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16 これでいいのか?

 上司男とファイリスに、ある建物に連れていかれた。

 がっしりした、石でできたような建物だ。

 大きいけれど、玄関はそれほど広くなく、廊下を歩いた。


 廊下を歩いて、つきあたりの扉をファイリスが開く。

 中は、椅子がたくさんならんでいた。

 30くらい?


 窓からの光で中はそれなりに明るい。


 椅子はひとつひとつの間が椅子ひとつぶんくらいずつあいていて、部屋はほとんど、それでいっぱいだ。


 椅子のならぶ前に人が立っている。さっきの上司男だ。


「座ってくれ」

 上司男は言った。


 ファイリスが真ん中くらいの椅子に座ったので、俺はそのとなりに座る。

 上司男は正面の壁の前に立ったままだった。


「君の協力もあって、弓の魔人を始末することができた。礼を言う」

 上司男は言った。

 さっきは魔人を倒すから、なのかと思ったが、いまも怒ったような、にらみつけるような顔をしている。ふだんからこうなんだろうか。


「君がいて、魔人は油断したようだ」

 上司男の言葉に、ファイリスはうなずいた。


「彼は、魔人に対して過剰におびえるところがなかったため、自然体で接したことが、町の中でも暴れたりさせることなく過ごせたのではないかと考えられます。我々だけだとどうしても、戦いを意識させてしまったでしょう」

「たまたまでしょ」

 俺が口をはさむと、ファイリスが、きっ、とこっちを見る。


「バカ、変なことを言うな」

 小声で言う。

「偶然であろうと、協力には感謝を惜しまない。礼を言う」

 上司男は言った。

 顔だけで言ったらかなり怒っているみたいに見える。


「礼を言う。っていうのは?」

「なに?」

 ファイリスが俺を見る。


「ありがとう、が礼を言う、なんじゃないのか? 礼を言う、って礼を言ってるのか?」

 なんだか、これから礼を言う、と前置きしているみたいじゃないか?

「変なことを言うなと言ってるだろ」

 ファイリスが、肘で軽く俺を押した。


 上司男の表情は変わらない。怒っているように見えるままだ。

 もしかしたらずっと怒っているのかもしれない。


「君が、行くあてがないことは聞いている。別の部署で、君のこれからの生活の手配をする」

「どうも」

「だがその前に、君が生贄にされた、という話について詳しく聞きたい。その犯人と思われる男が町中を逃げているそうだな」

「別人の可能性もあるかもしれないですけど」

 俺は思ってもいないことを言った。


「逃げたのは事実だ。確認する」

「はあ」

 急にあくびが出た。

 そのままふわああ、とやったら、ファイリスが肘で俺を押す。


「おい!」

「お、おお」

 押されたらよろけて、椅子から落ちそうになった。あわててファイリスが俺を捕まえる。


「お、おい、だいじょうぶか」

 ファイリスがちょっとあせったように言う。

「疲れているようだな」

 上司男は言った。


「一般人には、緊張が長く続きすぎたのかもしれません」

 ファイリスが同意する。

「こちらもこれから別の仕事がある。続きは明日にしよう。部屋を用意する。朝食をとったらここで待っていてくれ。また明日、ここで会おう」

「あの」

 俺が言うと、出ていこうとする上司男が立ち止まった。


「なんだ」

「……ほんとに、あれでいいんですか?」

「あれで、とは」

「だまして、殺して」

「もちろんいい」

 上司男は俺に向き直った。


「君は、姿かたちから、やつを人間と同列に考えているようだ。しかしまったく別物だ。やつらは人間について、養分と考えていたり、あるいは観察対象と見ているのかもしれない。だが、魔人と同列には見ていない」

「俺の前では、話もできたし、まともにしろって言えばまともにするように見えましたけど」

「そうか」

「はい」

「人間に興味がある、とでも言っていたか?」

「はい」

「わたしも昔、虫に興味があったよ。網を使ったり、ワナをつくって、捕まえたこともあった。……虫は、標本にしたいなら、殺してすぐ、乾燥させる必要がある。それを知らずに処理をあやまって、変な虫がわいてしまったこともあった。でもわからず、同じことをした。きちんとした処理ができるまで、無駄に殺してしまったよ」


 上司男は、じっと、俺を見た。

「無駄に虫を殺したと、後悔した。ただ、やめなかった。そして、うまく処理ができたときはうれしかったよ。虫を知ることができたとね。いまでもまだ、実家に飾ってあるかもしれない」

「いまもやってるんですか」

「いや」

「どうしてですか」

「どうしてだろうね」

 上司男は、ふっ、と無表情になった。


「また明日」

 上司男は部屋を出ていった。

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