24 地下
「いるか!」
ドアが開いた。上司男だ。
俺はテーブルにいた。
しぼりたてのオレンジジュースが入ったコップを右手に持ち、左手には切り分けられたオレンジを刺したフォークを持っていた。
ファイリスは肉料理を食べていた。片手で切って、器用なものだった。
「はっ!」
ファイリスが立ち上がって、頭に手をそえた。
「魔人への通路を開ける負傷者が意識を取りもどした! 至急来てくれ!」
「はっ!」
ファイリスは食器を置いた。
俺はオレンジを食べる。
「行くぞ!」
ファイリスが俺を引き上げるように立たせた。
「くつろいでていいんじゃなかったのか」
まだ、部屋に案内されてから、それほど経ってない。
「聞いてなかったのか? お前の言う、ローブ野郎が目覚めたんだよ!」
「もっと時間がかかる感じだっただろ」
「予定が変わることだってあるんだよ!」
「お前たち、ちゃんとした集団なんだろ? だったら、予定が変わることをあらかじめ言っておいてもらわないと」
俺が言うと、近くにいた見張りの兵士が、ぷっ、と吹き出した。
「ほら、バカにされてるぞ、ファイリス」
「お前だ!」
俺は引きずられるように城の通路を走った。
俺たちが走っているのを、なんだろうという目で道をあける人と何度も出会った。ひらひらとした服を着ている人はすぐにどいて、鎧などを着ている人はゆっくり動いた。
ひとり、たくさん人を従えている人がいて、その人のときだけ、すまなそうに上司男が頭をさげて横に動き、ファイリスもそれにならった。
「なんか偉そうなやつだったな」
「えらいんだよ!」
全部階段は下りた。
急に人通りがなくなると、通路の壁もしっかりとして、いや。窓がない。
だからしっかりして見えたのかもしれない。
そのあたりですこし雰囲気が変わった。
立っている兵隊の顔つきがさっきまでより鋭い。ちらりとしか見られなかったが、持っている武器を俺にすこし向けていた。いまにも襲って来そうな雰囲気があったのだ。
明らかに上の部屋の見張りとはちがう。
ここまでの道は、左右についていたドアばかりだったが、今回は通路の突き当りにドアがあった。
「入るぞ」
上司男が返事を待たずにノブを回す。
ぱっ、と中にいた人たちがこっちを向いた。
部屋の中には天井、四つの場所から白い光が照らしていた。そのため明るい。魔法だろうか。
さっき俺が連れていかれたくらいの広さがある。
中央にベッドがあって、その近くには合計10人くらいいる。白ローブ、ではなく白衣を着た人たちだ。
それを囲むように、棚や、机が置かれていた。
机には書類、石、刃物、薬ビンなど、いろいろなものがならんでいる。
ベッドで体を起こしているのは、たぶん、ローブ野郎だろう。ローブなしローブ野郎とは、なかなか複雑なことをしてくる。
「目が覚めたそうだな」
「はい」
白衣の人たちが分かれて、道をあけた。
ローブなしローブ野郎がこっちを見る。
片手をすこしあげて、天井に向けた人さし指を動かしている。
「なにをしている」
「先ほどから、空中に文字を書くような動きをとっています」
「なにをしている」
上司男はローブなし野郎を見た。
「そいつが魔法陣みたいなものを書くと、そこから別の場所に連れていかれますよ」
俺が言うと、ちらっと白衣軍団が俺を見た。
「供物が来た……。今度こそ、杖の魔人様に……」
ローブなし野郎がぶつぶつ言う。
「杖は死んだ」
上司男が言うと、ローブなし野郎は動きを止めた。
「なんだと……?」
「杖の魔人は死んだ。鎧も、弓も死んだ。あとは剣だけだ」
「バカなことを。ありえない」
「ならばどうして、お前がここにいられる。お前は杖の魔力で死にかけただろう」
「魔人様が、わたしを生きて帰してくれたのだ!」
「ならこの者たちがここにいる?」
上司男は俺たちを見た。
「彼らも助けてくれたのか? 魔人に抵抗する人間を?」
「それは……」
「杖の魔人は死んだ」
「そんなバカな!」
ローブなし野郎は、ベッドを拳でたたいた。
「ありえない! ありえないありえないありえない! ありえない!」
「静かにしろ」
「ありえないありえないありえない!」
「静かにしろ!」
「どうしてわたしを生かしている?」
急に、ローブなし野郎が静かな声で言った。
「貴様らは、わたしを処刑したいだろう。愚かな思想を持った貴様らは、我々の理想を理解できず、叩き潰し、ふみにじりたいはずだ。仲間たちは大勢そうなった。なぜそうしない」
「人には生きる権利がある」
「ありえない。貴様らは、利益のことしか考えない。世界のありようなど、ちらりとも、考えたことがないだろう……。そうか」
ローブなし野郎はうなずいた。
「わたしに、剣の魔人様のところまで案内させようというのだな。そこで愚かにも、魔人様を滅ぼそうというのだ。なるほど。だが、それは無理だ。お前たちなどが剣の魔人様に抵抗できるはずもない。そして、わたしはもう、お前を魔人様のところへは連れていかない」
ローブなし野郎は俺を見た。
「供物は別に探す。お前はもういい」
ローブなし野郎は言った。
「では、お前の言う魔人様が、この供物に屈するというのか?」
上司男は言った。
「魔人様に近づける気はない」
ローブなし野郎は言った。
それから上司男は、いくつか、ローブなし野郎を刺激するようなことをくりかえし話しかけていた。
そのどれもローブなし野郎は無視していた。
ぼうっと、部屋の壁を見ていた。




