22 連行
「どこに連れていかれるんだ」
満足したのかと思ったら、俺は外に連れ出されて馬車に乗せられた。
知らない馬車だ。
俺が知っている馬車は、馬が荷台を引いているやつだ。
でもこれは全面が覆われて、窓までついている。椅子もしっかり柔らかいものが張ってあるし、部屋の中のようにテーブルや、飾りもついている。要するに、乗り心地、みたいなものが感じられる。
俺はこれから、俺が安心して暮らせる場所に連れていってくれるそうだ。
よくわからないが上司男は、なにか納得してくれて、俺はもう自由になれるそうだ。
信用してくれるんだかくれないんだか、話を聞いてくれるんだかくれないんだか。
「で? 俺がこれから住むのはどこなんだよ」
となりにはファイリスが座っている。
正面には上司男と別の男だ。
「王都です」
上司男は言った。
「おーと?」
「この国を治める王の住む都です」
「は? 俺が変なことを言って、人を集めたりするのが嫌だって言ってなかったか? 人がたくさんいるところは嫌なんじゃないのか? どうせ、まだ信用してないんだろ?」
あの部屋でそんなことを言って、魔力を食わされた気がする。
ファイリスが首を振った。
「いや、辺境で人を集められると動きがわかりづらい。むしろ王都で暮らしてもらったほうが管理がしやすい。そういうことだろう」
「いや」
ファイリスの説明に、上司男が首を振った。
「君には、これから魔人を倒すことに協力してもらいたい」
「隊長?」
「頼む」
上司男はテーブルの前でひざをついて、床に手をついて、頭を下げた。
「隊長!」
上司男の横にいた男が腰を浮かせる。
「協力してもらいたい!」
上司男は下を向いたまま言った。
「協力って、まだなんか利用されるわけ?」
俺が言うと上司男は顔を上げた。
「率直に言って、そうだ」
「ローブ野郎たちは俺を生贄にしようとした。あんたたちは俺に、魔人を食わせようとしてる。大して変わんねえなあ」
これまでのことを考えると、俺を、魔人を倒す道具として活用して、やったー! ってなものだろう。それくらい、俺は頭がいいのでわかる。
「全然、見下してたくせに、役に立ちそうだから協力してくれって頭下げるの、基本、ローブ野郎と全然変わらないよな」
「……協力してほしい」
「俺の話聞いてる?」
「協力してほしい。魔人の絶滅に。それをやってもらえるならなんでもする」
上司男は頭を下げた。
「隊長」
「魔人をすべて殺したい。そのためならなんでもする。なんでもだ」
「なにもしてほしくない。なんなら、ここで降ろしてもらって、二度と関わらなくてもいい」
「頼む」
「あんたたちと、ローブ野郎と、なにがちがうんだよ」
上司男は顔を上げた。
「お前だって、魔人がいなくなってほしいだろう。自分の大切な人を失いたくないだろう!」
「話をそらすな」
「……平和のためだ! お前は魔人が生きていていいのか!」
「どうでもいいよ」
俺は言った。
「お前らさあ。俺が喜ぶと思ってるんだろ? 魔人を倒す世界の救世主にしてあげようとしてるのに、こんなにこいつが頼んでるのに、なんでこんなこと言ってんだ? まだ、いい気分にさせてやらないといけないのか? って思ってんだろ?」
俺は、上司男のとなりにいたやつと、ファイリスを見た。
「俺はだんだん後悔してきたぞ。さっき死ねばよかったな。お前らが出した魔力にぶつかってやってもよかったし、杖の魔人に殺されてもよかった」
オレンジジュースみたいにおいしい魔力も、もうくれないし。
「お前らってなんなの?」
上司男が顔を上げ、俺をにらみつけた。
「なに?」
「いや、すまない。お前は杖の魔人を仕留めてくれた……。弓もいない……。あとは、鎧と、剣だ。それだけでいい。お前が望むものをすべて、用意するよう、努力する。だから頼む……」
上司男は頭を下げた。
弓。
あいつはどうしたんだろう。
「魔人は、それで終わりなのか?」
「そうだ。四種類だ。お前は、その中でもやっかいな杖を沈めてくれた。しかも本拠地にいる杖を」
「なにがやっかいなんだ」
「やつは、氷のような力を使う。いくつかの町が凍りついた。多くの人が凍りついた」
「じゃあ、もう溶けたのか」
「いや。魔人の生死は問題じゃない。ファイリスの腕も治っていない」
「切れてるからな」
俺はファイリスを見た。
切れた腕は袋に入っている。断面は凍りついたようになっていた。
「それは逆によかった。杖の氷で保存されている。くっつくかもしれない」
「ローブ野郎も生きてるのか?」
凍りついたローブ野郎も連れてきているらしい。連れてきたんだっけ?
「生きていてもらわないと困る。情報を引き出す。杖の、次の犠牲者が出なくなった。ありがとう。感謝する。何百年かかるかわからない戦いが、終わるかもしれない。感謝する……」
上司男は、馬車の床に頭をつけた。
ごと、ごと、という音がする。馬車の揺れるのに合わせて、頭が床に軽く当たる音だ。
「王都まで、どれくらいかかるんだ」
「夕方には……」
「近いのか」
「これは馬車であって、馬車でない。特別にならした道を走っている。王都は遠い」
俺は窓の外を見た。
草原がゆったり流れていくように見える。
でも、いつまでたっても草原だ。
景色が同じ。
「なにがちがう?」
「速度だ。そのためにまわりの人間がいる」
上司男は短く言った。
この馬車のまわりを馬が走っている音は聞こえる。
でも窓から姿は見えない。
なんかすごいのか。
しらんけど。
「俺は、鎧も食ったぞ」
俺が言うと、上司男は、ぱっ、と顔を上げた。
「鎧を? まさか……?」
「ローブ野郎に連れていかれて、生贄にされて、でも鎧を食べたから帰ってこられた」
「ではもう、鎧はいない……?」
「他に鎧がいないなら」
「あとは、剣だけ!」
上司男は立ち上がった。
笑顔で、上の方を見ていた。
「あとは、剣だけ……!」
「……」
「なんでもする。わたしの稼ぎも、家も、すべてお前にやろう! 命だってやろう!」
「いらねえって言っただろ」
俺は外を見た。
「それに、弓はまだ生きてるぞ」
「なに?」
「俺の体にくっついてた」
「そんなはずはない」
上司男は立ち上がった。
「やつは、我々の手で倒した! まちがいない!」
「あっそ」
「ああ。これで、魔人を倒せるかもしれない!」
上司男のうれしそうな声が聞こえた。




