのかもしれないよな」
上司男はじっと俺を見た。
「確実に始末をした!」
「じゃあ俺が見たのは夢かなにかか?」
「そうなんだろう」
「あっそ」
また、どん、と一回、床が揺れた。
「隊長、本当に弓が関わっているのなら……」
「弓は死んだ! あとは剣だけだ!」
そう言って、上司男は部屋を出ていった。
「……本当に、弓は生きてるのか?」
ファイリスが言った。
「そう言ってるだろ」
「しかしあの状況でどうやって……」
また揺れた。
今度は大きい。それも、急に椅子が低くなったみたいな、ひゅっ、と底が抜けるような特徴的な感覚だった。
「ファイリス」
「なんだ」
「なんで揺れてるんだ?」
「それを隊長が調べているところだ」
「揺れるってことは、地面が揺れてるんだよな。よくあるのか?」
「ないな」
「たまには?」
「一度も感じたことがない」
「なら、相当おかしいだろ」
そのとき、窓の外になにか見えた。
いや見えなかった。
思わず俺は椅子を立っていた。
「どうした」
「ファイリス、外、晴れてたよな」
「そうだが?」
ファイリスがうたがうように俺を見る。
「あれは、晴れっていうのか?」
外を指した。
窓の外は明るい。
でもおかしい。
白い。
ファイリスは走って窓のところへ。
「どうなってるんだ!」
俺も行った。
窓の外は、建物の庭が見える。こちらは裏手なのか、それでもきれいに整った芝生が見えるだけだが。
当然、芝生の外側には、俺の身長の倍くらいあるような高い柵がある。
その先には王都、と呼ばれるくらいの、それはそれは広い都が。
ない。
その先は、ただただ白い空間になっていた。
ただただ白い。だからどこまであるのかわからない。
上も白い。天井、というものがあるのかどうかもわからない。区切りはない。
城ごと、白い空間に移ってしまったかのように見える。
「これは……」
ファイリスが窓枠をつかんだ。
「城ごとか?」
俺が言うと、ファイリスはこっちを見た。
「城ごと、剣の空間に移ったのか? 俺たちは」




