21 味
「なるほど……」
ちょっと前と同じように、俺とファイリス、上司男はあの部屋にいた。
他に人はおらず三人だけだ。
「言いたいことはわかった。彼が、装備持ちの魔人を倒したと」
上司男は言った。
「はい。杖の魔人でした」
ファイリスがこたえる。
「それを、どうしたって?」
「ですから食べました」
「食べた。なるほど」
上司男は椅子に座っていた。脚を組んでいる。
「君は、そうできることを知っていたのか」
と俺に言う。
「はあ。まあ」
「なぜ言わなかった?」
「は?」
「さっき話したとき、そういうことができると報告できただろう。なぜ言わなかった」
「きかれなかったので」
「なるほど。……弓の魔人を倒すこともできたんだな?」
「たぶん」
「なぜそうしなかった」
「なにごともなく、終われそうだったんで」
「そうか。……いるか?」
上司男は、ドアの外に話しかける。
「はい!」
声がした。
「入ってくれ」
上司男が言うと、ドアが開いてぞろぞろ五人も入ってきた。
「君が」
上司男は俺を見る。
「君が我々に協力してくれるのなら、人間にとってこんなに頼れることはない。だが、すこし気になることがあってね」
「はあ」
「膨大な魔力を食べるというのは、どうもね。信じがたい」
上司男が変な笑みを浮かべる。
「別に信用してほしいとも思ってませんけど」
俺が言うと、上司男は首を振った。
「ここだけの問題ではない。悪いがね。君の、その話をあちこちでされては困るんだよ」
「は?」
「これから魔力を出すから、それを吸い取ってみてくれ」
「は?」
「ではいくぞ」
「ちょっと待ってください!」
ファイリスが言う。
「なにをするんですか!」
「別に殺そうってわけじゃない」
「あたりまえです!」
「いいか」
上司男は前傾して手を組んだ。
「ファイリス。彼が、魔人を吸い取れる、などという話を広められては困るんだ」
「なぜですか!」
「……どういうことかわからないが、ファイリス、君もそれを信じている。だが、こちらからすれば、そんないい加減な話を広めてもらっては困るだけだ」
「魔人を吸う? 装備持ちを? それができる人間? そんな話をすれば、信じて、頼る者が大勢現れるだろう。そうなればどうなる。わけのわからない集団ができあがる。魔人に捧げる会、のような。これ以上、魔人以外に悩まされる存在はいらないんだよ」
「そんなことをしても魔力の無駄です!」
ファイリスは言った。
「隊長!」
「そこまで言うなら、さて。本当に魔力が吸えるのかどうか、たしかめようじゃないか」
上司男が手をあげた。
五人の手が光る。
「隊長!」
「危険なことをするわけじゃない。魔力を近づけるだけだ。だが、変に動くと危ないぞ。ファイリス、君も注意をしろ」
「俺は動かなければいいんだな?」
五人が魔力? を俺に放った。
ぼんやりと、人間くらいの大きさのかたまりみたいな光が浮かぶ。
それがすすす、と俺に近づいて、囲んだ。
言ったとおり、俺にぶつけるわけじゃない。
白ローブ女を閉じ込めたあれともちがう。
魔力で殺すとかそういうことを考えているわけではなさそうだ。
「もっと近づけろ。君! どうにもできないなら、動くなよ!」
上司男は俺に言った。
その声の通り、光が近づいてくる。
近い。顔のすぐ近くだ。
振り返ったら、体のどこかがぶつかるかもしれない。
やっぱり殺そうとしている可能性もあるな。
「どうだ! どうにかできるなら、やってみろ!」
上司男が言う。
どうにか。
正面の光に顔が近い。
ちょっと前傾して、口をつけてみる。
そうしたら、吸おうと思わなくても口の中にするりと光が入ってきた。
「う……!」
がつん! と頭を殴られたような衝撃が。
「だいじょうぶか!」
ファイリスが言う。
だが。
「うまい!」
魔人の魔力とちがっておいしい!
こんなに味がちがうのか。
横の魔力も吸ってみる。
「うううまい!」
その次も。
うまい!
うますぎる!
どんどん吸っていったら、すぐなくなった。
「ど、どうだ」
ファイリスが言う。
「オレンジジュースくらいおいしい!」
俺が言うと、ファイリスはにやりとした。
「もう一回。もう一回やってみろ!」
上司男は言った。
「お願いします!」
俺が期待を込めて言うと、上司男の顔がひきつった。




