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21/36

21 味

「なるほど……」


 ちょっと前と同じように、俺とファイリス、上司男はあの部屋にいた。

 他に人はおらず三人だけだ。


「言いたいことはわかった。彼が、装備持ちの魔人を倒したと」

 上司男は言った。

「はい。杖の魔人でした」

 ファイリスがこたえる。

「それを、どうしたって?」

「ですから食べました」

「食べた。なるほど」


 上司男は椅子に座っていた。脚を組んでいる。


「君は、そうできることを知っていたのか」

 と俺に言う。

「はあ。まあ」

「なぜ言わなかった?」

「は?」

「さっき話したとき、そういうことができると報告できただろう。なぜ言わなかった」

「きかれなかったので」

「なるほど。……弓の魔人を倒すこともできたんだな?」

「たぶん」

「なぜそうしなかった」

「なにごともなく、終われそうだったんで」

「そうか。……いるか?」

 上司男は、ドアの外に話しかける。


「はい!」

 声がした。


「入ってくれ」

 上司男が言うと、ドアが開いてぞろぞろ五人も入ってきた。


「君が」


 上司男は俺を見る。

「君が我々に協力してくれるのなら、人間にとってこんなに頼れることはない。だが、すこし気になることがあってね」

「はあ」

「膨大な魔力を食べるというのは、どうもね。信じがたい」

 上司男が変な笑みを浮かべる。


「別に信用してほしいとも思ってませんけど」

 俺が言うと、上司男は首を振った。


「ここだけの問題ではない。悪いがね。君の、その話をあちこちでされては困るんだよ」

「は?」

「これから魔力を出すから、それを吸い取ってみてくれ」

「は?」

「ではいくぞ」

「ちょっと待ってください!」

 ファイリスが言う。


「なにをするんですか!」

「別に殺そうってわけじゃない」

「あたりまえです!」

「いいか」

 上司男は前傾して手を組んだ。


「ファイリス。彼が、魔人を吸い取れる、などという話を広められては困るんだ」

「なぜですか!」

「……どういうことかわからないが、ファイリス、君もそれを信じている。だが、こちらからすれば、そんないい加減な話を広めてもらっては困るだけだ」


「魔人を吸う? 装備持ちを? それができる人間? そんな話をすれば、信じて、頼る者が大勢現れるだろう。そうなればどうなる。わけのわからない集団ができあがる。魔人に捧げる会、のような。これ以上、魔人以外に悩まされる存在はいらないんだよ」

「そんなことをしても魔力の無駄です!」

 ファイリスは言った。


「隊長!」

「そこまで言うなら、さて。本当に魔力が吸えるのかどうか、たしかめようじゃないか」

 上司男が手をあげた。


 五人の手が光る。


「隊長!」

「危険なことをするわけじゃない。魔力を近づけるだけだ。だが、変に動くと危ないぞ。ファイリス、君も注意をしろ」

「俺は動かなければいいんだな?」


 五人が魔力? を俺に放った。

 ぼんやりと、人間くらいの大きさのかたまりみたいな光が浮かぶ。

 それがすすす、と俺に近づいて、囲んだ。


 言ったとおり、俺にぶつけるわけじゃない。

 白ローブ女を閉じ込めたあれともちがう。

 魔力で殺すとかそういうことを考えているわけではなさそうだ。


「もっと近づけろ。君! どうにもできないなら、動くなよ!」

 上司男は俺に言った。

 その声の通り、光が近づいてくる。

 近い。顔のすぐ近くだ。

 振り返ったら、体のどこかがぶつかるかもしれない。

 やっぱり殺そうとしている可能性もあるな。


「どうだ! どうにかできるなら、やってみろ!」

 上司男が言う。


 どうにか。

 正面の光に顔が近い。

 ちょっと前傾して、口をつけてみる。

 そうしたら、吸おうと思わなくても口の中にするりと光が入ってきた。


「う……!」


 がつん! と頭を殴られたような衝撃が。


「だいじょうぶか!」

 ファイリスが言う。

 だが。

「うまい!」

 魔人の魔力とちがっておいしい!


 こんなに味がちがうのか。

 横の魔力も吸ってみる。

「うううまい!」

 その次も。

 うまい!

 うますぎる!


 どんどん吸っていったら、すぐなくなった。


「ど、どうだ」 

 ファイリスが言う。


「オレンジジュースくらいおいしい!」

 俺が言うと、ファイリスはにやりとした。


「もう一回。もう一回やってみろ!」

 上司男は言った。


「お願いします!」

 俺が期待を込めて言うと、上司男の顔がひきつった。

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